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加藤健一事務所『サンシャイン・ボーイズ』、W主演の加藤健一&佐藤B作が語った~「ふたりが立っているだけで見せものになる」

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加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』左から、佐藤B作、加藤健一。

加藤健一事務所『サンシャイン・ボーイズ』(作:ニール・サイモン、演出:堤泰之)を、2022年3月3日(木)〜14日(月)下北沢・本多劇場で上演する。この公演は、2020年に上演が予定されていたが、新型コロナウイルス感染症 緊急事態宣言が発出されたため、延期となった。それが今回、加藤健一事務所創立40周年、加藤健一役者人生50周年記念公演第一弾として、このほど改めて上演されることとなった。2018年に他界した米劇作家ニール・サイモンの追悼も兼ねる。

実は、本作にて往年のヴォードヴィルの大スター・コンビを演じる加藤健一佐藤B作に、彼らのこれまでの演劇人生と重ねて、舞台の見どころについての取材を、2020年4月の時点でおこなっていたのだが、公演延期の決定により「お蔵入り」となっていた。しかし、このほど、2022年3月3日に公演初日を迎える機に、この2年前の幻のインタビュー記事も公開させていただく。

■加藤健一役者人生50周年を祝して

──今回(2020年)、加藤健一事務所が創立40周年、加藤さんが役者人生50周年を迎えますが、その2年前に、佐藤B作さんが結成された東京ヴォードヴィルショーも45周年でした。そこで、はじめに加藤さんの方から、東京ヴォードヴィルショーに言葉をいただけますか。

加藤 45周年が2年前なので、いまは47周年になりますね(2022年現在は49周年)。

佐藤 そうですね。

加藤 いやあ、すごいなあと思います。47年前は、ちょうどぼくがつかこうへい事務所の公演に出演しはじめたころですね。ですから、あのころ、もう劇団を作っていらっしゃったんだなと。

佐藤 いやあ、ほとんど客が入らないころでしたね(笑)。

加藤 でも、あのころから続けて、大勢の劇団員を背負って走っているという、その力がすごいなと思います。やっぱり、人望がなかったら誰も付いてこない。

佐藤 何を言いますか。とんでもない。

──では、今度は佐藤さんの方から、加藤健一事務所創立40周年、役者人生50周年について、言葉をいただけますか。

佐藤 いやあ、それはもう本当に尊敬ですね、大尊敬で。しかもウチの47年間には芝居をやらない年もあるんだけど、加藤さんは毎年2本から3本、ちゃんと自分で選んでなさっているという、それがすごいなと思って。どれだけ演劇のことを考えて生きてるんだろう。その生きざまが潔くて素敵ですね。おめでとうございます。

加藤 B作さんも役者人生は50年ぐらいですよね。

佐藤 おれ、数えたことないけどな。

加藤 でも、劇団を結成する3年ぐらい前からやってますよね。

佐藤 そうですね。自由劇場とかでやってます。

加藤 おたがい齢も同じですし、すぐ隣をいっしょに走ってきたという感じがします。

加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』(ニール・サイモン作、堤泰之演出)のチラシ。



■ニール・サイモン作品の魅力

──『サンシャイン・ボーイズ』のふたりは、コンビを組んで43年。そのうえ、顔を見なくなって11年、口を利かなくなって12年というコメディアンの話ですが……

加藤 だから、全部で55年ですね。

──今回、ウィリー・クラークを演じるにあたって、ニール・サイモンの台詞から感じるものはありますか。

加藤 ニール・サイモンの芝居は人物構成がしっかりしていて、しかも、流れが非常にいいので、やりやすいです。自分の体が自然に役に溶けこんでいくみたいな感じで、無理矢理作らなくても、役に入っていける感じがしますね。何本もニール・サイモン作品をやっていますが、どの役もとてもやりやすいです。

──B作さんは東京ヴォードヴィルショーという劇団の中心人物ですから、ヴォードヴィリアンといってもよいと思いますが……

佐藤 痛いところを突いてきますね(笑)。

──そういう立場から、アル・ルイスの台詞をお読みになって、どんな感じですか。

佐藤 いやあ、よくわかりますよね。劇団を作って、既成の戯曲はほとんどやらずに、創作劇で笑いを取ることを一生懸命やってきた。それがだんだんと演劇的になってきた気がするんで、今度のニール・サイモンの戯曲は、本当にわたしのためにあるような(笑)、そんな気がしますね。

──特に気に入った台詞はありますか。

佐藤 まだ全部は稽古をしてないんですけれども、最後の方で、相棒のウィリーが倒れた後に来るシーンなんか、心情的にいいなという感じがしますね。

──お見舞いに来るところですね。

佐藤 お見舞いなのか、なんなのか。まあ、お見舞いなんでしょうね。

加藤 ニール・サイモンの場合は、しゃべりたくなるような台詞ばっかりなうえに、そのすべてが全部興味深い言葉で。いい言葉を選んでくる。どうやってこれらの言葉を紡ぎだしたんだろう。

加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』ウィリー・クラークを演じる加藤健一。 (撮影/石川純)



■『サンシャイン・ボーイズ』の決定版に向かって

──これまでに『サンシャイン・ボーイズ』は、数々の名優によって上演されています。たとえば、テアトル・エコーの熊倉一雄さんと納谷悟朗さんのウィリーとアルのコンビも見応えがありました。今回の上演で思い描いているイメージがありましたら、教えていただけますか。

加藤 大先輩がやっていらっしゃる。パルコでもやってますよね。江守徹さんと……

佐藤 西岡徳馬さん。

──パルコは2008年の上演でした。

加藤 映画でも、ウディ・アレンとピーター・フォークのコンビでやっています。いろんな名優がやっているので、名前を聞くと怖気づくんですが、さいわい誰の舞台も映画も観ていないので、ぼく流にやればいいかと思っているんです。

相手役にB作さんがいてくださるので、ものすごく心強い。コンビとして、とてもよく見えるんじゃないかという自信はありますね。

──B作さんはいかがですか。

佐藤 まあ、西岡さんから脅かされたんですけどね。「おまえ、やるんだってな」とか「あれはいい芝居だぞ」とかおっしゃって。エコーの舞台も評判だけ聞いて、拝見してないんですけれども、最後はお客さんが入りきらなかったという。

やっぱり、やるからには、その上を行きたいというか、本当に笑えて泣けてという感じにしたいと思いますね。『サンシャイン・ボーイズ』と言えば、加藤健一と佐藤B作だと言われるような舞台にしたい。

加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』アル・ルイスを演じる佐藤B作。 (撮影/石川純)



■喜劇と笑いと、さらにその先にあるもの

──加藤さんもB作さんも、喜劇に挑戦されることが多いと思います。喜劇にこだわられる理由はありますか。

加藤 ぼくが喜劇だと思っているのは、レイ・クーニー作品ぐらいなもので、他はあまり喜劇とは意識していないんです。レイ・クーニーはたしかに喜劇で、笑わなければ意味のない芝居だと思うんです。笑いだけが頼りで進んでいく。笑わせることでお客さんを元気にして、明日の活力を得るという芝居。ニール・サイモン作品もよく笑いますけど、泣くところもあるし、喜劇とは括りにくいんじゃないかな。

──B作さんはいかがですか。

佐藤 2時間ちょっとで、静かに始まって静かに終わる芝居も、ぼくは嫌いじゃない。好きなんですけど、自分たちで舞台をやるときに、入場料分の少しでもお返しができたかなという手応えを感じるのは、笑いなんですよ。お客さんがどっと笑ってくれると、ああ、ちょっとは楽しんでもらえて、少しはお返しができたのかなと感じられるんでね。

静かに始まって静かに終わると、お客さんたちはどうだったんだろう。楽しんで帰ったのかなと、すごく不安になるんで。まあ、笑ったからいいのか?ということにもなるんだけど。

若いときは、笑ってもらえればよかったんだけど、年をとってくると、今度は笑いの先に何を用意しているんだというのが気になってきて。最近は、笑いももちろん大事なんだけど、その先の、ちょっとお客さんがいい気持ちになるというか、感動するみたいなことを用意しないといけないなという感じがしますね。

加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』(ニール・サイモン作、堤泰之演出)稽古場風景。 (撮影/石川純)



■役者として次の世代に伝えたいこと

──加藤さんもB作さんも、息子さんが役者をされています。今回は加藤さんの長男・義宗さんも出演されますが、自分が役者として演じることを通して、次の世代に伝えたいことはありますか。

加藤 ぼくたちがやってる芸術活動は、商業活動とは少しちがう。二番目ぐらいに商業活動が来て。一番目には芸術活動が来なきゃいけない。そのことは伝えたいといつも思ってます。最初にいくら儲かるかを考えるなら、この世界にいてもあまり意味がない。自分を表現する活動にいちばん重心をかける。そのためにこの世界に入ったことを忘れないようにすることが、いちばん大事なんじゃないかな。そのことは若い人たちには伝えたいなと思いますね。

ぼくが最初に養成所に入って……俳優小劇場という劇団でしたけれども……初めてプロの役者・小沢昭一さんと会ったときも、面接のはじめに「食えないぞ、いいのか」と言われて、「いいです」と言った気持ちを忘れないようにしたいと、ずっと思っています。そこは伝えたいなと。どっちを向いて歩いていくのか、歩いていく方向性をちゃんと自分で決めなさいと。

──B作さんの息子の佐藤銀平さんは、劇団サスペンデッズで活躍されています。ala Collectionシリーズの小山内薫作『息子』でも共演なさいましたね。

佐藤 あいつの母親が精神科の医者で、母親はそっちの世界に来てほしかったらしいんですけど、大学の学部を選ぶときに、なんかおれは息子にこっちの世界に来てほしかったんだよね。

──角野卓造さんの後輩になりますね。

佐藤 そうなんですよ。おれは精神科の世界よりも楽しい世界があるぞと息子に教えたかったんだよね。で、まあ苦労はするだろうけど、苦労した分、こっちの方が楽しいよと。まだまだ苦労してやってますけれども、話をすると、一年毎に言うことが少し大人になっていて、うれしいと思うことはありますね。

俳優としてはまだまだ大変で、初めて親子でやったときにあんまり芝居ができないんでびっくりしたから「おまえ、残れ」と言って、ふたりっきりで何日間か稽古やったんだけど、すごく切なかったね。でも、少しはこっちに来いよと声をかけたことへのお返しみたいなことも、父親としてできたのかなと。父親として息子に何もしていないから、家庭を顧みずに勝手に生きてきた親父だったんで、そういうことが少しできたことが自分はうれしかったというか、よかったなと思ってますね。

加藤健一事務所公演『サンシャイン・ボーイズ』左から、佐藤B作、加藤健一。(2020年4月のインタビュー時)



■舞台上の世界に実人生を重ねあわせる

──往年の名コンビ、サンシャイン・ボーイズによるふたりは、コンビを組んで43年間の活動について述懐しながら、新たに稽古をする場面があります。これまでの長い役者生活を振り返りながら、今回の『サンシャインボーイズ』を演じることについて、ひと言ずついただけますでしょうか。

加藤 そうですね。本当に50年間、いろんなことがありました。つらいことも苦しいこともありましたが、舞台の上で遊んでいたくて始めた仕事です。遊ぶためにはつらいこともあるようなものですから、振り返れば楽しかったなあという。

その50年間のいろんな積み重ねとか、ダメだった垢みたいなものとか、そういうものがB作さんといっしょに、ふたり分が合わさって、雑巾をしぼるようににじみ出てくれば、それがもう見せものになるかなという感じがしています。だから、演技がどうこうというよりも、そこにふたりが立っているだけで、これは見せものになるなと。

──いい出汁(だし)が余すところなく出ている舞台。

加藤 そういう感じになればいいなと思ってますね。だから、ニール・サイモンが書いたストーリーと、もうひとつ、別のものも併せて見てもらえるんじゃないか。つまり、B作さんとわたしの人生と、サンシャイン・ボーイズのふたりの人生を重ねながら見ていただけるんじゃないかなと。それはとてもすばらしい舞台になると確信しています。

──B作さんはいかがですか。

佐藤 黒テント、自由劇場、東京ヴォードヴィルショーと、いままでずっと続けてきた。若いときを振り返ると、誰よりもいちばん笑いをとってやるぞ!という精神で、ずっとやってきた気がするんです。自由劇場でもまわりにはいろんな人がいました。東京ヴォードヴィルショーでも、創立メンバの男5人は仲間のようであり、ずっとライバルで。今日は誰がいちばん笑いをとったか?みたいなことで酒飲んでましたから(笑)。いまこの歳になって、芝居というのが、たまりません。この作品に重なるところがたくさんあります。

ただ、やっぱり稽古場で立ってみると、何十年芝居をやってきても、稽古の初日というのは、なんの力にもならんなと思い知ります。いつもゼロから作っていくんだということを突きつけられ、毎日毎日、諦めることなく、戯曲と向かいながら、ない知恵をしぼって考えて、稽古でつらい思いをしようと思っています。まだまだ稽古の先は長いぞという感じがしてますね。

(取材・文/野中広樹)

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