発達障害「診断を受けて一安心」じゃなかった…二次障害を防ぐための「2歩下がる」親の勇気【医師が解説】
不登校や不眠・鬱など発達障害の「二次障害」。予防のための3つの視点、起きてしまった時の相談先、親の向き合い方。わが子の特性を理解し「自立」を支えるための知識を、専門医に取材
【画像を見る➡】不器用・集中できない原因は「眼」? 医師が教える発達の特性同級生とのトラブルが絶えない、授業についていけない──。そんな学校での困りごとに潜む、子どもたちの発達障害。文部科学省の全国調査(2022年※)では、小中学校の通常学級に通う子どもたちの約8.8%(約11人に1人)に、発達障害の可能性があると報道されています。
発達障害がより広く知られるようになった今では、投薬や療育といったサポートを受けながら、学校生活を送る子どもたちが増えています。しかし、適切な支援に繫がり、本来の特性による困りごとが減った後でも、不眠や不安、不登校など、「新たな問題」に直面するケースが少なくありません。
(※文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」〔2022年12月13日〕、P4 )
診断後の安心に潜む「二次障害」の正体
発達障害への対応はできているはずなのに、新たな困りごとが出てしまう──「二次障害」と呼ばれるこの状況は、なぜ起こるのでしょう。「そこには発達障害ならではの、いくつかの難しさがある」と、小児精神科医・古荘純一先生(日本発達障害連盟理事)は説明します。
「発達障害は、診断と対応までに時間がかかります。発達に特性を持つ子どもの多くは診断までの時間で、怒られる経験や対人関係のトラブルを、たくさん重ねている。診断を受けるまでに、『どうせ自分はできないんだ』と自信を失って、疲れ果ててしまっているんです。対応が始まって困りごとが減っても、自信のなさから不安が深まる『二次障害』が起こりえます」(古荘先生)
また発達障害には、「いくつかの特性や別の疾患が重なっている」という難しさも。
「発達障害には主に4つの分類がありますが、そのうちのいくつかの特性を、重ねて持っている子どもは少なくありません。その場合、最初に診断されて対応した特性の症状が落ち着くと、重ね持っていた別の特性の症状が、より目立つようになることも。それに対応できないと、困りごとが繰り返されて、二次障害が起こりやすくなるのです」 (古荘先生)
この二次障害についてはまだあまり知られていません。どのように起こるのか、それを防ぐ方法や起こったときに保護者がするべきことを、古荘先生に伺います。
発達障害の二次障害のリスク
写真:KeyRabbits/イメージマート
発達障害とは生まれつきの脳の特性から、見たり、聞いたり、覚えたりする力(認知能力)の発達に凸凹(極端な得意・不得意)があったり、発達に遅れが出たりして、生活での困りごとが大きくなるもの。
その困りごとが脳の特性から来ているのか、生活習慣や他の障害(軽度知的障害など)から来ているのかの見極めが難しく、診断に時間がかかります。
そしてこの「特性の重なり」「見極めの難しさ」から、発達障害の診断や対応が進んでも、別の困りごとが続いてしまう『二次障害』が起きています。
二次障害には、いくつかのケースがあります。
「一つは、その子の主な障害がADHDなど『投薬で対応できる特性』の場合です。投薬で多動や不注意などの症状が緩和され、落ち着いて授業に参加できるようになったのに、勉強についていけずに困ってしまう。境界知能や、知覚・聴覚など薬では対応できない特性を併せ持っている子どもに多く、それまでADHDに隠されて目立ってこなかった特性に、対応できていないことから起こります。ADHDの診断のみは全体の3分の1ほどで、残りはほかの診断も併せ持つ、という文献もあります」(古荘先生)
それまで困っていた主な症状が改善したと思ったら、別の困りごとが目立ってくる──。
主な症状の困りごとで自信をなくしていたり、疲れが蓄積していた子どもたちは、この「別の困りごと」の連続で、より不安を深めてしまったり、学校に行けなくなってしまうのです。
投薬後の「期待」が、子どもを追い詰める?
また薬で症状が落ち着くことで、まわりの人の接し方が変わる影響もあります。
「親や教師が『これでこの子も、他の子と同じようにできるようになる』と安心し、学習や生活態度へのハードルを一気に上げてしまう。すると本人への負担が投薬前よりも増え、達成感が得られず、『自分はやっぱりダメなんだ』と自信を失う状況になります」(古荘先生)
発達障害は診断や対応に時間がかかりがちですが、その間に学年が上がって、同級生の学習や能力獲得のスピードが加速していきます。
すると、子ども本人の症状が投薬で緩和しても、周りの子との差は縮まらず、むしろ開いていく……そこから、勉強や学校に行くこと自体がつらくなってしまう、というケースもあります。
二次障害を防ぐ3つのポイント
時間をかけて困りごとに向き合い、やっとのことで発達障害の診断を受け、対応が始まった。症状は緩和しているのに、子どもは別のつらさの中にいる……。二次障害は当事者の子どもはもちろん、保護者にとってもやりきれない、胸の痛い状況です。
ですが二次障害は、必ず起きてしまうものでもありません。親や周囲がいくつかの点に気をつければそのリスクを減らせる、と古荘先生は次のように説明します。
発達障害の診断後に二次障害を防ぐには
写真:takasu/イメージマート
「まず、発達障害の特性は『一つ』と思い込まないことです。発達障害は個別性が高く、特性の重さ軽さだけでなく、重なりの有無やその度合いも違います。どんなケースでも、『その子に合った対応の選択肢』はある。それを医師や学校と一緒に見つけよう、と考えてください」(古荘先生)
2つ目は、発達障害の子どもは「その子の時間軸」で見守ること。
対応が功を奏したら、以前よりは確実に困りごとが減り、子どもはよい状態に進歩します。ですが、その子の生まれ持った特性がなくなるわけではありません。発達のペースはその子なりのものであることは、忘れてはいけないポイント。
急に「周りと同じように」を目指すのは、親子ともに、つらい状況を招くリスクがあります。
「投薬や療養によって、過去のその子よりは困りごとが減り、よくなっていきます。その進歩を大切に見守ることが、本人の自信につながる。他の子と比べるのではなく、その子の過去と今を見てあげるのが大切です」(古荘先生)
3つ目は、対応の効果が出て困りごとが減ってきたときに、「もっとやろう」とハードルを高くしないこと。
「親や先生は困りごとが減ると、これまでの遅れを取り戻すチャンス! と考えがちです。ですがそれは子どもにとっては、いくらがんばっても次々ハードルがやってきてしまう状態です。子どもはすでに、それまでの困りごとで疲れています。長い目で見て、余力を残せるようにと考えてください」(古荘先生)
二次障害が起こってしまったら、まずやるべきこと
発達障害から二次障害が起こってしまったら、子どもの行動や発言に、サインが出てきます。夜に眠れない、不安だ、療育に行きたくない、学校に行きたくない……など、親としては心配が募る状態です。
それでも対処方法はあると、古荘先生は説明します。
「二次障害が起こってしまったら、できるだけ早く対策を講じるようにしましょう。そのつど対応の仕方を考えられるので、家族の中だけで抱えないでください」 (古荘先生)
二次障害が認められたら、保護者がまずやるべきは「2歩下がる」意識を持つこと。そうすることで、子どもはこれまでがんばってきたのだと、認める余白を作れます。
その上で、主治医や学校とともに、対処法を考えていきます。
「不眠や不安などは、薬での対症療法があります。薬への忌避感は人それぞれですが、難しい時期を乗り越える助けになります。子ども本人が、服薬を望むこともあります。同じ薬をずっと使い続ける必要はなく、副作用を考慮して使い方に選択肢があるので、主治医とこまめに相談してください」(古荘先生)
発達障害の経過は長期的に考えねばならず、短期的な効果をもたらす薬の使い方も、長い目で見ていくもの。服用する薬が増えたり減ったりするのは、発達障害の対応では珍しくありません。
「そのためにも、医療機関とのつながりはなるべく切らないのがよいと思います。発達障害の対応は、小児科と精神科の間にあることが多いので、子どもの年齢が上がったときの医療機関の移行も、考えておきたい点です」(古荘先生)
そして何よりも大切なのは、保護者が一人で抱えず、相談をすること。
「二次障害による困難を誰に相談したらよいかわからない場合は、学校の『教育相談』の仕組みが利用できます。不登校やいじめなどの相談を学校が受けるシステムで、発達障害に特化したものではありませんが、スクールカウンセラーとの面談が行われ、親子別々に支援がついたり、学校外の相談先や専門家につながることもあります。発達障害の親の会では、親が不安に感じていることも相談できるかと思います」(古荘先生)
「いつか自立」を目標に、長い目で見守る
発達障害の子どもを持つ保護者には、「子どもを長い目で見てほしい」と、古荘先生。
「発達障害は時間の経過とともに状態が変わる、認知機能の特性の偏りの一つです。今は大変でも、1年後、2年後と、困りごとをひとつずつ減らしていくと、特性がほとんど目立たなくなるお子さんもいます」(古荘先生)
子どもの発達は段階をスキップしてもいいし、順番どおりでなくてもいい。発達障害はその子の『すべて』ではなく、その子が持っているたくさんの特徴のうちの一部。それだけに人生を縛られて、親子が振り回されないようにするための心持ちを、古荘先生はこうアドバイスします。
「親御さんには『いつか自立できたらよい』と、お子さんの先を長く見通してほしい。大変なときにも子どもの自己肯定感を下げないように、親子ともに余力を残していく、という考え方が必要かと思います」(古荘先生)
生まれ持った脳の特性とともに、この先の人生を生きていく、発達障害の子どもたち。困りごとが大きいときは本人はもちろん、親にとっても、大波に揉まれるような苦しさがあります。
だけどその大波は、人生という長い航海のひと時──いつか子どもが一人で漕ぎ出す自立の日までは、親子で波を乗りこなしていく。そんなイメージを抱けたらよさそうです。
参考:厚労省「発達障害者支援施策の概要」
取材・文/髙崎順子