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グルメ激戦区でも週末は最大4回転! 学芸大学『有縁』の“大人”を虜にする居酒屋のつくり方

飲食店ドットコム

食の仕事人
店主の蝶野慶一氏(右)と、「編集担当」の石川健太氏(左)

東急株式会社が進める東急東横線・学芸大学駅の高架下リニューアルプロジェクトで誕生した複合施設『GAKUDAI COLLECTIV』内に2024年11月オープン。約5坪の店舗に9席のカウンターを設え、王道の純米酒と小料理を楽しませる「大人の酒場」が、食感度の高い街で話題を呼んでいる。店主の蝶野慶一氏と、同店の「編集担当」として映像制作やSNS運営を担う石川健太氏に、「小さくて強い店」の極意を聞いた。

飲食や物販12店舗とコワーキングスペース、アトリエなどを備えた『GAKUDAI COLLECTIV』の一画に立地

目指したのは“大人が落ち着いて飲める店”

店があるのは、学芸大学から徒歩約7分。飲食店が密集し賑わいをみせる駅前とは異なり、閑静な住宅街だ。外観は白い暖簾がかかっただけの殺風景な造りだが、店内は茶室をイメージした洗練された空間となっており、「あえてギャップを設けることで、体験価値を高めています」と蝶野氏は説明する。

「大人が落ち着いて飲める店にしたかったので、若い人にとっては少し背筋が伸びるような空間を意識しました。接客のトーンも、少し緊張感のある雰囲気で始めて、徐々にリラックスしてもらうようにしています」

そうした狙い通り、主客層は40代以上。女性客が半数以上を占めている。

内装は、淡路島のヒラマツグミ一級建築事務所に依頼。稲藁を混ぜ込んだ土壁や、酒造りの「磨米」に着想を得た研ぎ出しのカウンターなど、日本酒にまつわるストーリーを織り込んだ(写真提供:有縁)
大学卒業後も定期的に連絡を取り合っていたという親密な仲の2人

編集のプロである石川氏とともに、思いを伝える店づくり

蝶野氏が独立前に描いていたのは、1~2人ですべてのお客の面倒が見られる、カウンター主体の店。とはいえ「自分以外の料理人がカウンター内にもう1人、というのはイメージがつかなかった」と蝶野氏は明かす。

「今の時代は、まずお店を知ってもらわないとお客さまに来てもらえません。お店のことや生産者さんのことを正しく、かっこよく、映像や言葉で伝えられる人が欲しいと思い、大学時代からの同級生である石川さんに声をかけました」

石川氏は東京から小豆島へ移住して7年間、醤油蔵でデザイン業務などを担当。東京へ戻ろうと考えていた折に蝶野氏から声がかかり、ともに店を立ち上げることになった。

「来店してくれた人を満足させることは僕の仕事なので、石川さんにはお店を知らない人に向けた施策をお願いしました」と蝶野氏。現在の石川氏の業務内容は、SNSの運営と、月1回の映像制作、新メニューや季節メニューの撮影など。加えて、営業中は店に立ち接客も担当しており、こうした発信が新規客の取り込みだけでなく、再来店にも大きく貢献していると蝶野氏は言う。

発信する内容については、絵コンテや企画書をもとに2人で話し合い決めるという(写真提供:有縁)

「開業当初は、『有縁とは』をテーマに、何が売りの店なのか、どんなシチュエーションで使える店なのかをわかりやすく伝えることに注力しました。第2段階はリピーター戦略として、季節感のある映像や旬なトピックを盛り込むことを意識。クローズドな店なので、『中の人』にもスポットを当てるべく閉店後の蝶野さんの映像を出したところ、反応がよかったので今後はそうした内容も増やしていく予定です。日本酒の生産者さんについては、開業前の酒蔵行脚で撮りためた写真があるので、徐々に発信して若い人に興味をもってもらえるようにしたいです」(石川氏)

日本酒は「爽快」「しっとり」「濃淳」「熟成」の4項目をガイドラインとし、好みの酒を選びやすいようにしている

王道の純米酒×小料理。当日コースも選べる自由度の高さも魅力に

コンセプトは「純米酒と小料理を楽しむ、大人の酒場」。日本酒は、蝶野氏が「王道の純米酒」と表現する、旨みの濃厚な純米酒を中心に、メニュー表に記載した30種に加え、季節の酒など常時約50種を用意。開業前に訪ねた全国の酒蔵を中心に揃えており、提供時に生産者のストーリーを交えて提供するほか、同じ銘柄で製造年や酒米の違いなどの飲み比べができるのも魅力としている。

1~2人客が多いため、すべて1/2合からの注文が可能(半合650~850円)。半合売りは注文がばらける分、手数が増えるうえに、量が少ないため燗をつける際に温度が上がりやすく管理の大変さも増すが、店主の目が届く小規模店だからこそ実現できる売り方だろう。

また、お客の視野に入るところに日本酒の冷蔵庫がないのも客席をカッコよく演出し非日常感を高めている理由の一つ。冷やからぬる燗、熱燗とお酒に適した幅広い温度帯で提供するほか、銘柄によっては開栓後、数日おいてから出すなど、専門性の高さも強みとなっている。

アラカルトは約30品。刺身は醬油以外の食べ方で個性を出しつつ、ササガレイの干物やエイヒレ炙りなどシンプルな肴も揃える。すべて1人前のポーションで提供

同様に料理も、「気軽に楽しんでほしい」と、開業当初はアラカルトのみとしていたが、ゆっくりと楽しんでもらえるように開業後5日目に「おまかせ」(8品5,800円)も用意。ただし、気軽さや自由度は大事にすべく、コースは予約制ではなく、当日その場で選べるようにして、内容のリクエストも可能にしている。

「割烹というよりはもう少しくだけた感じ」で、若い人にも来てもらいやすいようなメニューをラインアップ。蝶野氏の出身地・北海道のカラーを入れた「鮭クリームコロッケ」と「羊焼売 大 成吉思汗仕立て」を店のアイコン的存在に。現在はおまかせの注文が7~8割を占め、客単価は8,000~9,000円で推移している。

「鮭クリームコロッケ」(1個550円)。焼いた鮭の風味がクリームソースと調和する(写真提供:有縁)
日本酒と相性の良い「羊焼売 大 成吉思汗仕立て」(1個600円)。地元ではおなじみ、ベル食品のジンギスカンのタレをお好みでかけるのもユニーク(写真提供:有縁)

独立を見越して身につけた日本酒の知識

日本酒専門店での独立開業を早い段階で見据えていたという蝶野氏は、大学時代に日本酒への関心を深めたのをきっかけに、卒業後、横浜の『日本酒バル UMAMI』に入店。約3年間、調理と接客の両方をこなしながら日本酒の知識を幅広く身につけていった。

その後、独立に向けて「新店舗の立ち上げを経験し、マネジメントを学びたい」という思いから、カフェ業態をはじめ直営・プロデュースと幅広く事業展開している株式会社WATに入社。5年間在籍し、複数店舗の立ち上げやプロデュースを経験した。

そして独立前の総仕上げとして、『並木橋なかむら』などを展開する株式会社フェアグランドに入社。『蕎麦前 山都』六本木店を経て、麻布台ヒルズ店の立ち上げから統括マネージャーを務めた。

『有縁』のストーリー性のある店づくりや、空間の作り込み、おもてなしの接客などは、WATとフェアグランド、この2社から得るものが大きかったと蝶野氏は振り返る。

「WATのカフェ業態では、居酒屋に比べて食べ物や飲み物以外の部分が大きな意味をもち、店の設えや雰囲気なども含めた価値創出の重要性を学びました。また、数字に対して非常にシビアだったので細かな計数管理や、アルバイト比率が高いためチームビルディングについて学べたのも貴重な経験でした」と蝶野氏。

一方、フェアグランドで体得したのは、居酒屋業態で高客単価を実現するための店づくり。

「客単価5,000円の壁があると言われる居酒屋業界にあって、フェアグランドの店は客単価6,000~13,000円。『並木橋なかむら』のように長く愛されるお店や、卒業生の店も多く、息の長い商売を続けるために大切なことを学びました」

日本酒は「昨今のトレンドとは異質なラインナップですが、1日あたり9人なら来てくれるのでは、と選びました」と蝶野氏

地元の潜在的なニーズを埋める「昼飲み」で認知&売上アップ

学芸大学はワインの業態が強く、「骨太な純米酒を売りにした小規模店は、競合が少ない」とふんでいたという蝶野氏。加えて、クラフトな酒である純米酒はナチュラルワイン好きの層と親和性があるとも考えていた。さらに、界隈に昼飲みできる店が少ないことから、土日は13時から営業することに。スタート直後は苦戦したものの徐々に認知が高まり、平日が1回転強なのに対し、週末は昼から含めて1日4回転することもあるという。

最近は平日も予約で埋まり、近隣の自由が丘などからの目的客も増えているという同店。「日本酒のうん蓄を語る店ではなく、気軽に来店できて、大人がしっぽり飲める店を作りたかった」という蝶野氏の狙い通り、バーでも小料理屋でもない、新しいスタイルの日本酒専門店として注目を集めている。

『有縁』
住所/東京都目黒区碑文谷6-6-6 GAKUDAI COLLECTIV C-2
電話番号/080-4451-6432
営業時間/17:00~23:00(L.O. 22:00)、土日祝13:00〜23:00(L.O. 22:00)
定休日/月曜、第2・4火曜
坪数・席数/5坪・9席
https://www.instagram.com/uengakudai/

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