魚は他個体の行動を見て学ぶ? 単居性魚類<アゴハゼ稚魚>による社会情報の利用が判明
動物は周囲の環境から情報を得て学習し、自らの行動に活かしています。
これらの情報には独自情報と社会情報があり、社会情報の利用は特に若齢個体でメリットが高いといいます。魚類においても社会情報研究が行われており、グッピーなど群れを作る魚で多く知られてます。
一方、単居性の硬骨魚類における、若齢個体の社会情報研究は過去にカレイ類の1種のみが報告されていませんでした。
今回、北海道大学大学院水産科の研究チームは、単居性のアゴハゼを対象にした社会情報の利用を検証。本種が、他個体から得た社会情報を利用していることが明らかになりました。
この研究成果は『Ethology』に掲載されています(論文タイトル:Use of social information about novel food by juvenile solitary forktongue goby, Chaenogobius annularis)。
動物も他個体の行動から学ぶ?
我々ヒトを含む動物は、周囲の環境から情報を得ることにより学習し、それを自らの行動に生かして成長していきます。
このときに得られる情報は、自らが試行錯誤することにより得られる独自情報と、他者の行動を観察することで得られる社会情報の2種類。社会情報は特に生まれてから時間が短く、成体と比較して経験の少ない若齢個体にメリットが大きいと考えられています。
若齢個体における社会情報の利用は、魚類ではグッピーなど群れを形成する種で多く研究されてきた一方、群れを作らない単居性魚類の稚魚ではカレイ類の1種のみしか知られていませんでした。
単居性魚類のアゴハゼを対象に検証
今回、北海道大学大学院水産科の研究チームは、日本の潮間帯でよく見られる単居性のハゼ科魚類アゴハゼ Chaenogobius annulariを対象にした社会情報研究を実施。
この研究では、アゴハゼ稚魚に野外で1度も経験したことがない餌(水面に浮かぶ人工フレーク)に関する摂餌課題を与え、独自情報と社会情報を利用し摂食が促進されるか否かが検証されました。
アゴハゼ稚魚は海底で生活し小型の底生生物を摂食することから、人工フレークだけではなく、「水面」という餌場も初めての摂餌課題(経験)です。
人工フレーク餌を用いた実験
実験は2日間にわたって行われ、1日目は野外から採集した稚魚に人工のフレーク餌を与え、新たな餌と餌場を経験。2日目には新たな個体を採集し、フレーク餌を与えず、初日の個体と共に実験を実施されました。
実験1では、初日にフレーク餌を与えられた個体(経験個体を40個体)は2日目に採集され実験まで絶食させた個体(未経験個体を39個体)よりもフレーク餌への摂餌行動が促進されるのか検証。
実験2では、未経験の個体同士をペアにした場合と比較して、経験個体とペアにした未経験個体の方がフレーク餌に対する摂餌行動が促進されるのか検証されました。
実験の結果
実験1の結果として、1日目にフレーク餌を与えられた経験個体、2日目に採集された未経験個体と比較しフレーク餌の摂餌頻度が高く、最初にフレーク餌を摂餌するまでの時間と水面で摂餌するまでの時間が短くなったといいます。
また実験2では、経験個体とペアになった未経験個体は、未経験個体同士のペアと比較して摂餌頻度が高く、最初にフレーク餌を摂餌するまでの時間と水面で摂餌するまでの時間が短くなりました。
これらの結果から、アゴハゼ稚魚が新たな餌と餌場に関する独自情報だけでなく、その餌を摂餌する他の個体から得た社会情報も利用して活用していることが示唆されたのです。
様々な魚が社会情報を利用している可能性
今回、アゴハゼ稚魚における摂餌行動の社会情報利用が示されたことにより、単居性魚類魚類の稚魚ではカレイ類に次いで2例目となりました。
また、社会情報の利用がこれまでに知られていたカレイ目と系統的に大きく離れたスズキ目で発見されたことから、様々な単居性硬骨魚類の稚魚がこの能力を獲得している可能性が示されています。
(サカナト編集部)