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映画『国宝』で注目の「曽根崎心中」が南座で上演ーー中村壱太郎×尾上右近、交互に役を入れ替えふたりの愛を熱演

SPICE

左から尾上右近、中村壱太郎

歴代邦画実写の興行収入における最高記録を達成した映画『国宝』。作中で強いインパクトを残した演目「曽根崎心中」が、若い男女の恋物語に焦点をあてた「曽根崎心中物語」として中村鴈治郎監修のもと新たな演出で、2026年3月3日(火)から南座にて上演される。主人公のお初と徳兵衛を、公演ごとに役替えしながら勤めるのは中村壱太と尾上右近。イープラスでは南座の歌舞伎公演としては初めての貸切公演を実施するが、3か月前にもかかわらず完売するなど、高い注目度が窺える。12月には主演ふたりによる取材会が開かれ、若手人気歌舞伎俳優が中心となって作り上げる『花形歌舞伎 特別公演』への熱い想いや、「曽根崎心中」への愛が語られた。


●南座3月の『花形歌舞伎』どんな公演?

「中村壱太郎と尾上右近の結婚発表の場に来ていただきまして、誠にありがとうございます」(壱太郎)、「2026年大河ドラマ『豊臣兄弟!』足利義昭役を演じさせていただきます、尾上右近です」とのジョークで場を和らげ、取材会がスタート。まずは2021年から始まった平成世代の『三月花形歌舞伎』への想いから明かされた。

南座の3月恒例となりつつある『三月花形歌舞伎』。これまでの公演では次世代を担う若手俳優が、演目の解説を行ったり、Instagramでのライブ配信を行ったりと、歌舞伎の門戸を開く取り組みを行ってきた。また6年連続出演中の壱太郎が「同じお芝居を二方向から楽しめる形をずっと大切にしてきました」と話すように、公演は1日に桜・松の2プログラムで構成され、同じ演目を異なる配役で上演するという独特な形式をとっている。初回から出演している右近も「同じ役を愛せる仲間が同じ月にもうひとりいる感覚が楽しく、また青春の香りがする公演です」とし、思い入れの強さを感じさせる。

2026年は『花形歌舞伎 特別公演』と題し、両プログラムともに「曽根崎心中物語」と花形歌舞伎特別対談を上演。「曽根崎心中」は、近松門左衛門が実際にあった心中事件を題材に書いた人形浄瑠璃を原作とした演目で、映画『国宝』の劇中でも登場したことで注目を集めている。来場者特典や場内装飾など「南座全体がテーマパーク」(壱太郎)になる仕掛けを用意しているそうだ。

●『国宝』出演の鴈治郎が監修、ラブストーリーがわかりやすい演出に

中村壱太郎

前述の通り、映画の影響から「本物を観たい」と初めて歌舞伎公演に足を運ぶ観客が多いと見込まれる。これに関して映画で所作指導を行った壱太郎は「初めて観た歌舞伎が、長かったりつまらなかったら次の機会がないという怖さはある」と危惧。一方で「曽根崎心中」が『国宝』というフィクションの物語の一部として登場したことから、「演目の本質が見え、腑に落ちることがありました。今回は時間を短く、何を伝えたいかがわかるようにということを意識します」と壱太郎。今回は演目に「物語」を付けた「曽根崎心中物語」として新演出が加えられる。監修をするのは、壱太郎の父であり映画にも出演した中村鴈治郎だ。

「「曽根崎心中」は古典でありながら、昭和28年にできたものなので新作歌舞伎だと思っています。私の祖父である坂田藤十郎が扇雀時代に大ブームとなったことで、藤十郎(および坂田藤十郎家)の役となってしまった。やはりひとつの歌舞伎の演目である以上、ほかのおうちの方がやってはいけないという決まりはないので、祖父がずっと大事にしてきた思いを大切にしつつ、一緒にお初も徳兵衛も作っていく思いでおります」と、代々大切にしてきた演目への新たな挑戦についての思いを口にした。

続けて右近は「お初と徳兵衛の、若くてはかないラブストーリーに焦点をあて、うぶで純粋な気持ちを持ったふたりの眩しさや美しさを感じる作りにしたいと思っています。今回は「ふたり」をテーマにやらせていただく特別公演なので、若いふたりの物語なんだということをわかりやすくし、そのためのテンポアップを行い、ふたりで切り盛りできれば」と同公演の狙いを明かした。

●「曽根崎心中」での共演は二度目、徳兵衛は「ストレスがかかる」(右近)

尾上右近

それぞれの役についても思いが語られた。桜プロでは、天満屋お初を壱太郎、平野屋徳兵衛を右近が勤める。この配役は、2024年に大阪松竹座にて上演された『立春歌舞伎特別公演』以来となる。

「立役(男性の主人公)は、エネルギーを発散する役が多いんですよ。でも徳兵衛の時は、音楽がすっとなくなりひとりで演じるシーンがあり、舞台上でみんなにいじめられて泣きながら去り、縁の下でじっとこらえてと、びっくりするぐらいストレスがかかる。こんな立役があるんだというのが最初の正直な感覚でした」と右近。鴈治郎は共感者が現れたことに喜びを覚えていたのだそう。

お初はエネルギーを発散できる役だと言うが、壱太郎は「最後に「恋の手本となりにけり」という結びの句で緞帳が落ちて終わるんです。それがふたりの明るい未来に繋がるんだけれど、僕らは芝居が終わった後も、空気を持ち込んでしまって。それだけ浸れる作品が「曽根崎心中」。いろんな形の終わり方があるのだと、右近くんから感じさせてもらいました」と振り返った。

●「アニメの声優が変わるタイミングみたい」(壱太郎)

一方松プロでは役を交換し、互いに初役で挑む。発案した右近は「壱太郎さんの徳兵衛が見たいという思いと、僕がお初をやりたいという思いがあり"だったら……ダブルキャストでやったらどうか"と。壱太郎さんも同じように考えていたみたいで、松竹もふたりがそう言いだすと思っていたようです」とし、トントン拍子に決まったと話す。

しかしこのような役替りは歌舞伎史上でも稀なことだ。壱太郎は「完全にカップルで役を交代するというのはないし、歌舞伎でしかできないと思うので注目してほしい」とし、右近は「最接近」をテーマに撮影したというポスターを指しながら「これから逆パターンのビジュアルを出していく予定で、お客様もそれをもって右近のお初、壱太郎さんの徳兵衛の雰囲気から想像を膨らませて見に来ていただけたら」とアピール。

さらに成駒家以外で初めてお初を勤める右近は「昨年の公演で思ったのは、最後のシーンの前は 2人で花道の揚幕の奥にある小部屋で出番を待ってるんですけど、そのお初の姿が神々しくてはかなく、キラキラ光っていました。今度はキラキラした存在として見えたお初をやらせてもらって、同じように壱太郎さん演じる徳兵衛に感じてもらえたら嬉しいし、そういう心のバトンのリレーがずっと行われていく、ひとつの循環の中に自分が身を置けたら嬉しいです」と想いを語った。

また「壱太郎さんが女方を勤める時はおじい様の雰囲気を感じると同時に、お母さまの雰囲気にそっくり」としたうえで「立役をなさったときはやっぱりお父さんみを感じるんですよね。だから僕からすると壱太郎さんのご両親を感じる公演」と独特な感性で壱太郎をも驚かす。「藤十郎のおじい様のことを大尊敬している」と前置きし「僕がお初を成立させられたら、いろんな家の俳優がやりたいというかもしれない。そういう意味でも僕にかかっている」と覚悟を見せた。

これを受け壱太郎は「有名なアニメの声優さんが変わるみたいな感じですよね」とわかりやすく置き換え、「歌舞伎というものは同じ作品ばかりやるので、前に演じた俳優と競っているというよりも、誰かとやっているという認識が強い。歴史を紐解けば、ひとつの家系が守ってきたものを他のおうちの俳優がやるという役はあったと思うんですよ。『三月花形歌舞伎』でも毎年やってきたし、今回は二人で乗り越えるという思いで見ていただけたら」とした。

「『三月花形歌舞伎』のテーマのひとつにしていますけれども、上方の俳優さんたちに支えてほしい、一緒に作っていきたいという思いです。特に今回の「曽根崎心中物語」の他の配役に関してはその思いで、今絶賛制作をしていただいています」(壱太郎)とし、ほかの配役は順次発表とアナウンスした。

「必ずや満員御礼で44回公演していきたいと思っております」と意気込んだ『花形歌舞伎 特別公演』「曽根崎心中物語」は、3月3日(火)~25日(水)まで南座にて上演予定。

取材・文・撮影=川井美波(SPICE編集部)

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