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伊丹市の劇場の若手応援企画、2021年度は「遊劇舞台二月病」「劇団不労社」が登場、2022年度参加団体募集も開始

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「令和3年度 次世代応援企画break a leg」会見に出席した、「遊劇舞台二月病」の中川真一(左)、「劇団不労社」の西田悠哉(右)。

兵庫県伊丹市の公立ホール[アイホール](伊丹市立演劇ホール)が、今後の飛躍が期待できる団体の上演を支援する、若手応援企画「break a leg」(“成功を祈る”という意味の舞台用語)。2020年度は「遊劇舞台二月病」(以下二月病)と「劇団不労社」が選ばれ、ちょうど昨年の今頃公演が行われるはずだったが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、今年度にスライドされた。二月病主宰で作・演出の中川真一、不労社主宰で作・演出の西田悠哉、そしてアイホールディレクターの岩崎正裕(劇団●太陽族)の3人の会見の模様をレポートする。

まず岩崎から、この2組を採択した理由として「二月病は、ずーっと昭和の事件をこだわって取り上げていらっしゃって、その一貫したスタンスが素晴らしいと思います。不労社は、人間関係のグロテスクさが見えてくるけど、ヒステリックに笑いたくもなってしまうという作劇術を確立している。満を持しての2団体です」との説明があった。

中川真一(遊劇舞台二月病)。

岩崎の解説通り、世間を騒がせた実在の事件を多角的な視点で切り取り、次世代の社会派として期待される、二月病の中川。その作風の確立は、大学時代に遭遇したある事件がきっかけになったという。

大学時代の同期が、ワイドショーで一週間ぐらい取り上げられるような事件に巻き込まれたんです。その時の警察の事情聴取や、本人からの話を聞いてると、どうも報道されている内容と、実際の事件との間に隔たりがあると、いたく思いました。またニュースのコメント欄や掲示板で、事件を好き勝手に楽しんで、娯楽として消費している人たちに、とてつもなく怒りまして。そこから、追い詰められて犯行に及んだ人たちの姿を、僕だけでも(演劇で)描こうと思いました」と語る。

遊劇舞台二月病『Delete』(2018年)。 [撮影]小嶋謙介

今回上演する新作『sandglass』は、スタインベック『二十日鼠と人間』と、芸能史に残る衝撃の事件をミックスした人間ドラマだ。舞台を戦後の神戸に設定すると同時に、その時代を生きた人たちに取材して集めた声も反映。劇作家見習いの青年が書いた戯曲の世界と、彼が起こした事件の話が交錯する、二重構造の芝居になるという。

伊丹市の公演なので、兵庫県内の街を舞台に選びました。モデルはある芝居の一座の事件ですが、舞台にする街も劇場がたくさんあり、戦後も劇場を中心にいち早く復興しています。その一座のコミュニティの考え方と、街のコミュニティの考え方とは違いがあるんですが、今現在のコロナ禍においての、演劇に対する外からの見え方/内からの在り方の違いみたいなものは、あの時代にもあったんじゃないか? と思って、街と事件を絡めることを考えました。

遊劇舞台二月病『sandglass』公演チラシ。

どうしても『その時代、ここはこんなんじゃなかった』という意見が出てしまうお芝居だと思うけど、少数の意見を取り上げることが大事。レアなケースとはいえ、その時代にそんなことがあったことを話していかないと、小さな意見がなくなってしまう。そんな面を、だいぶ押し出した芝居です。また、僕たちが先の世代のことを心配しているように、戦後の人たちも今の僕たちのことを心配してくれていたのではないかと。そういう過去から未来、未来から過去に、常に人は人を心配している、応援しているという思いも詰め込みました」と、厳しい内容の中にも人間賛歌がこもった話になることを明かした。

一方の不労社は、別の劇場が主催する若手育成事業にも取り上げられるなど(ちなみにそちらも、公演延期の憂き目に遭っている)、今最も勢いに乗っている劇団の一つ。現在の作風は、クエンティン・タランティーノやつかこうへい、平田オリザなど様々な要素のハイブリッドから生まれたそうだ。

西田悠哉(劇団不労社)。

タランティーノ監督がすごく好きで、大学に入ったら(映画作りを)やりたいと思ってたけど、つかこうへい作品を観て演劇にのめり込みました。そしてつかさんと自分の気質とのギャップを感じた頃に、平田オリザさんの著作とかワークショップに触れて、現代で演劇をする上での疑問に回答してくれる部分が多いと感じました。僕のコンセプトで一番大きいのは、恐怖と笑い。怖いのに笑えるとか、笑いと恐怖が共存するようなものが好きだし、作品の核としてあると思います」と解説した。

ここ最近は「集団暴力シリーズ」と銘打ち、特定の共同体で起こる関係性の歪みや、人間性の変化を描写する作品に挑み続けており、今回上演する『畜生たちの楽園』もその一環となる作品。全員が自給自足の生活を送る集団農場のコミュニティが、カリスマ的な指導者の後継問題によって崩壊していく様を描き出すという。

劇団不労社『忘れちまった生きものが、』(2018年)。 [撮影]松田ミネタカ

目に見えるレベルから、目に見えない権力まで、我々は何かしらの暴力にさらされ続けて生きているというのが『集団暴力シリーズ』の前提。それを具体的な出来事として取り扱いたいと思い、ヤマギシ会から着想を得た、架空の農業団体の話にしました。人間の動物的な部分と理想とのギャップを描こうということと、信仰……信じるものへの揺らぎや、理念を実行できないことの葛藤も、一つのテーマになっています。

ヤマギシ会のアイディアは、このコロナで露呈した、人間がコントロールしきれないものへの無力さに対して、どこまで有効なのか?(公演延期で)1年間時間が空いたことで、そんな風に考えることが増えたので、多分今回反映されるのでは。舞台をL字形の半面囲みにして、さらに客席と舞台の間に大きなフェンスを建てて、動物園の中(の獣)を檻越しで覗き込むような舞台を考えています」と構想を語った。

劇団不労社『畜生たちの楽園』チラシ。

最後に岩崎が「二作品とも、いい感じにしんどい芝居になりそう(一同笑)」とコメントした通り、実在の事件を媒介に人間や社会の暗部を掘り下げていく二月病も、暴力の形でタガを外す人間たちを赤裸々に描く不労社も、「ちょっと芝居でも見に行ってみよっかなー」ぐらいのテンションで劇場に行くと、とんでもなく精神を打ちのめされて帰路につく羽目になりそうな世界ではある。でもそれは逆に言うと、このコロナ禍で人間とは? 社会とは? に対する答を真摯に探している人には、何らかのヒントになりそうなものが見つかる可能性が高い2団体とも言える。

何とか今年は実現できそうな「break a leg」だが、実は早くも、来年度の参加団体の募集が始まっている。今回はどちらも大阪の劇団が選ばれたが、応募の対象は全国となっており、実際関西以外の劇団が選出されたケースも多い。広くて自由度の高い劇場空間で表現の可能性を探りたい、初めての関西公演を実現したい、単純に知名度を上げたい……など、今後の演劇活動に何らかの野望を持っているならば、ぜひ応募してほしい。詳細は下記データ内にある、募集ページのリンクを参照のこと。

「令和3年度 次世代応援企画 break a leg」チラシ。

取材・文=吉永美和子

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