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「椅子の巨匠」の神髄 ― 「ハンス・ウェグナー展」(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

北欧モダンの黄金期を築いたデンマークのデザイナー、ハンス・J・ウェグナー(1914-1987)。生涯で500脚を超える椅子を手がけた「椅子の巨匠」は、造形美とクラフツマンシップを融合させ、20世紀の家具史に大きな足跡を残しました。

現在、渋谷ヒカリエのヒカリエホールでは、ウェグナーの創作の神髄に迫る国内最大規模の大回顧展が開催されています。《Yチェア》《ザ・チェア》をはじめ、約160脚の名作が一堂に会する貴重な機会です。


ヒカリエホール「ハンス・ウェグナー展」会場前


冒頭に展示されているのは、代表作《ザ・チェア》です。1949年に「ラウンド・チェア」として発表された当初は注目されませんでしたが、翌年にアメリカの雑誌で紹介され一躍脚光を浴びました。

1960年には、大統領選のテレビ討論会で、腰痛に悩むジョン・F・ケネディが《ザ・チェア》を選んで着席したことにより、その評価は決定的なものに。名実ともに、ウェグナーを象徴する一脚といえます。


ハンス・ウェグナー《ザ・チェア(JH503)》1949 織田コレクション


展覧会の1章では、1930年代に椅子づくりを始めてから独立に至る1940年代の作品が紹介されています。

18歳で家具マイスター資格を取得した後、フレミング・ラッセン、アルネ・ヤコブセン、ボーエ・モーエンセンらとの出会いを通じ、デザイナーとしての基礎を固めていく過程が読み取れます。


1章「ハンス・ウェグナーとは何者か?」


会場では、幻の《ファーストチェア》が復刻展示されています。ウェグナーが17歳のときに製作し、写真でしか知られていなかった1931年作の椅子を本展のために再現。アール・デコ様式の影響と若き才能の片鱗が感じられる貴重な作品です。

さらに、1938年にわずか3脚だけ製作された椅子も《セカンドチェア》として復刻。若きウェグナーの意欲作2点を間近に見られるのは、本展ならではの体験です。


(右手前から)ハンス・ウェグナー《ファーストチェア 2024年復刻版》(1931)織田コレクション / ハンス・ウェグナー《セカンドチェア 2024年復刻版》(1938)織田コレクション


1930〜90年代は、家具デザインが大衆化し、「日用品をより美しく」という理念が広まった時代です。大量生産と美しさの両立が求められる中で、ウェグナーが見出した解が「クラフツマンシップ」でした。

ウェグナーはメーカーごとの得意分野を把握し、時に技術開発にも関わりました。現実的で実直な姿勢が彼のデザインを支えています。


2章「クラフツマンシップ」


PPモブラー社創業者のアイナー・ペダーセンは、ウェグナーを「図面だけで椅子が製作できるほど詳細に描ける希有なデザイナー」と評しています。

正確無比な三面図と、どこから見ても美しい仕上げ。ウェグナーは「家具に裏面があってはならない」と語り、あらゆる角度から美しい造形を追求しました。


3章「名作椅子」


《Yチェア(CH24)》は、初期の《チャイナチェア》をもとに再構築された椅子です。

クラフツマンシップと機械技術を融合することで、安定した生産を実現。現在もベストセラーとして愛され続けています。


ハンス・ウェグナー《Yチェア(CH24)》1950 織田コレクション


親友のボーエ・モーエンセンの長男誕生に際し、ウェグナーが贈った《ピーターズチェア》と《ピーターズテーブル》も展示されています。

釘やねじを使わず組み立てられる優しい造形には、子どもを思うウェグナーの温かな人柄が宿っています。


ハンス・ウェグナー《ピーターズチェア》《ピーターズテーブル》(1944)織田コレクション


会場後半では、1940年代から1990年代までの椅子と家具を年代別に展示。職人が削り出した《ザ・チェア》と、1960年代後半以降に増えたプライウッド製の椅子などを比較することで、技術や製造環境の変化が浮かび上がります。

1970年代以降、デンマーク家具業界は衰退期を迎え、多くの工房が閉業しましたが、現在も各メーカーが製造工程をアップデートしながら品質を守り続けています。


第4章「ウェグナーの椅子 1945〜1990年」


最後は、ウェグナーの椅子を実際に体感できるコーナーです。

1997年の国際デザイン・アワード授賞式で、ウェグナーは「曲線を手で追い、継ぎ目を見て、心の流れを感じてほしい」と語りました。作品に込められた思いを、五感で味わえる貴重な空間です。


ウェグナーの椅子を体感


ウェグナーが生涯を通じて向き合った「美しい日用品」の探求を、多角的に示してくれる展覧会。名作の背景にある試行錯誤や哲学に触れることで、椅子という存在がより奥深く感じられます。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2025年12月1日 ]

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