【五感】嗅覚で楽しむ絵本3選。においを手がかりに発見を楽しもう!
「五感で楽しむ絵本」をピックアップし、それぞれの感覚に焦点を当て、アートの視点から解説するシリーズ。 今回は「におい」をテーマにした3冊の絵本をご紹介します。食べ物などの身近なにおいや、動物たちが生み出す気配を手がかりに、感覚の奥深さに気づく作品です。 乳幼児のお子さんから楽しめますので、「どんなにおいかな?」と親子で想像しながら、嗅覚を研ぎ澄ませてみましょう!
①『くんくん、いいにおい』—身近なにおいから豊かな感情を発見しよう
日々の生活のにおいから豊かな感情が広がる『くんくん、いいにおい』は、嗅覚が気持ちや記憶とつながることを教えてくれる絵本です。
主人公の男の子が、焼き立てのパンやフルーツを嗅ぐ場面から始まり、日常のワンシーンが丁寧に描かれています。
鼻に意識を向けて身の回りを探ってみると、「甘い」「すっぱい」といった香りだけでなく、においをきっかけに感情も生まれてくることに気づきます。
なかでも印象的なのが、料理の支度をしている場面で、男の子が「うれしい におい」と感じているページです。絵本の中の出来事と読者の記憶が結びつき、嗅覚への興味が自然と深まっていきます。
特別な日の思い出を振り返り、「あの時にどんなにおいがしたかな?」と、親子で話し合う時間にもなるでしょう。
作者のたしろちさと氏は、担当の編集者から、「犬になったつもりで作ってください」とリクエストを受け、様々なにおいを実際に嗅ぎながら制作したそうです。(※1)
実体験にもとづいているからこそ、香りの強さやニュアンスまで、読者が具体的にイメージできます。
まるでアニメーションを見ているかのように、ひとつの絵から時間の流れや音まで感じられるのも、本作の魅力です。
砂浜で遊ぶシーンでは、磯の香りとともに、波しぶきや熱を帯びた空気まで伝わってきます。
たしろ氏は、ラフを作る際、キャラクターが動いている様子を動画として頭に思い描き、絵にしているそうです。(※2)動きのイメージを絵本に取り入れることで、作品により臨場感が生まれています。
また、「よく見る」ことを心がけ、子どもの動きを観察したり、動物園を訪れてスケッチしたりと、描く対象を注意深くとらえています。(※3)登場人物がにおいを嗅いだ時のリアルな反応は、お子さんも思わずまねしたくなるはずです。
『くんくん、いいにおい』は、「The Book of Sense」シリーズのひとつで、ほかにも聴覚や触覚をテーマにした絵本が刊行されています。読者の感覚に寄り添うたしろ氏の絵本を通して、お子さんの多彩な感じ方に触れてみてくださいね。
(※1)参考:絵本作家 たしろちさとさん 絵本作家インタビュー(前編)(mi:te[ミーテ])
https://mi-te.kumon.ne.jp/contents/article/12-141/
(※2)参考:お話を凝縮して絵に 絵本作家・たしろちさとさんの絵本づくり【構成編】公開!#3 構成を考える(講談社コクリコ)
https://cocreco.kodansha.co.jp/cocreco/general/books/ORIjP
(※3)「たしろちさと」、講談社編『絵本作家という仕事』講談社、2012年、p.119
②『ごはんのにおい』—香りを入り口に食のルーツに触れよう
次にご紹介するのは、おいしい香りを入り口に、日本人の食のルーツをたどる『ごはんのにおい』。お米の文化が受け継がれてきた歴史を、やさしい語り口でひも解く作品です。
物語のはじまりは、「ぼくは ごはんが たけた においで めが さめた」という朝の風景。ページを開くと、炊き立てのごはんの香りが漂ってくるようです。
朝食の場面では、男の子とお母さんのやりとりでストーリーが進み、読者もふたりの会話に入るような気分で楽しめます。キャラクターのセリフに共感しやすく、「うちではこんなやりとりがあったな」と、お子さんが自分に置き換えて考えることもできます。
男の子がお茶碗にごはん粒を残したことをきっかけに、お米を作るには長い時間がかかることや、お百姓さんが苦労して育てているという話題に発展。やがて、古代の暮らしまでさかのぼります。
男の子とお母さんが昔に思いを馳せる場面では、ふたりが画面の片隅に描かれ、まるでタイムスリップしているかのようです。
物語のシーンは、日本で米づくりが始まった紀元前3世紀頃へと移り、日本人の食のルーツをたどります。
さらに、「パンを たべるようになったのは ここ 100ねんのことね」とお母さんが説明するなど、お米が暮らしの中心にあることが自然と伝わるエピソードも。
作者の岡本よしろう氏は、現代の親子と昔の暮らしを登場させることで、時間の隔たりをやさしく結びつけています。登場人物の表情が生き生きと描かれ、昔の出来事でありながら、「今の自分たちにもつながっている」と、読者が身近に感じられる表現だと言えるでしょう。
また、文を担当する中川ひろたか氏は、保父として働いた経験をもとに、子どもも大人も楽しめる歌やコンサート活動を続けながら、多数の絵本を手がけてきました。日本人がお米を食べてきた記憶を、温かみのある言葉で語りかけています。
身近な食べ物の香りから、歴史に思いを馳せ、食への興味が深まる『ごはんのにおい』。読み終えた後に、ごはんの香りを嗅いでみたり、食卓でストーリーを思い返したりと、実際の体験にも広がる絵本です。
③『けもののにおいがしてきたぞ』—未知の世界を嗅覚で探検しよう
最後に取り上げるのは、ジャングルの世界に飲み込まれそうなほど迫力満点の『けもののにおいがしてきたぞ』。
タイトルのフレーズをくり返して展開するのが特徴的で、未知の場所に向かうドキドキ感をたっぷりと味わえます。
「けもののにおいがしてきたぞ」という言葉から、目には見えないけれど、すぐ近くに何かがいるスリルと、「どんな生き物が隠れているかな?」と探すワクワク感が伝わってきます。
作者のミロコマチコ氏は、2016年の「山形ビエンナーレ」で大型立体絵本を作るために、山に入って取材を行い、その時の体験から本作を制作したそうです。
山道の途中でにおいが明らかに変わり、「命の危険、『もしクマに遭ったら逃げてください』みたいな緊張感を持って歩くのははじめてでした」と話しています。(※4)
『けもののにおいがしてきたぞ』では、動物たちの張り詰めた空気感に至るまで、ミロコ氏の感覚が見事に再現されていると言えるでしょう。
さらにページをめくると、岩のような場所が登場したり、雷がとどろく様子が描かれたりと、周りの景色も変わっていきます。「この場所に棲んでいるのは何かな?」と、探検している感覚で、ジャングルの世界に引き込まれていくでしょう。
また、「ヌソ ヌソ ヌソ ゴゾドゴ ゴゾドゴ」といった独創的な言葉も、お子さんの想像力を膨らませます。ミロコ氏は、文字を書いてどんな風に見えるか熟考し、声に出して読むことで、言葉の表現を探っているそうです。(※5)
生き物や自然がうごめく様子が、絵と言葉からリアルに伝わる『けもののにおいがしてきたぞ』。嗅覚を使って未知の体験に触れ、普段は味わえない世界を存分に探検してみましょう!
(※4)引用元:「ミロコマチコ」、日下部行洋編『別冊太陽スペシャル 絵本作家のしごと』平凡社、2024年、p.16
(※5)前掲書、p.16
まとめ:においを手がかりに広がる発見
今回は、においをテーマにした3つの作品をご紹介しました。
読み聞かせをしながら、「どんな香りかな?」「このにおいを嗅ぐどんな気持ちになる?」と親子で話してみると、日常で新しい発見が生まれていくはずです。
絵本をきっかけに「嗅ぐこと」への興味を深めて、お子さんの中に芽生えている感覚や感情を、一緒に見つけてみてくださいね。
※本記事の画像は、各出版社に許諾を得た上で、提供いただいた画像およびスキャンデータを作成して掲載しています。
《参考文献》
たしろちさと『くんくん、いいにおい』グランまま社、2011年(初版:2006年)
https://granmamasha.official.ec/items/25217508
文:中川 ひろたか、絵:岡本 よしろう『ごはんのにおい』おむすび舎、2018年(初版:2017年)
https://omusubisha.com/book_list/detail/20251111115536/
ミロコマチコ 作・絵『けもののにおいがしてきたぞ』岩崎書店、2016年
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b244375.html
日下部行洋編『別冊太陽スペシャル 絵本作家のしごと』平凡社、2024年
講談社編『絵本作家という仕事』講談社、2012年
《参考記事》
絵本作家 たしろちさとさん 絵本作家インタビュー(前編)(mi:te[ミーテ])
https://mi-te.kumon.ne.jp/contents/article/12-141/
お話を凝縮して絵に 絵本作家・たしろちさとさんの絵本づくり【構成編】公開!#3 構成を考える(講談社コクリコ)
https://cocreco.kodansha.co.jp/cocreco/general/books/ORIjP