全国で「お酒の問題」抱える人304万人 今、企業に求められる「適正飲酒」への理解と対策
国立病院機構久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)は9月1日、全国の成人8000人を対象に実施した「令和6年度 飲酒と生活習慣に関する調査」の結果速報を公表した。調査の結果、過去1年間にアルコール使用障害が疑われる者は、全国で約304.1万人と推計されることがわかった。
※アルコール使用障害とは、過剰な飲酒により日常生活や健康に支障をきたす状態を指す医学的な診断名。
アルコールに関する問題行動、「会社を遅刻・欠勤した」など
同調査の「過去1年のアルコール使用障害が疑われる者」の推計は、アルコール使用障害のスクリーニングテストであるAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)を用いて行われた。有効回答者4265人のうち、AUDIT完答者(n=4011)と非飲酒者(n=142)を合わせた、4153人(男性1855人、女性2298人)をアルコール使用障害が疑われる者の推計の集計対象者とした。
AUDITの得点に基づき、以下の3区分に分類し、各群の特徴を分析した。特に15点以上のアルコール使用障害が疑われる者の特徴に注目したという。
・8点未満:非飲酒者・ローリスク飲酒者
・8‐14点:ハイリスク飲酒者
・15点以上:アルコール使用障害の疑い
「お酒を飲んだことで起きた行動や結果」について10項目を設定し、それぞれについて「該当した(=あった)」と回答した割合を、AUDITの3区分(非飲酒・ローリスク/ハイリスク/使用障害の疑い)で比較した。
その結果、「会社や学校を遅刻・欠席・欠勤した」など、すべての項目で、AUDITスコア15点以上の「アルコール使用障害の疑いがある群」が、他の群と比べて該当する行動・結果を経験した割合が最も高いことが明らかになった。
これは、アルコールに関連する生活上の支障や害が、スコアの高い群ほど多く見られることを示している。
また、AUDITスコア15点以上の「アルコール使用障害の疑いがある群」に対して、専門機関などへの相談経験を尋ねたところ、「いずれもない」が95.8%と圧倒的多数を占め、「専門機関で治療を受けた」が4.2%、「その他」が2.5%だった。
この結果から、アルコールに問題を抱えていても、相談や治療に至っていない人が大半を占めている実態が浮き彫りとなった。
アルコール使用障害が疑われる者は、「不眠症の可能性が高い」
調査では、不眠症の重症度を客観的に評価する尺度「アテネ不眠尺度(AIS)」を用いて、対象者の睡眠状態を測定した。
非飲酒者・ローリスク飲酒者、ハイリスク飲酒者、アルコール使用障害の疑いがある群の3区分と、AISスコアによる以下の3段階(0〜3点=睡眠がとれている/4〜5点=不眠症の疑い/6〜24点=不眠症の可能性が高い)との関係を比較した。
その結果、アルコール使用障害の疑いがある群では、「不眠症の可能性が高い」とされる人の割合が、他の群よりも高いことがわかった。
「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を知らない人が80%超え
2021年3月に厚生労働省が策定・施行した「アルコール健康障害対策推進基本計画」では、一時多量飲酒者を「過去30日間に一度でも、純アルコール量60g以上を摂取した者」と定義している。
今回の調査では、全体の11.1%がこの定義に該当し、性別で見ると男性は19.2%、女性は4.7%にのぼった。
純アルコール60gは、ビール中瓶(500ml)約3本分に相当し、いわゆる「6ドリンク」にあたる。
また、厚生労働省は2024年、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を目的に、国民一人ひとりが自身の状況に応じて適切な飲酒量や行動を判断できるようにするための「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を作成した。
このガイドラインの認知状況についても調査したところ、全体の86.3%が「知らない」と回答しており、社会全体への情報浸透が課題となっている。
業界内や厚労省などで「適正飲酒セミナー」の啓蒙活動が活発化
こうしたアルコール問題に対し、健康経営の観点から、業界内や厚生労働省などによる啓発活動が活発化している。
たとえばサッポロビール(東京都渋谷区)は、8月31日と9月1日の2日間にわたり、飲食店にて新たな適正飲酒セミナー「乾杯をもっとおいしく。適正飲酒セミナー 心と体にやさしい乾杯習慣篇」を開催した。
このセミナーでは、座学による適正飲酒の基礎知識の習得に加え、実際の体験を通じて適量のお酒と食事の楽しみ方や、食材ストーリーを交えた「食」の価値向上を提案。心と体にやさしい乾杯習慣を学ぶ機会を提供した。
アサヒビール(東京都墨田区)とライトワークス(東京都千代田区)は5月14日、適正な飲酒知識やタイミングについて学べるeラーニングコンテンツ「お酒の理解度 確認クイズ」を発表した。適量な飲酒や適切なタイミングなど、正しい飲酒に関する知識を身につけられるコンテンツだ。
厚生労働省も2024年11月、摂取したアルコール量とそのアルコール分解に必要な時間がわかるウェブツール「アルコールウォッチ」の利用を促進するための啓発ツールの無料配布を開始。従業員の飲酒運転防止、アルコールチェックのスムーズな運用に向けた啓発に役立てられるという。
「飲酒と生活習慣に関する調査」は、2024年8月20日から11月19日に全国の市町村361地点に居住する満20歳以上の日本国籍を有する男女8000人を対象に、調査員による面接調査とアンケート調査を実施。
発表については公式リリース(PR TIMES)で、調査結果の詳細や結果速報の資料は、依存症対策全国センターのウェブサイトで閲覧できる。(令和6年度 依存症に関する調査研究事業 飲酒と生活習慣に関する調査より)