和歌山の寿司に「酢」が不要なワケ ポイントは高温多湿の気候にあった?
お寿司といえば、ご飯に酢を加えた「酢飯」が必需品ですが、実は酢を使わない寿司というものもいっぱいあります。
和歌山名物「めはり寿司」と「サンマ寿司」
本州最南端に位置する和歌山県。暖流である黒潮の影響を大きく受け、独特の気候と食文化を持つこの地域で、名物とされている「寿司」があります。
その寿司とは「めはり寿司」と「サンマ寿司」。
めはり寿司は、炊きたての御飯を具入りのおにぎり状にして、それを塩漬けにした高菜の葉で包むというものです。寿司としては非常に大きく、目を見開いてかぶりつく必要があることからこのような名前がつきました。
サンマ寿司は、サンマが一本乗った押し寿司のような見た目ですが、キリッとした酸味が効いており、ご飯がホロホロしていて普通のサンマ棒寿司とは違うものであるという印象を強く受けます。
共通点は「酢を使わない」
これらの2つの「寿司」には、とある共通のユニークな特徴があります。それはいずれも「お酢を使っていない」ということ。
めはり寿司は寿司とつくものの、基本的にはおにぎりのような存在。朝握って昼ご飯に食べるという弁当のような存在でもあります。
サンマ寿司も、酢を使っているようで実は使っていません。鼻を突くような酸っぱい香りと爽やかな酸味がありますが、これは乳酸によるもので、酢の酸味(酢酸)ではないのです。
なぜ使わない?
それではなぜ、これらの「寿司」は酢を使わないのでしょうか。その理由は和歌山県の風土にあります。
温暖な黒潮が沖合を流れ、付近は全国屈指の降水量を誇るこの地域はとくに夏の間高温多湿となり、細菌の活動が活発になります。そのためサンマ寿司のように、塩をなじませたご飯と魚を一緒にして放置しておくだけでご飯が発酵し、酢飯のようになります。
これはいわゆる「なれずし」と呼ばれるもので、すぐに傷んでしまう生魚を保存するための方法として発明されたものです。現在の寿司はこのなれずしの風味を、酢を用いて即席で出しているものであり、もともと寿司というのは酢を使うものではなかったのです。
この認識があるために、和歌山県南部の人たちはめはり寿司のような酢を使わないご飯料理も「寿司」と呼んできたのではないかと思われます。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>