地域の“お節介”が空き家を流通させる。広島県江田島発「センパイモデル」の仕組み
制度だけでは動かない、地方における空き家流通のリアル
地方における空き家問題は、制度が整備されてもなお解決が進みにくい領域である。広島県江田島市でも空き家バンクなどの取り組みは存在するが、実際に流通する空き家は限定的で、多くの物件が市場に出ないまま眠っている。そう話すのは、江田島市で「さとまる不動産」を運営する株式会社miluma代表・守本怜矢さんだ。
守本さんは、その背景には、都市部とは異なる構造的な課題があると指摘する。まず、空き家の多くは物件価格が低いため、不動産会社にとって仲介報酬(仲介手数料)が労力に見合いにくく、積極的な掘り起こしが敬遠されがちだ。また、所有者側も代々受け継いできた家を手放すことへの抵抗や、近隣の目を気にする文化が心理的ハードルとなり、意思決定を遅らせる要因となっている。
さらに深刻なのが情報の非対称性だ。地域には実際には空き家が存在しているにもかかわらず、その情報は表に出てこない。その結果、「住みたい人はいるのに、物件がない」というミスマッチが常態化している。
2022年に江田島で地域おこし協力隊として活動を始めた守本さん自身も、住まい探しに苦労した一人だ。当時流通している物件はほとんどなく、最終的には地域住民の紹介によって住居を確保した。この経験から、「空き家はないのではなく、見えていないだけ」だと実感したという。
地域に入り込んで見えた課題認識
協力隊として島に拠点を置き、日常的に地域を回る中で、守本さんは江田島の持つポテンシャルと同時に、根本的な課題に直面する。移住ニーズは確実に存在し、地域側にも受け入れの意思がある。しかし、実際には住まいの確保が難しく、人の流入が進まない。その背景には、先に述べたような「表に出てこない空き家」の存在と、それを流通させる仕組みの不在があった。
特に印象的だったのは、地域住民が個別に移住希望者へ物件を案内し、結果的に個人間で取引が成立している実態である。そこでは人と人との信頼関係が大きな役割を果たしていた一方で、情報はオープンになっておらず、再現性のある仕組みにはなっていなかった。つまり、「動いているのに、仕組み化されていない流通」が存在していたのである。
守本さんはこの状況を、「流通設計の欠如」と捉えた。
守本さんはかつて、建築学科の学生として過疎地域で建物や場づくりによって地域の魅力を高める活動をした経験を持つ。しかし、住まいの供給が伴わなければ、移住促進には至らなかったと振り返る。協力隊として現場に深く関わったからこそ、その“入り口の欠落”が地域のボトルネックであることを実感したという。
こうした課題認識をもとに、守本さんは不動産という領域からのアプローチを選択する。従来のように売りたい物件が表れるのを待つのではなく、地域に埋もれた物件情報を掘り起こし、流通につなげる仕組みを構築する必要があると考えたのだ。
さとまる不動産は、こうした現場起点の気づきから生まれた。地域に入り込み、地域住民との信頼関係の中で見えてきた課題を、ビジネスとして解決する。その発想こそが、次に解説する「センパイモデル」の出発点となっている。
地域住民の信頼関係を生かした「センパイモデル」
「センパイモデル」とは何か。守本さんは、これを「地域住民の信頼関係を起点に空き家情報を流通させる仕組み」だと説明する。
ビジネスモデルの全体像は、大きく3つの要素から構成される。第一は、「センパイ」による情報の掘り起こしだ。地域に精通した住民を「センパイ」として位置づけ、彼らが表に出ていない空き家情報や所有者の事情をキャッチして、不動産事業者であるさとまる不動産へつなぐ。第二は、さとまる不動産による専門業務の担保だ。センパイが寄せた情報をきっかけに物件の取引が発生した場合、安全性と適正な取引が求められる仲介業務は、不動産事業者であるさとまる不動産が担う。そして第三は、センパイへ支払われる特典によるネットワークの自律的拡大だ。売買取引が成立した場合にセンパイに特典が支払われるほか、新たなセンパイ候補を紹介した場合にも報酬が発生する仕組みを設け、持続的な情報の循環を図っている。
地方では、所有者が見知らぬ不動産会社に相談することへの不安が大きい。一方で、「知り合いの紹介」であれば意思決定が進みやすい。
ここでいうセンパイは、特別な資格や役職を持つ人に限らない。実際には、自治会の役員や長年地域に住む住民、飲食店の経営者、民生委員、寺院の住職、商店主など、日常的に地域の情報が集まる立場にいる人々が中心となる。こうした人々は、空き家の存在や所有者の事情を自然と把握している一方で、それを流通につなげる手段を持っていなかった。
また、「困っている人がいれば何とかしたい」という意識を持つ、いわば“お節介”な気質を持つ人が多い点も特徴だ。センパイモデルは、この地域に元々存在する非公式な情報網と善意が、流通へと転換するモデルである。
SNSの活用など、成果を生む運用設計も
センパイモデルを機能させるうえで重要なのが、「情報の可視化」と「業務効率化」、そしてそれを支える「媒体設計」であると守本さんは語る。
まず特徴的なのが、物件情報の見せ方だ。一般的な空き家情報では最低限の写真とテキストにとどまることが多いが、同社では撮影方法に工夫を凝らし、明るさや構図に配慮した写真に加え、ドローンによるワンカットの動画を活用している。これにより、現地に足を運ばなくても物件の全体像、空間のつながりや周辺環境が把握でき、遠方からの検討を可能にしている。実際に、動画のみで購入意思を固めるケースも生まれており、内見コストの削減と成約までのリードタイム短縮につながっている。
次に、情報発信の媒体設計である。Instagramでは視覚的な訴求と拡散を担い、Facebookではシェアを通じた関係人口への波及を狙う。一方で、noteでは物件や取引の背景をストーリーとして蓄積し、誰でもアクセスできる形で公開する。これにより、単なる物件情報にとどまらず、「どのように流通したのか」というプロセスが可視化され、紹介者や地域住民に対するフィードバックとしても機能している。信頼の蓄積が、次の情報提供を生む循環を生み出しているのだ。
さらに、LINEを活用した情報入力フォーマットを整備し、センパイがスマートフォンから簡単に情報提供できる環境を構築。これにより、専門知識がなくても関われる仕組みが実現している。
こうした設計により、従来必要だった掘り起こしのための活動や内見対応が減少し、少ない工数で流通・成約につながる運用が可能となっている。
民間主導で広がる新たな空き家流通モデル
信頼というアナログな資産を仕組みで補完するセンパイモデルはすでに成果を上げている。2026年3月のサービス開始から間もない段階で複数の成約が生まれ、流通のスピードと確度が高まっているそうだ。結果として、本当に購入意欲の高い層に集中した対応が可能となり、収益性の向上につながっている。
また、この取り組みは行政に依存しない民間主導のモデルである点にも特徴がある。行政が関与する場合、公平性の担保が求められる一方で、柔軟な運用やエリア特性に応じた対応が難しい側面がある。民間で完結させることで、ルールを明確にしつつ、スピード感を持った意思決定が可能となっている。
都市部では不動産は「資産運用の対象」として扱われることが多いが、地方では「地域との関係性の中で引き継がれるもの」としての側面が強い。誰に渡るか、どのように使われるかが重視される中で、本モデルはその価値観に寄り添いながら流通を生み出している。
今後は、この仕組みを他地域へ展開する構想も進む。地域の信頼と専門性を接続するこのモデルは、過疎地域における不動産業の新たなスタンダードとなる可能性を持っている。
此松 武彦
ライター
インバウンド関連が多く、国内の受入整備等、100箇所を超える事例を取材。それに付随して、最近ではまちづくりやコンテンツ等にも関心を持ち、事例を追っかけている。また、東京の西荻窪にシェアハウスとの併用住宅を建て、イベントを開催する等、地域との関わり方を日々、模索している。