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本当に旨い野菜は酒に合う! 野菜が主役の和食居酒屋『渋谷ニッカ』で名物のおばんざいに舌鼓

さんたつ

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“あふれる野菜”をテーマに掲げ、2024年6月に渋谷中央街の一角にオープンした和食居酒屋『渋谷ニッカ』。秋田県の老舗青果店が目利きした伝統野菜や旬の野菜、希少な山菜を使ったおばんざいがウリで、野菜料理を通じて秋田と京都の食文化の魅力を発信する。この店に一度足を運んで野菜を堪能すれば、肉料理や海鮮料理ばかりが酒席のメインではないことに気づくだろう。

渋谷ニッカ(しぶやにっか)

シンプルな調理法と味付けで野菜の個性を光らせる

渋谷フクラスや東急プラザ渋谷、渋谷マークシティの裏手にあたる渋谷中央街の坂道沿いに、2024年6月に開店した『渋谷ニッカ』。“あふれる野菜”がキャッチフレーズと聞き、野菜好きの筆者は早速飲みに行ってみることにした。

京都を彷彿とさせる和モダンな入り口。お店はここから階段を下りた地下1階。

この店の看板メニューのひとつである“おばんざい”とは、京都で日常的に食されているおかずのようなもの。オーナーの池上善史さんのご両親が営む秋田県の青果店『保坂青果』から新鮮な野菜を仕入れ、そのまま食べても十分おいしい野菜を主役に、さまざまな酒の肴を創作している。

野菜の仕入れは2024年で69周年を迎えた秋田県秋田市の青果店『保坂青果』から。

池上さんは「野菜のおいしさを伝えたい」、その一心で厨房に立ち、これまでさまざまな調理や味付けのアレンジを試みてきた。その結果、多種多様な野菜の個性を引き出すには、火の入れ方が肝であることに気がついた。

野菜から水分が出すぎないように調理法に応じて火加減を調節し、「シンプルに食べるのが一番」だという池上さん。「力のある野菜は、あれこれ手を加えたり味をつけたりしなくても、ただ煮る・焼く・蒸す・揚げるだけで十分おいしいんです」。

湯沢オクラ 塩茹 700円。ゆで加減が素晴らしく、独特のモチモチ感がたまらない。

それは思えばご両親に教わったことで、池上さんの母親は「野菜はとにかく水分が大事」だとよく言っていたという。「母は特に味付けにこだわるでもなく、野菜を煮たり炒めたりしているだけなんですが、それを父がすごくおいしそうに食べていて。僕も今になって実感しているのですが、秋田の野菜って掛け値なしに、本当においしいんですよ」。

『渋谷ニッカ』では、そんな両親が目利きした秋田の伝統野菜や旬の野菜で、おばんざいや季節物のメニューを構成している。「野菜料理で居酒屋をブランディングしていきたい」と意気込みを語る池上さんだ。

店名の“ニッカ”は、太陽を意味する“日華”にちなんで名づけられた。

野菜のポテンシャルを引き出す、つくり手の技と愛情

今回いただくのは“あふれる野菜”と命名された、おばんざいの数々。食事が運ばれてきてまず感動したのは、1品1品の美しさ。野菜の彩り、器や皿の選択、盛り付けのバランスなど、つくり手の丁寧な仕事ぶりに、野菜にかける愛情を垣間見た。

おばんざいは単品以外に3種おまかせ盛り合わせ1580円~でも提供している。

早速、濃い黄みが特徴的な高級ジャガイモのインカのめざめと、糖度が高いサツマイモのすずほっくりのポテトサラダをひと口。

インカのめざめとすずほっくり ポテサラ730円。こんもりと盛られて食べごたえあり!

とってもクリーミーで、やさしい甘みが口の中にふわっと広がる。粒マスタードの食感と酸味のアクセントがまたいい。ポテサラなのにマヨネーズは使わずに、ジャガイモを牛乳で炊くことでまろやかに仕上げているのだとか。

続いて秋田県の特産品のひとつ、じゅんさいを使ったおばんざいをいただく。

じゅんさい 生姜醤油880円。じゅんさいは水草の一種で、若芽はゼリー状の粘膜に包まれている。

生のじゅんさいは一般的に、ポン酢やわさび醤油などにつけて食べることが多いが、この店では出汁の効いたほんのり甘めのつゆに生姜をプラス。秋田県民が親しんでいる調味料の味をベースに仕上げているそうで、東北ならではの濃いめの味付けかと思いきや、なんともやさしい味わい。

また、ゼリーのような膜に覆われていてチュルリとのどごしが良く、筆者は初めて口にしたのだが、めちゃくちゃ好みだった。これは日本酒のアテにしたいところ。

肥与太郎トマト 冷やし730円。スダチがあしらわれ、彩り豊かで目にもおいしい。

冷やしトマト、蓮根の甘酢漬けもまた絶品! 調理法や味付けはいたってシンプルだが、どれも手の込んだものばかり。やさしい味わいだからといって物足りないわけではなく、どれも酒がすすむ味なのが新鮮に感じた。

新蓮根 甘酢漬け780円。見事なまでに薄~くスライスされ、ほんのり辛みが効いている。

おいしい野菜はシンプルに出汁でいただくのが正解!

もう1品、この店の名物をいただくとしよう。合鴨とお野菜のしゃぶしゃぶは、ネギや葉物中心の野菜と国産の合鴨肉を、鰹と昆布の合わせ出汁でいただく贅沢な一品。

合鴨とお野菜のしゃぶしゃぶ2人前3580円~。合鴨は肉厚でやわらかく風味豊か。

「鍋料理でも“野菜が主役”」という池上さん。厳選した野菜はどれも「出汁にくぐらせるだけで旨い」と自信をもっている。この日の野菜は、秋田美人ねぎと九条ねぎ、空心菜の3種。

しゃぶしゃぶの野菜は季節ごとに内容が変わる。野菜のおかわりは730円~。

シャキッとした食感になるようカットされた秋田美人ねぎは、普通のネギよりもやわらかく、スッキリとした甘さでとても美味。

葉物は少ししんなりしてきたら食べ頃。葉っぱがジューシーなのには驚いた。こりゃいくらでも食べられそう。

鍋の締めに、野菜と肉の旨味が溶け出した出汁でそばやラーメンをいただくもよし。酒を飲んだ後の締めに、汁物代わりに出汁を飲むもよし。とにかく、この出汁もまた旨いのだ。

しゃぶしゃぶの出汁は風味豊かで上品な味わい。ふんわり食感の鶏つくねもうまい。

東西の食の魅力を融合させた“野菜料理のメッカ”

飲食業界に身を置いて10年、36歳で独立した池上さん。1店舗目からおばんざいをはじめ野菜料理中心のメニューを打ち出すも、肉や魚に比べると野菜をアピールしていくのはなかなか難しかった。

渋谷『酒場きんぼし』、学芸大学『びゃく』も経営しているオーナーの池上善史さん。

ちょうどその頃、京の食文化にひかれて、京都に足を運ぶようになっていた池上さんは、京都市内で複数の飲食店を展開し自社農園も持つグループの代表に出会った。そこで、彼の店で提供されている野菜のおいしさに感銘を受けたという。

野菜の調理法や味付け、提供方法だけでなく、優美な店構えや京都特有の「もてなしの心」にも感化され、良いと思ったところはすべて自身の店に取り入れた。京料理のように出汁にこだわり、従来のおばんざいをブラッシュアップ。一方、京風の上品な薄味ではなく、居酒屋で万人においしいと思ってもらえるよう、濃すぎず薄すぎず“いい塩梅”に仕上げた。

いちじくとコリンキー 白掛け780円。異なる食感の食材となめらかな白掛けが絶妙な一品。

こうして野菜料理の和食居酒屋は女性客を中心に人気を集め、池上さんは「方向性は間違っていなかった」と確信した。東は秋田の味、西は京都の味。池上さんは自身の食のルーツを見事に融合させ、さまざまな食文化が集まる渋谷の街で、“野菜料理のメッカ”となるような店をつくったのだ。

「スタッフたちにも野菜がおいしいってことを知ってもらい、野菜の良さをみんなで共有してもらうことが大事」と池上さんは話す。「今、彼らは自信をもってお客さまに料理をお出ししています。野菜の魅力がわかる同志が増えてすごくうれしいですし、もっと多くの人においしい野菜を届けていきたいと思います」。

日本酒は全国各地の銘柄を取り揃え、燗酒のセレクトにもこだわりが見られる。

京都の高貴な和室をイメージしたという店内は、ゆっくり晩酌をしたい大人にピッタリの空間。若者の街だった渋谷に大人の通い場ができて、筆者も足しげく通うことになりそうだ。さて今宵の酒の肴は、肉より魚より、野菜だな!

オープンキッチンを囲むカウンター14席、テーブル23席、8名まで利用できる個室もあり。

渋谷ニッカ(しぶやにっか)
住所:東京都渋谷区道玄坂1-13-6 斉藤ビルB1/営業時間:17:00~23:30/定休日:日/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ

アート・サプライ
編集プロダクション
1971年創業の編プロ。「旅&食&散策」ジャンルに強く、情報誌では子供向けから鉄道やドライブでの大人旅まで。さらにグルメ系ではラーメンや唐揚げ専門情報誌をはじめ、日本全国うまいもの紹介なども手掛けている。

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