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介護現場を混乱に招く!?中高年世代が注意したい皮膚感染症「疥癬」のリスク【医師解説】

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中高年に多い皮膚感染症の中には、「疥癬(かいせん)」というものがあります。疥癬は、人から人へと移る感染症で、病院や高齢者施設などでの集団感染が問題になることも珍しくありません。今回は、介護の現場でたびたび問題になっている疥癬について解説。LIKKAスキンクリニックで院長を務める林瑠加先生に、症状や治療法、疥癬と診断された場合の対応策について、詳しく教えていただきました。

教えてくれたのは…

監修/林瑠加先生(LIKKAスキンクリニック院長)
慶應義塾大学形成外科学教室に約10年間在籍し、一般形成外科、小児、再建分野を幅広く担当。2015年からは4年半、カンボジアに居住し現地での臨床にも従事した。帰国後は形成外科に加え皮膚科、美容皮膚科の経験を積み、2024年11月に品川区西五反田に「LIKKAスキンクリニック」を開業。患者の身近な悩みに対応すべく、保険・自由診療双方からのアプローチで診療をおこなっている。

皮膚感染症「疥癬」とは?

疥癬とは、皮膚に寄生したヒゼンダニが原因で発症する感染症のこと。人から人へと感染し、強いかゆみを引き起こすのが特徴です。

主な症状

疥癬は「通常疥癬」と「角化型(かくかがた)疥癬」の2つに分類され、それぞれ異なる症状が表れます。

【通常疥癬の症状】
通常疥癬は、1~3mm程度の赤いブツブツが胸や背中に多く出現します。かゆみは強く、その程度は夜も眠れないほどになることも。男性の場合は、陰部に硬いしこりが見られることもあります。感染力はそこまで高くありませんが、一般的な湿疹との見分けがつきにくく、診断が遅れれば重症化して角化型疥癬に移行する可能性もあります。

【角化型疥癬の症状】
角化型疥癬は、通常疥癬が重症化した状態を指します。一般的には通常疥癬から発症し、6カ月以上経過すると角化型疥癬に進行するとされています。角化型疥癬は、皮膚の外側にある角質層が厚くなり、ガサガサした状態になるのが特徴です。発症部位は手の平や足の裏が中心ですが、全身で起こることもあります。厄介なのは、感染力が非常に高いこと。その半面、かゆみは強くないため見逃されやすく、介護現場での集団発生が問題となっています。

疥癬はどうやって移る?

疥癬の主な感染経路は、皮膚と皮膚の接触。長時間肌と肌が触れ合っていたり、介護などで繰り返し皮膚に接触したりすることで、未感染者にヒゼンダニが移動し、疥癬を発症させると考えられています。

特に、免疫力が低下している状態や不衛生な環境下では、疥癬の発症リスクを高めることがあるため注意が必要です。また、感染力が高い角化型疥癬の場合は、直接の接触がなくても、寝具や衣類を介して高い確率で感染することがわかっています。通常疥癬の潜伏期間は一般的には1~2カ月程度ですが、角化型疥癬の潜伏期間は4~5日間と短く、症状は比較的すぐに表れます。

介護施設で集団感染が起こる理由とそのリスク

介護施設で特に問題になっているのが、角化型疥癬による集団感染。かゆみがそこまで強くなく感染者からの訴えが少ない一方で、非常に強い感染力を持つため介護者の衣類を介して集団感染を引き起こしてしまいます。

また、介護度の高い高齢者は高齢者施設や医療機関、通所リハビリテーション(デイケア)、訪問入浴介護など、さまざまな施設を利用するのが一般的。そのためひとりが感染すれば、行く先々で集団感染が繰り返されるリスクがあるのです。

あくまで疥癬は皮膚感染症であり、命を脅かす危険性はないものの、集団感染が起こることによって介護者は対応に追われます。例えば、感染源の特定や個室管理、面会制限、リネン類の交換、消毒、与薬など。感染者が増えるほど介護者の負担も増えるため、まずは集団感染を起こさない対策が不可欠です。感染がわかったタイミングで隔離するのはもちろんのこと、入浴や排泄などの介助のタイミングで要介護者の皮膚を観察し、発疹や異常がないかを定期的にチェックする機会を設けるのもおすすめの方法です。

疥癬の診断と治療法

疥癬が疑われるときは、どのような流れで診断・治療がおこなわれるのでしょうか? 詳しく見ていきましょう。

診断方法

疥癬の確定診断は、ヒゼンダニの有無を検出して判断します。皮膚に寄生したヒゼンダニは、角質層に潜り込み、トンネルを掘りながら卵を産み付けます。そのため疥癬に感染すると「疥癬トンネル」という線状の皮疹が見られるのが特徴。疥癬トンネルや角質層から採取した検体にヒゼンダニやその卵が認められれば、疥癬と正式に診断されます。

ただし、専門医でも1回でヒゼンダニを検出するのは難しく、見過ごされてしまうケースも珍しくはありません。仮に1回の診察でヒゼンダニが検出されなくても、疑わしい場合は複数回にわたり医師の診察を受けるようにしましょう。

疥癬の治療法と経過

疥癬と診断された場合は、ヒゼンダニを駆除するための内服薬や外用薬が処方されます。薬が効けば、通常は1~2週間程度で徐々に皮膚症状が和らぎ、快方へと向かうでしょう。ただし、角化型疥癬など症状が重症化すると治療が長引くこともあります。そのため、医師の判断のもとで、薬の服用回数や期間を守って治療を続けることが重要です。

また、ヒゼンダニが死滅した後も赤い発疹が消えずにしばらく残ることがあります。これは疥癬後遺症(かいせんこういしょう)と呼ばれる後遺症の症状です。この場合には、抗ヒスタミン薬やステロイド薬を用いた治療が検討されることもありますが、疥癬が再燃している可能性も否定できないため、少なくとも1カ月は医師による経過観察を受ける必要があります。

疥癬と診断されたら? 家庭・施設でできる感染予防策

身近な人が疥癬と診断された場合は、治療と並行して感染拡大を防ぐための対策を取らなくてはなりません。家庭や施設で正しい予防策を講じることが、二次感染を防ぐことにつながります。通常疥癬と角化型疥癬のそれぞれで、注意すべきポイントについて確認しておきましょう。

通常疥癬の感染予防策

通常疥癬の場合は、感染しても速やかに治療を開始すれば特別な対応は必要ありません。基本的には投薬治療を続けるだけで、感染は抑えられます。

ただし、同室で患者さんと布団を並べて寝たりタオルや寝具などの肌に触れるものを共有したりするのはNG。介助の場合もなるべく長時間肌が触れ合わないように心がけ、患者さんと接した後は石鹸などで必ず手を洗浄しましょう。

角化型疥癬の感染予防策

一方、角化型疥癬に感染したときは、以下のような対策が必要になります。

シーツは毎日交換、ビニール袋に入れて別にしておく。患者さんが触れた寝具や衣類は50℃以上の熱めのお湯に10分以上浸してから洗濯する、もしくは乾燥機を20~30分程度かけて死滅させる。マットや床、寝具を丁寧に掃除する。部屋を掃除機で清掃する。血圧計や聴診器、体温計、トイレなどは専用のものを用意する。隔離部屋では予防着や手袋、マスクを着用し、履物も専用のものを使用する。集団生活においては、ほかの要介護者に疑わしい症状がある場合は早めに隔離・受診する。

家庭内でおこなう場合は感染範囲が限られているので、衣類やシーツの洗濯など、毎日できることだけで十分ですが、集団生活では感染拡大のリスクが格段に高くなるため、より厳格な管理が求められます。

特に疥癬は、完治したとしてもヒゼンダニが寄生すれば繰り返しかかる病気。一度感染が起これば対応に膨大な時間とコストを要するため、感染予防を徹底することが最も重要な取り組みになります。

受診の目安

集団感染を防ぐには、症状を見過ごさないことも大切。特に、以下のような場合は疥癬に感染している可能性が高いと言えます。2つ以上の項目に該当する場合は、速やかに皮膚科への受診を検討しましょう。

夜間に体にかゆみが強くなる。かゆみが普通の湿疹より強い、しこり状のかゆみがある。発疹やしこりなどの皮膚症状が見られる。身近に同様の症状を訴える人が複数人いる。

通常の湿疹と見分けが付きにくいかもしれませんが、疥癬は体温の上昇やホルモンバランスの変化によって、夜間にかゆみが強くなるのが特徴の1つ。要介護者に夜眠れないほどのかゆみがあるようなら、一度医療機関に相談してみてください。

まとめ

かゆみの強い通常疥癬とは異なり、角化型疥癬は「気付かないうちに広がる」ことが最大のリスク。特に集団生活となる介護現場では、ときに大規模な感染をもたらすこともあるため注意が必要です。命に関わる病気ではないので過度に恐れる必要はないものの「いつもと違う」小さな変化を見逃さないことが、集団感染を防ぐ重要なポイントになります。要介護者の皮膚を定期的にチェックする機会を設けるなどで、早期発見できる体制を構築しつつ、正しい予防策で感染拡大を防ぎましょう。

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。

取材・文/生垣育美
産科・婦人科領域の医療現場において医師の事務作業を専門にサポートする産婦人科ドクターズクラークとしての勤務を経て、第1子出産をきっかけにWebライターへ転身。夫・息子と3人暮らし。やんちゃな息子に振り回されながら、なんとか仕事と家庭を両立させる日々……。

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