Yahoo! JAPAN

トルコ対クルド:民族意識と独立を賭けた根深い紛争『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』

映画評論・情報サイト BANGER!!!

トルコ対クルド:民族意識と独立を賭けた根深い紛争『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』

シリア北西部からトルコ南部に食い込んでいるアフリン山岳地帯。『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』は、その乾いた山道を走る暗色の装輪装甲車の姿から始まります。独特の色合いの緑と岩からなる峻険なアフリン山岳地帯の光景は見惚れるほどの美しさです。

車内のトルコ陸軍特殊部隊「メテラー隊」の面々はスローガンを斉唱して互いに気合いを入れたりと、なんだか体育会のノリ。彼らはアフリン山地のクルド人テロ組織掃討作戦に向かうのです。

『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』© 2019 Neslihan Boz – Jineps Yapim / All Rights Reserved

トルコとクルド、因縁の戦い

かつて中東から北アフリカ沿岸部、そして東部ヨーロッパにまで版図を広げた、オスマン帝国という国がありました。現在のシリアもイランもイラクもオスマン帝国の一部だったのです。

第一次世界大戦によってオスマン帝国が崩壊すると、帝国内の少数民族だったクルド人は勝手に引かれた国境線によって切り離され、受難の歴史が始まります。ちなみに、『アラビアのロレンス』(1961年)は第一次世界大戦期のアラブ対オスマン帝国の武力闘争が物語の主軸となっています。

そしてこの時から、トルコ人とクルド人の民族意識と独立を賭けた紛争が延々と続いているのです。

残念なことに、この紛争の出口は見えてくる気配もありません。トルコにとっては武装していようがいまいが、かつてのオスマン帝国領域内でクルド人が一定勢力となることが許せません。クルド人もトルコに組み込まれて“トルコ化”することは受け入れられません。

『オペレーション:ウルフパック』でクルド武装力を「テロリスト」と呼んでいるのには、そんな背景があるのです。もっともクルド勢力側も分裂や衝突を繰り返した挙げ句、テロ事件を起こしているのも、事実ではあります。

『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』© 2019 Neslihan Boz – Jineps Yapim / All Rights Reserved

「情」のトルコ映画

トルコ軍は強く逞しくて偉い! クルドは狡くて悪いテロリストだ! な主張が繰り返される『オペレーション:ウルフパック』は、いわゆるひとつの国策映画ではあります。あるいは“ご当地映画”かもしれません。

たとえ国策映画でも映画として面白ければツッコミつつも楽しめるのですが、残念ながら本作はミリタリー・アクション映画として及第点に達しているとは言えません。銃撃戦も、味方の弾は次々と命中するのに敵の弾は当たらないのは定石だからよいとして、どうにも迫力がありません。

『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』© 2019 Neslihan Boz – Jineps Yapim / All Rights Reserved

8名の「メテラー隊」の戦闘技術も、自分のアサルトライフルの銃口と前方の味方が重なってしまったり――つまり味方射ちの危険がある――と、陸上自衛隊の教官に指導されるのは必至でしょう。また、せっかく登場するトルコ国産のKNT-308スナイパー・ライフルも、「狙撃シーン」という映画的盛り上げに貢献していないのが、なんとも残念。

ところで、物語中に回想シーンが何度も、ときには戦闘シーンを中断させてまで入ってきますが、これはトルコ映画の標準装備です。その回想シーンも、たとえばPKK(クルド労働者党)のテロ行為が激化した2009年、たとえばシリア内戦が周辺各国に波及し始めた2012年と、年表的なポイントを押さえたものです。あくまでもトルコの年表ではありますが……。

そして、タフで精強な隊長が部下の死傷に感傷的に懊悩するのも、トルコ戦争映画の標準装備。この、唐突にやってくる胸焼けしそうな濃い~い情感こそが、トルコ映画の特徴のひとつなのです。そこを認識していれば楽しめるトルコ映画ですが、やはり本作は国策臭が強く出てしまった感は否めません。

『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』© 2019 Neslihan Boz – Jineps Yapim / All Rights Reserved

映画に兵器にメイド・イン・トルコ

2000年代、メイド・イン・トルコの映画やTVシリーズが盛り上がっていて、ヨーロッパや中東でも好評を博しているとのことです。

イラク領内でIS/イスラム国に拉致された女性ジャーナリスト救出作戦の帰路、ISの虐殺に曝されているトルクメンの村人のために、任務でもないのに命を投げ出す7名のトルコ軍特殊部隊――という『エスケイプ・フロム・イラク』(2016年)は、回想シーンと情感と重兵器はマシマシ、国策臭はアッサリな、ミリタリー・アクション映画の佳作です。どこかで観たような内容ではありますけれど。

最後に。近年、トルコは兵器開発でも躍進しており、ロシア・ウクライナ戦争でトルコ製UAV(無人機)「バイラクタル」がロシア軍地上部隊を次々を撃破し、現地ウクライナでは「バイラクタルの歌」が唱和されているというニュースに接した読者諸兄姉も多いかと思います。

本作に登場するMRAP/耐地雷・耐待伏攻撃防護車両などの装輪装甲車両の生産輸出も堅調で、小型四輪軽装甲車は陸上自衛隊の軽装甲機動車の後継候補のひとつになったこともあります。

ということで(?)、トルコ映画には今後とも興味を持っていただければと思います。

『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』© 2019 Neslihan Boz – Jineps Yapim / All Rights Reserved

文:大久保義信

『オペレーション:ウルフパック 特殊部隊・群狼作戦』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2022年5月放送

【関連記事】

おすすめの記事