シルクフラワーの魅力を世のなかに伝える「朝日村まゆの花の会」。
新潟県北部にかつてあった朝日村では、農林業とともに蚕の繭から絹糸を作る養蚕業が盛んでした。ところが時代が昭和から平成に移る頃から徐々に衰退し、今では養蚕業をおこなう農家はほとんど残っていないようです。そんな養蚕業を地元の伝統として残したいという思いで、繭を使ったシルクフラワー作りに取り組んでいるのが「朝日村まゆの花の会」です。今回は「道の駅あさひ」のなかにある「朝日シルクフラワー製作工房」にお邪魔して、代表を務める横井さんからお話を聞いてきました。
朝日村まゆの花の会
横井 栄子 Eiko Yokoi
1957年村上市生まれ。新潟市や村上市の眼科医院で医療事務をしていたが、結婚を機に就農し養蚕に関わるようになる。その傍らで「朝日村まゆの花の会」を立ち上げ、シルクフラワーの製作や講習に取り組む。シルクフラワー以外にも手芸で花を作ることが大好き。
養蚕農家が集まってはじめた「朝日村まゆの花の会」。
——きれいな花がたくさん並んでいますけど、これらはすべて蚕の繭で作ったシルクフラワーなんですか?
横井さん:そうです。私たち「朝日村まゆの花の会」が作ったお花なんですよ。私はその会で代表を務めている横井と申します。
——よろしくお願いします。横井さんがシルクフラワーをはじめたいきさつを教えてください。
横井さん:JAが発行している「家の光」という月刊誌で紹介されていた、繭を使って作るシルクフラワーの記事を読んで興味を持ったんです。私もペーパーフラワーやリボンフラワーを趣味で作っていたので、自分の携わっている蚕の繭でお花を作れることに驚きました。そこでお友達と一緒に天童市へ向かい、シルクフラワーの体験講習を受けたんです。
——それからシルクフラワーにハマったんですね。ところで、横井さんも養蚕に携わっているんですか?
横井さん:はい、嫁ぎ先の専業農家では稲作や酪農の他に養蚕もやっていたんです。私が携わるようになった頃が養蚕のピークで、平成に入ってからはどんどん衰退していってしまいました。
——自分が育てた蚕の繭でお花が作れるのは、目からウロコだったんじゃないですか?
横井さん:本当にそう。出荷した繭を慌てて買い戻しました(笑)。それからはお友達と一緒に試行錯誤しながら、シルクフラワーを楽しむようになったんです。
——シルクフラワー作りはどんな魅力があるんでしょうか?
横井さん:繭が持つふんわりとした風合いや独特の質感ですね。材料に使う繭に同じものがないように、完成品にも個性が出るので同じものがひとつとしてありません。あと色が褪せにくく作品が長持ちするのも魅力でしょうか。
——なるほど。「朝日村まゆの花の会」は、どのように立ち上げられたんですか?
横井さん:昭和61年に「道の駅あさひ」の物産館がオープンすることになったんです。その際にシルクフラワーを朝日村の特産品として販売することになったので、養蚕農家を限定にやりたい人を募って22人でスタートしました。
——物産館でシルクフラワーを販売してみて、反響はいかがでしたか?
横井さん:思っていた以上に評判が良くって、自分達の作品が売れることに喜びを感じましたね。農家の嫁って自由に使えるお金がないから、お小遣い稼ぎができるのも大変ありがたかったです(笑)
——自分の作品が売れたらモチベーションも上がりますよね。
横井さん:そうなんです。お互いにライバル意識を持って切磋琢磨することで、作品のレベルアップにもつながりましたし、期日やノルマをしっかり決めていたので、それを守ることによって連帯感も生まれました。
シルクフラワーの魅力を伝える様々な活動。
——こちらの「朝日シルクフラワー製作工房」はいつ頃作られたんですか?
横井さん:平成8年です。「シルクフラワーを教えてほしい」という依頼が徐々に増えてきたんですけど、講習に使えるような場所がなかったんです。そんなとき、視察に訪れた県の農林部長に「朝日村まゆの花の会」を紹介する機会があったので、講習する場所がほしいという相談をさせたいただいて、3年後にこの建物を建てていただきました。本当に感謝しています。
——「朝日村まゆの花の会」の取り組みが認められたんですね。
横井さん:そうかもしれません。認めていただいたといえば、私達がシルクフラワーを知るきっかけになった月刊誌「家の光」の「記事の活用発表」で「朝日村まゆの花の会」の取り組みを紹介して、農林水産大臣賞をいただくことになったんですよ。
——それはすごいじゃないですか。
横井さん:旧朝日村としてもシルクフラワーに力を入れることになって、いろいろとバックアップしていただきました。そのおかげで全国各地のシルクフラワーを見て回ることもでき、ずいぶん刺激を受けましたね。なかでも「郡山シルクセンター」で見た菊の花は、繭の使い方が斬新で圧巻でした。
——村のバックアップもあって、活動の幅が広がった感じがしますね。
横井さん:そうですね。伊勢丹や東京の新潟アンテナショップでシルクフラワーの展示販売をおこなったり、全国都市緑化フェアでワークショップをやったりもしました。
——横井さんはシルクフラワーを製作する際に、どんなことを意識しているんでしょうか?
横井さん:私はこれまで布やリボンでお花を作ってきたので、繭の丸いフォルムが扱いづらいと思ってきたんです。でも今は独特の丸いフォルムの可愛さを生かすように心掛けています。
——「朝日シルクフラワー製作工房」ではシルクフラワー作りが体験できるんですよね。
横井さん:観光やドライブのついでに体験していく人や、ブライダルブーケを手作りしたい新婦さんなどいろいろな方が作りに訪れます。小中学校の体験学習で利用されることもあるんですよ。でも最初は会員のなかでも、作り方を公開することに賛否両論ありました。公開することで作品が売れなくなることを心配したからです。
——その心配もわかります。
横井さん:でも繭を手芸素材として販売するためには、シルクフラワーが作れる人を増やす必要があるんですよ。繭が売れることで需要が広がり、養蚕文化を後世に残すことにつながると考えているんです。
地元の特産品としてシルクフラワーを伝えていきたい。
——ちなみに養蚕はまだ続けているんですか?
横井さん:自給自足しています(笑)。養蚕文化を守っていきたいという思いもあるんですよ。養蚕業の衰退と共に県庁から養蚕に関わる部署もなくなってしまったので、県庁に養蚕にまつわる相談があると「朝日村まゆの花の会」に回ってきます(笑)
——シルクフラワーだけではなく、養蚕の相談にも対応しているんですね。
横井さん:そうですね。地元の学校から総合学習の相談がくることもあります。小学校でおこなっている蚕の飼育から繭の加工まで、ボランティアでお手伝いしたりしているんです。
——へぇ〜、地元の学校にも協力しているんですね。
横井さん:地元小学校の卒業式で胸につける花も、卒業生が自ら作ったシルクフラワーなんですよ。そうしたお手伝いもしています。養蚕がいつまでも忘れられないようにしていきたいですね。
朝日シルクフラワー製作工房
村上市猿沢1215
0254-72-0387
9:00-17:00
月曜年末年始休