特別支援学級に入るには自閉症の診断が必要と言われ…IQでは分からない「長男の困り」をどう伝える?
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
長男に合った就学先は?療育の先生からの提案で再度就学相談へ
長男が通っている療育の先生から、「学習意欲が高いけれど聴覚過敏がある長男には、環境的に自閉症・情緒障害特別支援学級のほうが合っているのでは?」といわれ、改めて就学相談に来た私と夫。
私たちとしても、療育の先生いわく「騒がしい雰囲気」だという知的障害特別支援学級は、長男には合っていないように思えました。だからといって通常学級で学ぶことには不安が残っていたため、やはり自閉症・情緒障害特別支援学級を検討したいと思っていました。
しかし相談員さんの話だと、初めて受けた知能検査の数値と、知的障害(知的発達症)と診断されている現状から、長男は自閉症・情緒障害特別支援学級に入る対象にはならないとのことでした。初めての知能検査から1年近く経っていたので、現段階の長男の知能を知るために、改めて検査を受けさせていただくことになりました。
※編集部注:子どもが受けることのできる知能検査には、さまざまな種類(田中ビネー、WISCなど)がありますが、同一の検査は1年から2年程度の期間を空けることが望ましいとされています。
知能検査の結果、話は意外な方向に……
2回目の知能検査を受け終え、結果を聞きに改めて就学相談へ。やはり前回の検査からはかなり結果が変わり、IQが100あるということでした。今回は落ち着いて知能検査を受けられたこと、検査の数値では理解する能力が高いということで、相談員さんからは通常学級への就学を勧められました。
しかし知能検査は、検査を担当する方と1対1で行われます。長男は、1対1のやり取りでの理解力は高くても、幼稚園などの集団生活の中では、指示を聞けなかったり、活動に参加できなかったりすることがほとんどだったため、やはり自閉症・情緒障害特別支援学級を検討したいということを改めて伝えました。
すると、自閉症・情緒障害特別支援学級は、医師からASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けているお子さんしか対象にならない(ADHD/注意欠如多動症も非対象)とのことだったため、相談後すぐに知的障害(知的発達症)の診断を受けた病院で、再度診察を受けることにしました。
※自閉症・情緒障害特別支援学級への入級の基準は自治体によって異なります。
知能検査の数値では分からない「長男の困り」はどうしたら伝わるの?療育先へ相談
受診希望者が多く、病院を予約できたのは数ヶ月後になってしまいましたが、何とか無事予約ができました。私たちは、2度目の知能検査の結果と就学相談で聞いた話を相談するため、療育先へ行きました。
療育の先生は事情を聞いてすぐに動いてくださり、病院からASD(自閉スペクトラム症)の診断をスムーズにもらえるよう、長男の療育での様子や困りごとをまとめた意見書を用意しますと言ってくれました。
療育の先生のサポートで光が見えてきた私たちですが、果たして自閉症・情緒障害特別支援学級への就学を認めてもらえるのか、数ヶ月後の病院の受診日まで落ち着かない日々を過ごすことになったのでした。
執筆/プクティ
(監修:室伏先生より)
就学相談にまつわるエピソードの続きについて、詳細を共有くださり、ありがとうございます。知能検査を再度受けられて、IQと診断が大きく変わったとのことで、一気に道筋も変化しましたね。
周りとのコミュニケーションや、コミュニケーションツールとしての言語に関心が向きづらいお子さんの場合、幼児期には言語発達が伸び悩むことも多いですが、言語理解や発語が進みだすとぐんぐん習得して、定型発達のお子さんと同程度の言語能力(場合によってはとても難しい言葉を使うことを好むお子さんもいますが)を身につけることはよく経験します。知能検査は、言語でのやりとりが必要なものが多いので、特に就学前のお子さんでは、本来お子さんが持っている理解力や判断力よりもIQとしては低く算出されてしまうこともあります。そのような場合には、言語能力が追いついた後に検査を受けると、ぐんとIQが上昇することもあります。
なお、お子さんが受けることのできる知能検査には、さまざまな種類(田中ビネー知能検査、WISCなど)がありますが、同一の検査は1年から2年程度の期間を空けることが望ましいとされています。これは、短期間のうちに検査を反復すると、以前の検査内容を覚えていて次の検査結果の信憑性が落ちてしまうことあるというのが理由です。どうしても再検査が必要な場合、検査を行う年齢や、ご本人の能力にもよりますが、異なる検査を行うこともあります。再検査を希望されても実施できないという可能性もありますので、知能検査の実施時期については就学相談も見越しての検討が必要です。これについては、実施する機関でご相談いただくとよいかと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。