遊びの島から医療・教育の島へ。神戸ポートアイランド栄枯盛衰の軌跡
博覧会・空港・医療。役割を重ねてきたポートアイランド
ポートアイランドは、神戸市中央区の沖合に浮かぶ人工の島だ。三宮駅から神戸新交通「ポートライナー」に乗れば、約10分で島の中心エリアにある市民広場駅に着き、そこからさらに10分程度で終点である神戸空港に到着する。
神戸市が山を掘削した土砂で海を埋め立てて造成されたのがポートアイランドで、日本で初めて本格的につくられた人工島として知られている。
島の様子を見てみると、港湾のクレーンや大学のキャンパス、病院や研究棟、そしてマンション群。さまざまな役割の施設が、ひとつの島の上に同居していることがわかる。さらに連絡橋を渡った先には神戸空港があり、島と空港は一体となって機能している。
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ポートアイランドの歴史を整理すると、節目は大きく3つある。
1つ目は1981年の街びらき。第1期の埋め立て完了を祝って開かれたのが、神戸ポートアイランド博覧会、通称ポートピア'81だ。半年間で1,600万人以上が訪れ、ポートアイランドは全国に知られるようになった。同時に、島内には遊園地「神戸ポートピアランド」や最先端のファッションビル、ホテルが立ち並び、関西圏の若者が集まる華やかな未来都市として大きな期待を集める。
2つ目は2006年の神戸空港の開港。第2期の埋め立てとともに空港島へと繋がるインフラが整備され、島は空の玄関口としての役割も担うようになる。
3つ目は1998年に動き出した神戸医療産業都市構想だ。ポートアイランドは今や、330を超える医療関連機関・企業が集まる、国内最大級の医療拠点へと成長している。
ここで注目したいのは、新しい役割が古い役割を消してきたわけではないという点。博覧会の後に空港ができ、その近くに医療や研究の施設が増えていった。古い顔と新しい顔が、層のように積み重なっているのだ。
島が向き合う商業の停滞と人口減少という課題
ただし、ポートアイランドが歩んできた道のりは、明るい話ばかりではない。1995年の阪神・淡路大震災では深刻な液状化被害に見舞われ、その後、島外へ人が流れる契機となった。震災前には2万人を超えていた島の人口は、今ではおよそ1万5,000人にまで減少している。65歳以上の割合は約30%で、神戸市全体よりもやや高い。
神戸市内の人工島で進められた商業開発の停滞については、LIFULL HOME'S PRESSの記事「神戸から考える持続可能な商業開発」でも取り上げている。大型商業施設の中心となる店舗が撤退し、かつてのにぎわいが薄れてしまった流れは、ポートアイランドにも見られる。
神戸市も「にぎわいが失われつつある」と現状を認めており、2006年にはかつての象徴であった神戸ポートピアランドも閉園。華やかな「遊びの島」としての役割は終焉を迎えたといえる。
国内最大級の医療拠点
震災後、人口減少や集客施設の相次ぐ撤退により空洞化していたポートアイランドだが、そこから再生の道を歩み始める。神戸経済の立て直しと新たな産業の創出を目的として1998年に始動した「神戸医療産業都市構想」により、今度はかつての商業やレジャーとは異なる「医療・研究」という新たな軸で発展を遂げ、
現在は国内最大級の医療研究拠点にまで成長した。再生医療や創薬、医療機器の開発など、最先端の医療研究がこの島で進められている。
さらに、研究機関だけでなく、人々の暮らしに直結する病院も島の中にそろっている。救急医療を担う神戸市立医療センター中央市民病院、眼科の専門病院である神戸市立神戸アイセンター病院、そして2016年に須磨区から移転してきた兵庫県立こども病院などだ。
兵庫県立こども病院は、ハイリスクの妊婦・新生児に対応する総合周産期母子医療センターや、小児の三次救急に対応する小児救命救急センターの機能を兼ね備え、隣接する神戸陽子線センターと連携して、小児がんの陽子線治療まで提供している。
子育て世代にとって、近くにこれだけの病院がそろっていることは心強い。子どもが急に発熱したときや専門的な治療が必要になったとき、車で数分の場所に小児医療の拠点があるという安心感は、街選びの判断材料になるだろう。
同じ島の中に、研究機関も病院も住まいもそろっているポートアイランド。これだけの医療環境が日常の生活圏にそろっている街は、全国を見渡してもそう多くはないだろう。
島の中で完結する教育環境
医療と並んで、子育て世代の関心が高いのが教育環境だ。ポートアイランドには、「ポーアイ4大学」と呼ばれている私立大学群がある。
・神戸学院大学
・神戸女子大学
・神戸女子短期大学
・兵庫医科大学(薬学部・看護学部・リハビリテーション学部)
これらの大学間では、図書館や食堂の相互利用、単位互換制度をはじめ、地域住民向けの公開講座や合同イベントなど、教育内外で幅広い連携を展開している。
小中学校についても、島内で完結する教育環境が整っている。2016年には、小学校1年生から中学校3年生まで9年間を一貫して学べる「神戸市立港島学園」が開校した。
こうした学校が徒歩や自転車で行ける範囲に集まっているのが、ポートアイランドならではの魅力だ。
小学校からその先の進学先まで、選択肢の多くが島の中に存在する。計画的につくられた人工島ならではの、密度の濃い学びの環境といえるだろう。
課題と3つの大きな動き
ポートアイランドの交通を支えているのが、神戸新交通「ポートライナー」だ。短時間で神戸の中心部や空港に行ける利便性は、ポートアイランドならではの強みといえる。
ただし、課題もある。
朝のラッシュ時の混雑は、長く指摘されてきた問題だ。神戸空港の国際化により利用者がさらに増えることが見込まれているため、神戸市・神戸新交通・神姫バスは複数の対策を組み合わせて進めている。
車両の追加投入や連節バス「ポートループ」の運行、通勤・通学定期券保有者がバスを無料で使える共通乗車証の社会実験など、課題解決に向けてさまざまな取り組みが続いている。
そしてこれからのポートアイランドでは、3つの大きな動きが控えている。
1つ目は、神戸空港の国際化だ。すでに2025年4月18日から国際チャーター便の運航がスタートし、ソウル、台北、上海、北京などへの直行便が島から飛び立っている。2030年頃には国際定期便の就航が予定されており、神戸に住みながら海外がより近くに感じられるようになるだろう。
2つ目は、神戸医療産業都市のさらなる拡張だ。2024年には構想開始から25年の節目として将来像が策定され、「バイオ・メディカルの国際的ゲートウェイへ」という方向性が打ち出された。これまで研究中心だった取り組みを、バイオものづくりや医療ロボットなど成長分野の産業化へと広げていく計画だ。この計画が進めば、島で新たな雇用が生まれ、仕事の選択肢が広がることにつながるだろう。
3つ目は三宮再開発との連動。三宮駅前では、地上32階の複合ビル「神戸三宮TWINGATE」の計画が進行中で、低層階には西日本最大級の新バスターミナルが整備される。2029年度には(仮称)三ノ宮新駅ビルも開業予定だ。歩行者デッキも整備され、ポートライナーで三宮に着いた人が、雨に濡れずにJR・阪急・阪神・地下鉄や新バスターミナルへ乗り換えられるようになる。島の玄関口といえる三宮が便利になることで、ポートアイランドの暮らしやすさも向上するだろう。
派手さではなく暮らしの土台で選ぶ街
ポートアイランドの魅力は「機能の密度」だ。かつてのようなに華やかな遊園地やぎやかな商業施設があるわけではないが、医療・教育・交通など、暮らしのインフラが半径数キロの島の中にコンパクトにそろっているのがこの街の強みだ。
人工島だからこそ、街の機能をひとつずつ計画的に積み重ねてこられた。博覧会の島から、空港のある島、医療研究の島、そして住む人のための島へ。ポートアイランドはそうやって姿を変えながら、ゆっくりと厚みを増してきたのだ。
ハード面だけではない。2022年からは、神戸市によって「ポートアイランド・リボーンプロジェクト」が始動。街の人材の発掘や遊休地や公共空間を活かす試みといった、街の魅力を引き出すエリアマネジメントに、行政と住民と企業がパートナーとなって取り組んでいる。
派手さよりも、暮らしの土台がしっかりしていること。これを軸に住む場所を考える子育て世代にとって、今のポートアイランドは有力な候補の1つになるはずだ。
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ポートアイランド・リボーンプロジェクト(神戸市)
杉山 明熙
不動産特化ライター
元不動産営業のWEBライター。宅地建物取引士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、賃貸不動産経営管理士。12年間の不動産営業を経験後、不動産特化ライターとして大手メディアや不動産会社のオウンドメディアで、住まいや不動産投資に関する記事を多く提供している。不動産業界経験者にしかわからないことを発信することで「実情がわかりにくい不動産業界をもっと身近に感じてもらいたい」をモットーに執筆活動を展開中。