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市川猿之助&中村隼人「博多座・南座公演は芝居を凝縮」亡き原作者への想いも 「スーパー歌舞伎『オグリ』」取材会

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(左から)中村隼人、市川猿之助

「スーパー歌舞伎II(セカンド)『新版 オグリ』」が2020年2月から福岡・博多座、そして3月から京都・南座にて上演される。その公演に向けた取材会が、2019年11月22日(金)東京・新橋演舞場内にて行われ、この日の公演が終わったばかりの市川猿之助中村隼人が出席した。

本作は、三代目市川猿之助(現・市川猿翁)によって1991年に初演された「スーパー歌舞伎『オグリ』」を、横内謙介が脚本、そして当代猿之助と杉原邦生が演出を勤めて作り上げたもの。猿之助と隼人が小栗判官役と遊行上人役で交互出演する形式をとっている。

取材会で、猿之助は博多座、南座の公演を演舞場での公演とは「変えて臨みます」と語る。その変更点について猿之助は「上演時間を短縮します。というのも博多座は特に九州の近郊から、南座は大阪方面からお客様がいらっしゃるという事で20時半前に終わらないと地元に帰れない。九州って近いようで実は結構遠いんです。でも皆さん遠くからいらっしゃるので。また本作の見どころの一つである、馬に乗っての“客席左右同時両宙乗り”が南座では劇場の制約で、馬が1頭しか飛べないんです。2頭飛んだら天井が抜けます」と笑いながら話しつつ、様々な点を踏まえて「芝居を凝縮します。2か月(新橋演舞場で)やってここはいらない、ここは増やしたほうが良い、というような点も見えてきましたから」とブラッシュアップする方針を語った。

武芸学問に通じた美貌の若者、小栗判官=オグリは、縛られることを嫌って心のままに生き、集まった若者たちとともに横山修理の娘、照手姫を輿入れ行列から奪い去る。照手姫とオグリは強く惹かれ夫婦となることを誓うが、修理は二人の仲を許さず、オグリたちは殺される。閻魔大王の前にやってきたオグリたちは地獄で大立廻りを繰り広げるが、ついには捕えられ、オグリは顔も手足も重い病に侵された餓鬼病(がきやみ)の姿で娑婆に送り返される。
生き返ったオグリは、遊行上人(市川猿之助・中村隼人)の導きで善意の人が曳く土車に乗り、熊野を目指すこととなるが……という物語。

互いの演技の魅力を尋ねられると猿之助は「(若いころのオグリを演じる)1幕、2幕はこの人(隼人)がやって、(餓鬼病となる)3幕は僕がやるのがベストだね。それに尽きますね」と笑いを誘う。そして隼人演じるオグリの魅力を「等身大の、飛ぶ鳥を落とす勢いのある若さがピッタリですね。オグリと照手姫の関係も隼人がやると相思相愛、僕がやると照手が甘えてくる関係になる」と隼人の演技を褒める。またもう一役の遊行上人役に付いても「(隼人がやる)遊行上人は本当に悩むお坊さん。極楽は本当にあるのかと。僕が演じる遊行上人はうさんくさい新興宗教の教祖様。薬師如来も閻魔大王も操っているんじゃないかというくらい、うさんくさい坊主」とさらに笑わせていた。
一方、隼人はオグリとしての猿之助の演技を「オグリは人々の心を掻き立てる兄貴のようなリーダーシップをとり、考え方が違う人も変えてしまうような人。猿之助さんのオグリにはそういう面が強く出ていると思います。ある種“オグリ教”のような力を。2幕の閻魔大王とのやり取りについても(猿之助のオグリは)アタマがいいからお前らのいう事は全部分かっているけどこうだ! と言い切る姿。僕にはまだまだ及ばないところです。3幕目の光も何もない絶望感やおどろおどろしさは人生経験の違いですね。僕もそんなものが出せるようになりたいです」と尊敬の念を示していた。

質疑の中では「オグリ」の原作を手掛けた梅原猛の話も飛び出す。惜しくも今年1月に他界した梅原について、猿之助は「生前先生に『オグリ』をやりたいんですが、と話をしたら『君の自由にやっていいよ』と言ってくれました。本番を観ていただきたかったんですが間に合わず、代わりにご長男さんがご覧になってくれてとっても喜んでくれたんです。『梅原がいた』とおっしゃってくださって。この後の公演について「梅原猛没後1年追善興行」とタイトルにしたいくらいです」と亡き恩人を偲んでいた。

本作について感想を聞かれた隼人は「2幕にスマートフォンが登場するじゃないですか。誹謗中傷する人って相手の事を思いやらず、結果的にある悲劇が起きるんですがそこにいる人たちは自分が悪いとは思っていない。これって今のネット社会を描いているのかなと思いました。自分が直接手を下さなくても人に影響を与えてしまう、スマホのようなツールを持っているということに、何かを感じてもらえたら。また3幕目では今まで出来ていた事が全くできなくなり、人の優しさやつながりを感じていく。僕自身もこの作品を通して考え方が変わりましたね」と思いを口にした。
そして舞台で鏡を使った演出について「初めての経験です。とはいえ僕ら役者は後ろを向いた時、背中で役が出るって言われますので意識して演じていましたが、実際、全部鏡に映ってしまうので、鏡の中の自分に一瞬我に返ってしまう事もありました」と苦笑いを浮かべていた。

猿之助は『オグリ』に出演する若手役者たちにも触れる。「オグリと小栗党の人たちは対等な仲間なんです。今回若手は本番をやるうちにどんどん個性が出てきた。あれは彼らの努力の賜物ですね」と称える。「歌舞伎ってのはどうしてもスター性が出てしまうが、『オグリ』は横一列の群像劇にしたいんです。その上で出てくる個性というのを大事にしたいんです。本当に若手の子は目がイキイキしてます。稽古の時はどうしようかと思ったが(笑)、今は本当にすばらしいです」と笑みを浮かべていた。

時折飛び出す猿之助さんの冗談に隼人さんがこの大笑い!

また、スーパー歌舞伎そのものについてどう思うか? という質問が飛ぶと、猿之助は「頻繁にやることで、逆に『古典歌舞伎のほうが新しいじゃん!』と思ってもらえたら嬉しいですね」隼人も「『新版 オグリ』を観て、古典の小栗判官の物語も観てみたいと言ってくれるお客様が増えました」と相槌を打つ。「僕らがやっていることは古典へのリスペクトでもありますから、古典の認知度を上げるためにもいい方向に向かうことができているのでは」と胸を張っていた。

最後に猿之助はこの作品を通して「幸せとは何かを問いたい」と語る。「他人を殺したり傷付けたりすることを“幸せ”と感じる人もいるかもしれないが、それが本当に幸せなのか? 本当の幸せって何なのか? を問いたいです」と力を込めると、隼人も大きく頷いていた。

取材・文・撮影=こむらさき

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