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【8月30日改訂】中小M&Aガイドライン(第3版)などが専門業者にもたらすもの

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【8月30日改訂】中小M&Aガイドライン(第3版)などが専門業者にもたらすもの

2024年8月30日、中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」を改訂した(以下、「本ガイドライン改訂」という)。

同年5月31日に2024年度の登録申請受け付けが開始されたM&A支援機関登録制度1における一部変更(以下、「本登録制度変更」という)と合わせて、本年度は二度の重要な変更が中小M&A2を支援するM&A専門業者に生じたことになる。M&A専門業者とは、中小M&Aの手続き進行に関する総合的な支援を専門に行う民間業者をいい、主に仲介者とフィナンシャル・アドバイザー(以下、「FA」という)に分類される。

本稿では、中小M&Aの支援市場に根を張った課題や本ガイドライン改訂を概観しつつ、これらの改訂・変更が中小M&Aの支援を行うM&A専門業者に及ぼす影響を考えてみたい。

「中小M&Aガイドライン」改訂の趣旨

本ガイドライン改訂は、不適切な譲受者の存在や経営者保証に関するトラブル、M&A専門業者が実施する過剰な営業・広告などの課題に対応し、中小M&A市場における健全な環境整備とM&A専門業者における支援の質の向上を図る観点から行われた。

なお、本ガイドライン改訂は2020年3月に策定された初版から二度目の改訂だ。一度目にあたる2023年9月の改訂では、M&A専門業者が顕著に増加する中で(2023年6月末時点で、登録されたM&A支援機関数は3133件にまで上っていた。図表を参照)、その契約内容や手数料のわかりにくさ、担当者によっては支援の質が十分と言えない場合があるといった声が聞かれるなどの状況を受けて実施された。

本ガイドライン改訂でも、M&A専門業者における支援の質の向上を図る意図が明確にされていることから、引き続き増加しすぎたM&A専門業者の支援の質に焦点が当たっているのは明らかだ。

1 中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤を構築するために2021年8月に創設された国の制度であり、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言するなどした仲介業務またはFA業務を行う者が登録を受けることができる制度。
2 中小M&Aガイドラインでは、「後継者不在の中小企業の事業を、M&Aの手法により、社外の第三者である後継者(以下、「譲受者」という)が引き継ぐ場合をいう」と定義されている。

「中小M&Aガイドライン」改訂の概観

中小M&Aガイドラインは、その効果を及ぼそうとする対象別に、中小M&Aの当事者となる中小企業向けの手引きと、M&A専門業者を含む支援機関向けの行動指針から構成されている。本稿では、そのうちのM&A専門業者向けの改訂のみを取り上げる。

本ガイドライン改訂における主な変更点は以下のとおりで、詳細は同ガイドラインに譲るものの、中小M&A市場の活況に伴って増加したM&A専門業者のうち、一部のM&A専門業者の営業活動や提供サービスの質について深刻な状況にあることがうかがい知れる内容となっている。
高い専門性と高度な職業倫理が求められるプロフェッショナルなM&A専門業者に対し、箸の上げ下ろしや倫理観まで指針として示さなければならない現況を危惧するばかりだ。

①仲介者・FAの手数料・提供業務に関する事項
手数料の詳細説明、プロセスごとの提供業務の具体的説明、担当者の保有資格・経験年数・成約実績の説明

②広告・営業の禁止事項の明記
広告・営業先が希望しない場合の広告・営業の停止、当該停止意思の社内記録と共有

③利益相反に係る禁止事項の具体化
追加手数料を支払う者やリピーターへの優遇の禁止、情報の伝達に係る禁止事項の明確化。加えて、これらの禁止事項は仲介契約書に仲介者の義務として定める旨を明示

④ネームクリア・テール条項に関する規律
対象となる中小企業の名称の譲受者への開示(ネームクリア)前の、譲渡者の同意の取得

⑤最終契約後の当事者間のリスク事項について
リスクの認識時、最終契約締結前などに、当事者間でのリスク事項についての依頼者に対する具体的説明

⑥譲渡者の経営者保証の扱いについて
士業専門家などへの相談が選択肢となる旨の説明、最終契約における経営者保証の扱いの調整

⑦不適切な事業者の排除について
譲受者に対する調査の実施、調査の概要・結果の依頼者への報告。不適切な行為に係る情報を取得した際の慎重な対応の検討。業界内での情報共有の仕組みの構築の必要性、当該仕組みへの参加有無の説明

時事対応:不適切な譲受者への対応など

近時、中小M&A市場においては不適切な譲受者による被害が相次いで報告され、大きく取り沙汰されていた。本ガイドライン改訂により、早急な手当てがなされた格好だ(前記「本ガイドライン改訂の概観」⑥・⑦を参照)。

被害にあった譲渡者や対象となった中小企業によると、不適切な譲受者は、買収後に経営管理料や役員報酬といった名目で買収の対象となった中小企業から現預金を吸い上げて突如連絡を絶つという行為を繰り返していた。当該行為を原因として破綻を余儀なくされた中小企業は複数ある、との報道もなされていた状況だ。

被害はこれだけにとどまらず、従前、譲渡者が負担していた経営者保証を買収後に譲受者側で承継する対応もなされていなかったため、被害は譲渡者個人にまで及んでいたという。

上記の事件を原因として、中小企業の経営者が事業承継に消極的になるようなことがあれば、経営資源の承継やサプライチェーンの維持がなされず、地域経済において大きな損失となる。そのような悪影響を回避するため、早急な対応がなされたことの意義は大きい。

「中小M&Aガイドライン」改訂および本登録制度変更がM&A専門業者に及ぼす影響

最後に、本ガイドライン改訂では顕著に増加したM&A専門業者の趨勢(すうせい)を決定づけると思われる改訂が行われたことに注目したい。

具体的には、前記「本ガイドライン改訂の概観」①仲介者・FAの手数料・提供業務に関する事項において、M&A専門業者が提供する業務の質の確認材料として「担当者の保有資格・経験年数・成約実績」が示された。

これにより、有資格者や長年にわたる経験および多数の成約実績を有する担当者を多く抱えるM&A専門業者の競争優位性が必然的に高まる傾向となった。当該事業者に急増・乱立したM&A専門業者の勢力が、集約・収束していく流れが決定的となったものと思料するところだ。

また、本登録制度変更により、本年度からM&A支援機関の登録要件として、中小M&Aガイドラインの遵守宣言を行うほか、M&A支援機関登録制度ホームページにおいて手数料体系の公表を行うことが新たに義務づけられた。
これに伴い、各登録支援機関の標準的な手数料体系、成功報酬の算定方法や最低報酬などの公表が開始されている。
本登録制度変更により、M&A専門業者によって異なっていた手数料もまた一定の手数料体系・算定方法に収束していく流れが決定的(仲介者の場合には、株式価値を基礎とするレーマン方式への収束可能性が濃厚)となったものと思料するところだ。

参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-」令和6年8月
中小企業庁「M&A支援機関登録制度公募要領」令和6年度

執筆者:フロンティア・マネジメント株式会社 森山 貴至

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