輝く響き! ARK BRASS×ナカリャコフが魅せた流麗なブラスサウンドの一夜【レポート】
ARK BRASSはトランペットの佐藤友紀、ホルンの福川伸陽、トロンボーンの青木昂、テューバの次田心平をコアメンバーに、2021年に、サントリーホールARKクラシックスのレジデント・プラス・アンサンブルとして結成されたブラス・アンサンブル。以降、各地でリサイタルや、アルバムリリースなど精力的に活動を行っている。2024年9月28日(土)にはサントリーホール・ブルーローズ(小ホール)で、リサイタル『ARK BRASS サタデーナイトブラス』が催された。
ARK BRASSは、コアメンバーの4人に加え公演ごとにアソシエイトメンバーを招いており、今回は最大11人による編成。ゲストプレイヤーとして、トランペットの名手、セルゲイ・ナカリャコフを迎えた。
ブラス・ファンたちによる熱い拍手に迎えられ11人が登場。1曲目はハワース「プロセッショナル・ファンファーレⅠ」で開幕を告げ、心地よい倍音を響かせて終止すると、続けてプログラム2曲目のヘイゼル「クラーケン」へ。冒頭はわくわくする軽快さで始まり、中間部の緩やかな旋律ではやわらかな音色で色彩感を一変させた。続いて軽快なソロが絡み合い、冒頭のテーマをより華やかに再現し音楽を閉じた。オープニングに相応しいブリリアントで洒脱な演奏だった。
続いては久石譲『天空の城ラピュタ』BRASS組曲(石川亮太編)より「ハトと少年」「空から降ってきた少女」。ARK BRASSは、今後、映画音楽に力を入れていきたいそうで、現在、映画『天空の城ラピュタ』の組曲を編曲中とのこと。本日はその中から2曲が初お披露目となった。主人公・パズーによるおなじみのトランペットの旋律から始まり、各楽器がリレー。軽快なリズムに裏打ちされる素朴で軽やかなブラス・アンサンブルらしい編曲だった。「君をのせて」のメロディーが登場する「空から降ってきた少女」は、自由自在に浮遊するような息遣いで旋律を紡ぎ、会場を包みこんだ。
エヴァルド「金管五重奏曲第1番」変ロ長調Op.5はロシアの冬を描いた作品。テューバソロで始まり、暗く寒々しい冬の空を彷彿とさせた。トゥッティのクレッシェンドは息もぴったり。細かな強弱の変化が、吹きすさぶ冬の風を思わせる演奏だった。第2楽章では暖炉のあたたかさ、それによるまどろみをやわらかい音色で表現。第3楽章では厳格な冬に対抗するようなたくましさや力強さが感じられる華やかな音色で音楽を閉じた。トランペットの佐藤のMCによると、この曲は華やかさだけではない、金管五重奏のさまざまな表現を聴ける曲とのこと。その言葉通り、陰りや明暗などの音色の多彩さが遺憾なく発揮されていた。強弱や曲想がコロコロと変化する曲だが、終始全員の息がピッタリと合っていたことが印象的だった。
アーバン「ヴェニスの謝肉祭 変奏曲」(ミハイル・ナカリャコフ/石川亮太編)とディニーク「ホラ・スタッカート」は本日のゲストプレイヤーであるセルゲイ・ナカリャコフを迎えての演奏。ナカリャコフとARK BRASSとの共演は、今回が3回目。佐藤は、ナカリャコフと同い年だそうで「刺激を与えてくれる相手」と紹介した。
「ヴェニスの謝肉祭 変奏曲」ではトロンボーンが陽気にナカリャコフのソロをお迎え。ナカリャコフの素晴らしいタンギングと跳躍のテクニックに刮目。細かな音を流れるように吹き、そのなかに繊細な音のニュアンスの変化が織り込まれ、まさにカーニバルの曲芸師のような離れ業で観客を魅了した。「ホラ・スタッカート」はおなじみの循環呼吸で30秒あまりの長いフレーズを軽快に吹き切る技工に、皆が息を呑んでいた様子だった。
ナカリャコフのあとはホルンの福川がモンティ「チャルダーシュ」で魅せてくれた。前半のゆったりしたパートでは思いがけない艶めかしい音に驚かされた。後半の速いパッセージでは均一な息の流れでしっかりとコントロールし、世界一難しいといわれる楽器ホルンを自由自在に操った。
トロンボーンの青木も負けていられない。「ロンドンデリーの歌」(アイルランド民謡/アイヴソン編)では、切ない哀愁を漂わせたソロから始まり、3本のトロンボーンが加わった後トゥッティへ。次第に彩りが豊かになり、華やかさと多幸感を帯びてくるが、最後はしっとりとトロンボーンで音楽を終えた。聴く人の思いを遠くに馳せさせるトロンボーンの音色の魅力が遺憾なく発揮されていた。
プログラム上の最後の曲はヘイゼル「3匹の猫」。「ミスタージャムス」はフレーズのラインが流れるように美しい爽やかなサウンドで、ARK BRASSの魅力をとくに感じられる演奏だった。「ブラック・サム」はスイング感が心地よく、「バーリッジ」では厚みのあるハーモニーで怪しげな雰囲気を緊張感をもって聴かせた。
アンコールはテューバの次田が大活躍。J.S.バッハ「バディネリ」で、これまで低音とリズムを担ってきたところから急浮上し、ソロを務めた。焦燥感あふれる音楽でアンサンブルを牽引しながらも、会場をあたたかな低音で満たした。続いて、「かっこう」(スイス民謡)では次田が重ねた手のひらを笛にし、メンバーの演奏に「かっこう」の合いの手を入れ、笑いを誘った。
ここで、再度ナカリャコフが登場し、佐藤と二人でフリューゲルホルンによるA. Shilkloper「Take 7」を披露した。同じ音型を双子のように並走する二重奏は、息がぴったりながらも、その速いパッセージから生まれる緊張感がスリル満点。最後はさらにテンポアップしたのちオクターブでハモり、終止。緊迫感から開放された客席からはため息と同時に拍手が起こり、ステージ上の二人は肩を抱き合ってお互いを称え合った。
最後は11人全員でフィリップ・ジョーンズ編「ヴェニスの謝肉祭 変奏曲」。ナカリャコフソロとはアレンジが異なり主旋律を各楽器が受け持つので、より多様な謝肉祭のシーンが想起され、にぎやかに今夜の幕を閉じた。
ARK BRASSの魅力は、流麗な演奏と陽気で爽やかなサウンドだ。10月30日には、2ndアルバム『展覧会の絵』が発売予定で、11月7日(木)にはスペシャル・ゲストにトランペットの松井秀太郎と、ピアノの川田健太郎を迎えた紀尾井ホールでの公演も予定している(地方公演あり)。この秋、ARK BRASSが各地に清々しい秋風のような演奏を届けてくれそうだ。
取材・文=東ゆか