聡実と狂児の関係性は、自分の感情を表に出さない「ドライ感」が魅力的。『カラオケ行こ!』堀江瞬さん×小野大輔さんインタビュー|リミッターを外して挑んだ「紅」の歌唱シーン
和山やま先生の『カラオケ行こ!』と『夢中さ、きみに。』が2作品同時にTVアニメ化! 全話好評配信中!
『カラオケ行こ!』は、合唱部の部長で、最後の合唱コンクールを控えた中学生「岡 聡実」が、組のカラオケ大会でビリになりたくないヤクザ「成田狂児」と出会う物語。狂児の歌の練習を通して、二人の関係性が変化していく、中学生とヤクザの奇妙なドラマを描いた作品です。
アニメイトタイムズでは最終話を迎えた本作の、聡実役・堀江 瞬さんと、狂児役・小野大輔さんのインタビューを公開! 演じるキャラや作品の魅力、そして本作の目玉ともいえる歌唱シーンの収録についてなど、たっぷりとお話を伺いました。
【写真】『カラオケ行こ!』堀江瞬&小野大輔が「紅」の歌唱シーンを振り返る/インタビュー
クールを通り越してシュールな作品。一方で、熱い人間ドラマも楽しめる
──『カラオケ行こ!』の原作を読んだり、演じてみて感じた作品の印象と魅力を感じた点をお聞かせください。
小野大輔さん(以下、小野):和山やま先生の他の作品は『女の園の星』などを読んだことがありましたが、『カラオケ行こ!』についてはオーディションを受ける時に読んで、「これも和山先生の作品なんだ!?」と初めて気付きました。唯一無二の絵柄で、キャラクターのすごい熱量を描いているはずなのに、どこかクールでシニカルな感じで。でもクスッと笑える瞬間が必ずあって、スタイリッシュさの中に、人間の熱い部分を描いているところが好きだなと思いました。
──和山さんは、ホラーマンガ家の楳図かずおさんや伊藤潤二さんの影響を受けているそうです。
小野:確かに楳図先生や伊藤先生の絵柄の、ガッと驚くところっぽいテイストの作画をされていますよね。
堀江 瞬さん(以下、堀江):友達に『カラオケ行こ!』と『夢中さ、きみに。』を熱心に勧められて、試しに『カラオケ行こ!』を読んでみたところ、聡実と狂児の関係性に焦点が当てられていて、一つの人間ドラマとして楽しめる作品だなと思いました。
また、和山先生の作品の真顔でシュールなことを言ったり、したりするところも好きで。
小野:確かに、クールを通り越してシュールだね。
堀江:そういう雰囲気が読んでいて、とても楽しくて。役が決まってからは、「この空気感を、僕がお芝居として声をのせる時にどう表現すればいいのかな」とドキドキしていました。
狂児はヤクザなのに哀れみを感じない、カッコいい男。小野さんが好きなB’zの曲とは?
──演じるキャラクターの印象についてお聞かせください。まずは小野さんからお願いします。
小野:狂児は極道なので、人の道を外れた生き方しかできない男で。そういう人たちは普通、もっと切羽詰まっていたり、悲壮感があったりして、同情したくなることもあると思うんです。でも狂児は、見ていても哀れみとかは一切感じなくて、ずっとひょうひょうと、淡々としていて。むしろ人生を楽しんでいたり、自分の境遇を遊んでいるような感覚があって。肩肘を張らず、力が抜けている感じがカッコよくて、男も惚れる男だなと。
でも、こういうキャラを演じるのは難しいですね。僕は極道だった経験もないですし(笑)、僕が生きてきた人生と性格とはまったく真逆な人なので、「どう演じようかな?」と。
あと、彼が唯一カッコよくないところは歌がヘタなところですが、僕は今まで、キャラソンとして主題歌や挿入歌を歌ったことはありますが、その時は当然うまく歌わなければいけません。これまでは作品の邪魔にならずに寄り添うように歌ってきましたが、今回は逆にヘタに歌わなければいけなかったのが、すごく難しかったです。悩んだ時に一つヒントになったのは、彼と似たところを見つけたこと。狂児はX JAPANの「紅」がすごく好きということで、自分のキーに合っていないのに、ずっと歌い続けてきて。僕もB’z(正式なアクセントで)が好きなんですが、キーがまったく出せないんです。
──ボーカルの稲葉浩志さんのキーはすごく高いですからね。
小野:それなのに、高校生の時にカラオケに行った時は無理やり歌っていました。その時のことを思い出して、「狂児もかわいいとこあるじゃん!」って。そこからうまく掴めた気がします。
──ちなみに、B’zでよく歌う十八番の曲は?
小野:「Ultra Soul」とか「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」がすごく好きなんですが、まったく歌えなくて。カラオケだと自分に合うキーに下げられるので、「悔しいな」と思いながら、4つくらい下げています(笑)。でも「いつかのメリークリスマス」だけは原音のキーで歌えるんです。なので、B’zを歌いたくてもキーが出ない人にはこの曲をオススメします(笑)。
聡実は見た目とは裏腹に激情が渦巻く男の子。過去の自分と重ね合わせながら収録
──続いて、堀江さんから聡実の紹介をお願いします。
堀江:聡実はかわいらしい子だなと思います。見た目もティーンの雰囲気がある、等身大の男の子だなという印象です。それとは裏腹に、嫉妬深くて、心の中に激情みたいなものが渦巻いているのがすごく人間らしくて。演じる上でそこが指針になりました。
小野:確かに、そういうところあるもんね。
堀江:バレてましたか?(笑)
小野:堀江くんのお芝居を見ていて、「堀江くんって、そんなに熱さがあるんだ!?」と思ったし、その爆発力がすごいので驚きました。役者としてすごいなと。
堀江:嬉しい。僕は学生時代に陸上部に入っていたんですが、入部したての頃は何も知らずに始めたばかりなのに待遇が良くて、少しだけちやほやされていました。そこから学年が上がるにつれて、もっと速い後輩が出てきて。僕は長距離走をやっていましたが、最初は後輩の前を走っていたのに、いつの間にか、後輩の背中を追いかけるようになっていきました。悔しい気持ちはありつつ、当時はその気持ちに真っすぐに向き合うのはダサイと思って。より自分がみじめになるからちょっと目を逸らして、「でも俺、練習ちょっとサボっていたしな」とか言い訳したりして、自分の心を平常に保とうとしていました。そんな「青春のひずみ」みたいな部分が聡実くんにもあるというのが、過去の自分と重なって、心をリンクさせながら演じられたかなと思います。
──聡実は会話のセリフに加えて、モノローグも多いので、大変そうだなと思いました。
堀江:セリフ数は結構多いんですが、不思議とあまり気にならなかったです。それは、モノローグの部分は本線(の収録)では飛ばして、僕だけ残って、最後にまとめて一気に録るやり方だったため、本線では会話だけに集中できたことが大きかったのかもしれません。なので、「自分、めっちゃしゃべってるわ~」と感じることはほとんどありませんでした。今言われて、「確かにそうだったかも?」と。
小野:いや、セリフ量はすごく多かったよ! もしかして君は記憶喪失なの?(笑) でも「どうやろう?」と考えたり、迷ったりすることなくやっていたからかもしれないね。
堀江:そうなんですよね。
小野:本線は全部、関西弁のままでやる方向性で、モノローグは心情なので標準語にして、後でまとめて録ろうという段取りが最初に決まったんだよね。
堀江:そうでした!
小野:それがきっと功を奏したんだね。
堀江:確かに。会話をしていく中で、ところどころにモノローグを挟んでいたら気持ちが途切れてしまうので、この方法を提案してくれた、音響監督の木村さんに感謝ですね。
お互いのキャラの印象は「かわいい人たらし」「ヤクザなのにヒロイック」
──お互いのキャラクターの印象をお聞かせください。こちらも小野さんからお願いします。
小野:聡実くんはかわいいです、ずっと(笑)。声変わりなど、思春期の体の変化は自分ではどうにもなりませんが、どうにもならないことに立ち向かっていく若者の姿は見ていてすごく気持ちがいいんですよね。僕の年齢になるとよりそれを感じますが、微笑ましくて、つい手を差し伸べたくなります。なので、狂児の気持ちがすごくわかります。最初は歌がうまくなりたい一心で近づいて接していたのに、かなり早い段階で、聡実くんのために考えて動くようになって。しかもそれを少しも表に出さない。そういう無意識に人を引き付けるところ、人たらしなところが聡実くんにはあるのかなと思います。
それは狂児に対してだけではなく、学校の合唱部においてもそうで、周りが聡実くんのことを常に気にかけているんですよね。例えば、少し当たりがきつかった後輩がいるじゃないですか?
堀江:和田のことですか?
小野:結局はいいヤツだったけど(笑)。和田が聡実くんに接する様子を見て、「僕もこんな後輩がいたら良かったな」と思ったくらい。和田はドライな中にも、聡実くんへの想いが感じられて、「めっちゃいい青春してるな」と思いました。それらはひとえに聡実くんの人を引き付ける力、求心力があるからだと思います。
──でも聡実の視点で見たら、狂児も十分、人たらしだと思います。
小野:彼の人生経験がそうさせている部分があるんだと思います。若い頃はもっと不器用だったし、女性に対してもどこかドライで、浮世離れしているというか。だからこそ放っておけないのかもしれませんね。もしかしたら、合唱部の部長だったからだけではなく、自分と似たものを聡実くんに感じて、声を掛けたのかもしれないなと思います。結局、彼は一生懸命生きているからで、そこについても好感しかありません。
──では、堀江さんから狂児の印象もお聞かせください。
堀江:「ヤクザ」というと、まず怖い印象があります。僕が小さい頃に住んでいたあたりを歩いていると、どう考えてもヤクザにしか見えない人がたくさんいて、その人たちの身なりがとても怖かった記憶があります。今もその時の心象が強くて、「なるべく関わらないようにしなきゃ」と。聡実も最初は、狂児に対して同じように感じていたと思いますが、それでもここまでの関係性を築けるのは「一人の大人の男としてカッコいい!」という憧れた部分もあったからかなと。
ヤクザなのにどこかヒロイックで、例えば聡実が組員の通称「宇宙人」に絡まれていたところを助けてくれたり、ヤクザの人たちとカラオケに行った時も同じ組員のはずなのに、聡実の腕をぐっとつかんでくれたり、どこかで心の拠り所にさせてくれるような懐の深さがあって。そんなところが、同世代の男性と比べてより狂児から感じられたことが、思春期の聡実にとって、心地よくフィットしたのかなと。
小野:「それでもいいか」って?(笑)
堀江:狂児から感じる危うさに「溺れてしまおう」と思ってしまうほど、不思議な魅力があるなと。だって中学生の男の子が、20歳以上年上のヤクザと親交があると知ったら、親御さんは卒倒したり、気が気じゃないと思います。
小野:もう絶縁だよ(笑)。
堀江:そんな状況さえも許容させてしまう狂児には、魔性の魅力があると思います。
小野:ありがとう。狂児はやっぱりドライなんですよね。聡実くんに助けを求めるシーンも、泣きついているわけではなく、「よろぴく。俺を助けると思って」と。その時の目つきもホラー由来の作画の描写力も相まって(笑)。本来ならもっと体温がのっていて、熱くウェットなものになってもいいはずなのに、ドライで感情が読めなくて。そこにお互い引き付けられてしまうのかもしれませんね。「この人は放っておけない」って。やっぱり二人は似ているんじゃないかな。
堀江:そんな感じがありますね。狂児はどこか少年っぽいというか、心が欠けたところ、不完全なところがちゃんとあると思います。
小野:あるよね。
堀江:聡実の視点ではそこは見えないけど、俯瞰して見ると、完全ではないなと思えて。だけどそこがいいんですよね。
小野:改めて二人で話してみると気付かされることが多いですね。今までのことを踏まえて、収録し直したいくらい(笑)。
堀江:確かに。違うものが生まれそうですね。
小野:でもわかってからやると、狂児をウェットに演じてしまうかもしれない(笑)。
二人の関係性は、自分の感情を表に出さない「ドライ感」が魅力的
──改めて、聡実と狂児の関係性についてどう思われますか?
小野:もっとお互いに表現し合うような関係性のほうが、観ていて熱いのかなと思っていましたが、実際は特別に自分の感情を表に出すのではなく、相手に対する想いがあった上で、胸に秘めるみたいな関係性なのかなと思います。長年連れ添ったバディみたいな関係性なら、何も言わずにツーカーで伝わると思いますが、この二人は出会って一緒にカラオケに行っただけなのに、既に言葉にしなくても通じ合っている「バディ感」が生まれているんですよね。不思議なんですけど。
物語の途中で描写される狂児の過去があるから今があると思うと、聡実くんに自分と似たものを感じているんでしょうね。でもそれすら狂児は意識していないと思うし、お互いに意識しない関係性って素敵だなと思います。「この子は自分に似た目をしているから声を掛けよう」とか「良くしてやろう」なんて一切考えていなくて。しゃべればしゃべるほど、考えれば考えるほど、その「ドライ感」が魅力なのかなと。
堀江:それを演じ手の小野さんだけではなく、原作の読み手やアニメの視聴者の方にもそう思わせる仕組みがあるのではないでしょうか。本編に狂児のモノローグがほとんどないことで、より狂児が何を考えているのかがわからない、聡実目線での狂児像が捉えやすくて。まだわからないピースを、視聴者の方が少しずつ埋めていきながら繋げていくことができるので、この二人の物語をより楽しめるのかなと思います。
堀江:聡実が思春期なことも相まって、揺れ動く感じが二人の関係性の魅力じゃないかなと思います。そして何よりも、中学生とヤクザという普通ではありえない関係性は、他の作品ではなかなか見ることができないので、その関係の歪さなど、すべてがミスマッチでチグハグなはずなのに、どこか噛み合ったりするおもしろさもありますね。
それと、聡実は狂児に対してどこか対等に感じていたり、あるいは見下しているのに、実は狂児のほうが聡実を手の平の上で踊らせていたりして。そういう絶妙な感じも観ているとこそばゆくて、歯がゆくて、愛くるしくて。そこが魅力かなとも思います。
作品の目玉シーンの一つである、狂児が歌う「紅」。レコーディングで意識した点は?
──原作ファンにとっては狂児が「紅」を歌うシーンが注目ポイントですが、小野さんはどのように歌われたのでしょうか?
小野:聡実くんから「終始、裏声が気持ち悪い」と言われていましたが、原作に忠実にしようと思った時に最初にぶち当たる壁で。実際にレコーディングの時にやってみたら、気持ち悪いというよりは「それで組長主催のカラオケ大会に出ようとは思わないだろう」と。リアリティがないんですよね。なのでレコーディングは何テイクも録って、裏声のバランス、裏声の成分をどれくらい入れようかと。「ここはうまく歌えるだろう」というところはキーが安定しているので、「ここから歌いにくい」というところを探す作業から始まりました。
オーディションの時は自由に歌いましたが、それが良かったらしくて。歌よりも「紅だ~っ!!」と叫ぶところの言い方にこだわって、オーディションテープを収録しました(笑)。勢いだけでやっているように聴こえますが、実は繊細なところまで気を遣って歌っています。僕がこだわったところでもありますが、スタッフさんも長時間、レコーディングに付き合ってくれました。その結果、いい感じでファルセットが要所要所に入って、いい塩梅でキモくなりました(笑)。
──確かに「紅だ~!!」と叫ぶところは、カラオケシーンの最大の見せ場と言ってもいいですからね。
小野:たぶんアレが言いたくて、狂児も「紅」を歌っていると思うし、僕が歌う時もそうですから。「紅だ~っ!!」と叫んだ後はむしろオマケみたいな(笑)。
堀江:でもカラオケでは「紅だ~っ!!」と叫ぶところは字幕では出ないですよね?
小野:うん。アレはライブでやったやつだから。でもあの曲は振りオチがしっかりしているんだよね。歌い出しの英詞の部分はしっとりときれいで、しかも洋楽的なアプローチをしていて。その後の「紅だ~っ!!」で笑わないわけないんだよ! 素人がやった時に。狂児は自然にこの曲を選んでいますが、そのカタルシスと振りオチはしっかり作りたいなと思って、レコーディングに臨みました。聴いた皆さんに笑っていただければ幸いです(笑)。
──聡実も「紅」を歌うシーンがありますね。
堀江:同じ曲を歌うのはおもしろくて、ある意味でアンサーソングみたいな感じだなと(笑)。実はこの取材を受けている段階では、小野さんがどれくらい気持ち悪く歌われたのかを聴いていなくて。アフレコは歌の部分を飛ばして収録していて、「紅だ~っ!!」だけは何度も聴いていますけど(笑)。
小野:現場でもそこだけはやってたからね。
堀江:その時もすごい勢いだったから、さぞ小野さんは気持ち悪く歌われているんだろうなと。
小野:それはほめられているのか? けなされているのか?(笑)
堀江:「こういう感じでくるだろうな」と想像しながら「終始、裏声が気持ち悪い、以上です」というセリフを言いました(笑)。
僕が歌った時は、ヘタに歌うというよりも、ちょっと声が出にくくなっていたり、かすれる感じで、聴いている人が「ノドは大丈夫?」と心配になるような、でも歌の音程などは整っているという歌い方をするのが難しくて。意識しすぎるとわざとらしく聴こえちゃうし。僕自身の本心としては、世に出てしまうものなので、上手に歌いたかったんです。でもこのアニメをご覧になる原作ファンの方は「狂児と聡実は「紅」をどう歌いこなしてくれるのかな?」と期待する声もチラホラ目にして。そういう方々が、聡実が「紅」を歌うのを聴いた時にどう思うだろう? と今はドキドキしています。
小野:確か、僕よりも堀江くんのレコーディングが先だったんだよね?
堀江:そうです!
小野:スタッフさんから「堀江くんが何テイクもやってくれました。本当に声がガラガラになるまで歌ってくれて」と聞かされて。その話を聞いて「声変わりの声で? 大丈夫?」と思いながらもグッときちゃって。「じゃあ、俺もやらなきゃ!」と気合が入ったのを覚えています。
堀江くんを傍から見ていると不安になる時があって。アフレコで「そんなにやって大丈夫?」と心配になることが多いし、いつものど飴をなめているし。
堀江:それはどの現場でも、ライブやイベントでもそうなんです。
小野:人づてではあるけど、堀江くんがリミッターを外してやっていたと聞いてしまったので、僕もリミッターを外しやすかったし、その前をしっかり歌って、振りオチにしようと自信を持って決められました。
僕もまだ聡実くんの「紅」を聴いていないので、「こいつ、どれだけやったんだ?」と楽しみです。
堀江:そこまで(ハードルを)上げられちゃうとドキドキしちゃいますから!
小野:でも声変わり前の声ってどうやるの? 実際にノドを痛めたの?
堀江:「テクニックではできないかも? 実際に自分の体でやるしかない」と思ったし、やっていく中で後半になったら自然と声が出にくくなって。何テイクも録ったので、どれが採用されているのかは僕もわかりません。
小野さんが先ほどおっしゃられた通り、キャラソンなら歌った後に、世に出てもおかしくないように修正や調整をしてくれますが、「紅」を歌った時に(中谷亜沙美)監督に「この歌のシーンに関しては、一切修正せずにそのまま出します」と言われました。
小野:僕の場合は、「ここからここまで」ではなく、勢いのままに1曲通して何度も歌った気がする。
堀江:僕もそうでした。
小野:考えてみればカラオケってそういうものだもんね。なので、お互いの「紅」を聴くのが楽しみです。
共演する野津山幸宏さんが関西弁をスパルタ指導。大阪出身の堀江さんも苦戦!?
──本作は演技に加えて、関西弁で話すのも大変そうですね。
小野:関西弁ってどうしても温かみ、優しさといった高めの体温がのってしまうんですよね。「これを引き算するのか?」と。それがアクセントやイントネーション以上に初回のアフレコで難しくて。狂児の低い体温をどう表現するのかにとても苦戦しました。
でも二人の関係性の中で、狂児で引いた分を聡実くんが足してくれているんです。狂児と聡実くんでニコイチのセットみたいに感じてもらえたらと。あと「ウェットな感情をのせないで、ドライにしてください」というオーダーもありました。「やばい。ドライはちょっと苦手なんだよなあ」と内心思いましたし、収録のプレッシャーがどんどん大きくなっていきました(笑)。
堀江:そうだったんですね! 僕は収録が進むにつれてどんどん安心していきました。最初にいただいたメッセージが音に関することで、「もうちょっと高くしてください」だったので、最初はそれを強く心に刻んだり、強く意識していました。でもやっていくうちに、会話の中でどんどん聡実になれていく感覚があって。祭林組の組員・パンチパーマ役で出演している野津山(幸宏)くんが大阪出身ということで、関西弁の監修をしてくれたんですが、ひと言しゃべるたびに直されました。僕は一応大阪出身なんですが、引っ越してしまったこともあって、関西弁が抜けてしまったところで、修正されながらやる大変さはありました。でもそこを超えた時に、声の印象も大事だけど、何よりも一番は狂児との会話の空気感を大事にした結果、声も高い、ティーンの雰囲気になったらいいなと思いながらやっていました。それができたのも小野さんのおかげだと思っています。
『夢中さ、きみに。』と一緒に放送されるということで、(時間としては)1クールまるまる演じたわけでありませんが、1クール演じたくらいの充実感があります。
小野:そうだね。野津山くんが「僕の地域ではこう言います」と言った関西弁が、この作品の関西弁のベースになっています。野津山くんの関西弁監修は容赦がまったくなくて。「違います! 3行目のそこだけ違うので、もう一回やってください」とか。「こちらが思っているよりも厳しいぞ」と(笑)。
でも感情表現の前に関西弁があったわけです。でもゾーンに入れた感じがあったんです。いろいろなものを研ぎ澄ませながら関西弁の音にする作業をした後にはもう、二人の関係性を表現することしか残っていないんですよね。相手のセリフもより聴けるようになったし、「声をもっと低く」とかそんな余計なことを考えずに済むようになって。そのおかげで相手のセリフを聴いて心が動かせたんじゃないかと思っています。
堀江:僕もそう思います。方言をやると、どうしても音ハメゲームみたいに、音にこだわりすぎてしまうあまりに、心がのらなくなりそうですが、この現場では小野さんとの掛け合いの中で、「あっ、やべ! 今音ハメだけに気持ちが偏っちゃってる」と思うことがほとんどなくて。しっかり聡実としていられることができたと思います。
小野:それはお互い様。僕も思ったよ。身も心もこの作品の舞台に入れた気がします。
──中の人も物語の舞台の住人に(笑)。
小野:そういえば収録のキャストの大半が、大阪出身の方たちだったよね。
堀江:あんなに異様な現場は初めてです(笑)。
小野:「ああやな」とか「そやな」とかずっと言いながらめっちゃ盛り上がっていて。対して僕は「これは違うかな? う~ん」とか「どうすればいいかな?」と悩んでいたし、堀江くんはずっとノド飴なめてるし。
堀江:飴はいいじゃないですか! それこそヤクザの人たちがカラオケで一堂に会しているような。「僕ら間違って組の事務所に来たんじゃないか」と思うくらい、すごい迫力で(笑)。
小野:野津山くんをはじめとして、他のキャストも本当に熱量が高くて良い役者さんたちで。皆さんが『カラオケ行こ!』の空気を作ってくださったので、どっぷり浸れました。
祭林組のカラオケシーンの収録では、キャスト陣の努力を感じさせる歌声が響き渡る
──ちなみに、組長が狂児たちを集めてカラオケ大会をするシーンは、皆さん一緒に収録されたんですか?
堀江:はい。そこは一緒に。
小野:雰囲気も原作そのままですよ。うるさいし、ガラが悪いし(笑)。
堀江:あるキャストの方……仮にKさんとしますが(笑)、とてもかわいくて。歌の部分だけ飛ばして、最後にまとめて録ったんですが、しきりにみんなをブースから出そうとしていて。「聴かれるのが恥ずかしいから」って(笑)。
小野:「これから録るから出て行きなさい」と(笑)。
堀江:アイドルの曲だったこともあって、見ていてついニヤニヤしてしまいました(笑)。
──皆さん、本息で歌っていたんですか?
小野:そうですよ。Kさんにもう一つ感じたことは「めちゃめちゃ練習してきたな」と。
(全員爆笑)
堀江:それ、わかります!
小野:めっちゃ練習してきた成果を見せようとしたら、たくさんギャラリーがいたので、「やめて! 見ないで! 僕の努力の結晶を!」という気持ちだったのだと思う(笑)。軽くうまくできるんだったら、あんなに緊張しないし、恥ずかしがらないもんね。
堀江:確かに。
──堀江さんがおっしゃっていたように、「せっかく世に出るのであればうまく歌いたい」という気持ちがあるんじゃないですか?
小野:作中で薄く流れるという感覚すらまったくなかったんじゃないでしょうか?(笑) みんな、ちゃんとヘッドホンを付けて、音も調整して。「次は誰々さん」と呼ばれたら、フェーダーを調整してマイク前に立った瞬間、ピーンと緊張が走るんですよね。でも歌い出したら、みんな、めっちゃ練習して来てるから、キャラも入れつつピッタリなんです。自分が思ったのは……仮にUさんとしておきますが(笑)、彼がうますぎる! 逆に「うますぎるけど、作品的には大丈夫なの?」と心配になるレベルで。
堀江:それだけうまいなら、「その組員さんに教えてもらえばいいじゃん!」ってなりますからね(笑)。
小野:たぶん彼は元々うまい上に練習して来たと思うんです。みんなの本気を感じましたね。
──組員みんなが歌ウマだと、一番下手だった人が組長からヘタクソな入れ墨を彫られるという罰ゲームの意味もわからなくなります。
小野:相当高いレベルで競っていて、90点台ばかりだから、80点台出すと彫られちゃう、とかなんじゃないですか? それはキツいですよね。
──絶対音感を持つらしい組長の審査は加点方式みたいですが、どんな基準なのかも気になりました。
小野:ひどいですよね。なんだったら気分とかなんじゃないですか?(笑)
堀江:残酷……(笑)
小野:でも組長はちゃんと人情がある人っぽいですよね。狂児と出会った経緯とかを見ると。
堀江:しかも舌を出してピースしたり、おちゃめなところもあって。狂児や組長ほか、祭林組の人はみんな、いい人そうに見えます。
小野:あれはズルいね。あのスナックのシーンが絶妙過ぎて……でもいまだにいい人なのかはわからないな、自分は。狂児に関してもそうで、自分で演じていても「悪いヤツじゃないな」とは思うけど……。
堀江:人を殺していたりするのかな……?
小野:半殺しにはしてるけどね。車のダッシュボードを開けたら、指が入っているし。それを冷静に説明しているし。わかんない。そういうところの行間を読ませて、想像させるのが和山先生の作品の良さかもしれませんね。この作品は人情ものだけど、ホラーでもありますね(笑)。
──「紅」の他にも、聡実が狂児が歌いやすい曲のリストを作って、それらの曲を歌っているシーンもありました。
小野:あのリストに挙がっていた曲の中に、僕が得意な曲も結構あって。特に「ルビーの指環」は、『デュラララ!!』の時に平和島静雄としても歌っているくらいで、僕の十八番(オハコ)なんです。昔、おやじが歌っていたからかなあ。ずっと耳に染みついていて。あの曲、キーがすごく低いんですよね。なので、あのメモだけ見ても「ああ、わかる!」と。聡実くん自身は声が低くないのに、狂児の声を聴いて、「ここからここまで声が出せる」と判断したり、一番いい声が出せるところも瞬時に理解して、狂児のために選曲してくれたのがすごくわかるんです。なので嬉しくてちょっとほっこりしました。僕もあのリストの曲が全部好きだし、歌えます。
──あの選曲は、かつてのカラオケブームを通ってきた世代にどんぴしゃの曲ばかりですよね。
小野:「か」の部分だけ微妙に見えるところは、たぶん「勝手にしやがれ」だろうなって(笑)。「出て行ってくれ あああ~あああ♪」(と口ずさむ)。
堀江:でもそれを提示できる、聡実の歌の知識量もすごいですよね。
小野:すごいよね。たぶん昭和歌謡をめっちゃ聴いてるはず。誰の影響なんだろう?
堀江:お父さんなのかな?
小野:お父さん、歌がうまいじゃん。
──堀江さんの年代だと普通は知らない曲も多そうですが、キャスト発表時のコメントでおっしゃられていたように、昭和歌謡好きを自負するだけありますね。
堀江:そうですね。でも今はTikTokで昭和歌謡が爆バズりしたり、海外でも意外なきっかけからブームになったりしますから。なので、聡実がこれだけ知っているのも、意外と不思議ではないのかもしれないなと思います。
小野:作中の世界観は何年ぐらいなのかな? 今の都会派のインテリヤクザみたいな感覚があるんだよね。社会的な変化と相まって。でもちょっと昔な感じもして。そこは原作でも明確には描かれていないし、和山先生も言っていないだろうし。旧き良きヤクザの感じと懐かしい選曲が相まって、おじさんにはたまらないですよね。絶対昭和ですよね。
堀江:でも令和かもしれないですよ。組員役のあるキャストさんが最近の曲を歌っていたし……現代だ!
小野:本当だ! いいところに気付いたね。現在なのに、ちょっとレトロ感が入っているんだ! おもろ~。時が止まっているね、ちょっと。そこもいい感じだね。
すべての要素が期待以上のものになっているはず。観た後に「カラオケに行こうかな?」と思ってもらえたら嬉しい
──作中で、聡実が狂児や組員の人たちに感想を言っているところで納得できることもあって。印象深かったのは、聡実が狂児の歌を聴いた後に「好きな歌と得意な歌は違うんですから、歌える歌を練習してください」とアドバイスするシーンがありましたが、娯楽として楽しむカラオケは好きな曲を歌うのはいいけど、自分の良さや得意なところをアピールする声優オーディションでも同じようなことを感じました。
小野:確かに、狂児は「紅」は合っていないのに、これでずっと勝負してきたと言っていましたね。
堀江:「好き」と「合うかどうか」は違いますからね。
小野:「自分の歌を録音して、何度も自分の歌を聴いてみてください」とか、いいアドバイスだよね。聡実の言葉がすべて的を射ていましたよ。「カスです」も。
堀江:それもですか? こんなこと言われたら、もう立ち直れないですよ(笑)。
小野:こんなことを言ったら場が荒れるとか、何なら自分に危害が及ぶかもしれないとか、関係ないんですよね。聡実くんにとっては今、歌が自分のアイデンティティだから。歌への想いを隠すことなく、言い切ったその姿は、むしろ男らしささえも感じました。
──聡実は合唱部で悩みを抱えている最中なのに、相手がヤクザでも口出しせずにはいられないほど、歌が好きなんでしょうね。
小野:そういうところに狂児も男として惚れたのかもしれないですね。『カラオケ行こ!』って、行間を読んでいくとこんなにおもしろいんだ! 聡実は「好きな曲よりも得意な曲を歌ったほうがいいですよ」と的を射たアドバイスをしているのに、終盤で組長たちがいるスナックに乗り込んで「紅」を歌った挙句、ノドを痛めちゃって。まったく論理的じゃないよね。
堀江:理屈じゃないんでしょうね。
小野:だからこそ、あのシーンはこれほど響くんだね。おもしろいね。『カラオケ行こ!』って深いな。考えれば考えるほど、わからなくなってくる。
堀江:そうなんですよね。すごく余白があるのを感じます。
小野:そこが魅力的で。人って論理的に語れるわけではないから。そういう不条理で、シュールなのが人生なのかもと思います。皆さんもぜひ観て、僕と同じような何とも言えない気分を味わってください(笑)。
──では最後に、本作の見どころの紹介と、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
小野:『カラオケ行こ!』のアニメには、歌や関西弁、和山先生のマンガの中にあるシュールさと熱さとスタイリッシュなコマ割りなど、皆さんが期待されるものが多種多様にあると思います。そういった要素すべてを、想像されている以上の素晴らしいクオリティで再現していると僕は確信しています。なので全方向から期待していただいて構いませんし、期待を裏切ることはないと思います。なぜなら僕が今一番早く観たいと思っているから(笑)。とにかく期待だけして待っていてください。よろぴく。
堀江:僕もアフレコ作業を終えているので、原作ファンの方たちと同じような気持ちでオンエアを楽しみにしています。それくらいやり切った感覚があって。
小野:見どころと言われても、「ここを観てください」と抽出するのが難しいくらいの充実感があるよね。
堀江:そうなんですよね。方言を使う作品では「あのイントネーションで大丈夫かな?」とか「エセ●●弁じゃん!」なんて言われないかなという不安が、どれだけ全力でやったとしても、どうしてもつきまとってしまうんです。今回はガチガチに……野津山くんのスパルタ指導であれだけ直されたら、「これ以上どこを直せばいいの?」と逆にお聞きしたいくらいの自信があります(笑)。もちろんキャストの皆さんが素晴らしいお芝居をしてくださったので、胸を張ってお届けできるアニメになりました。
──このアニメを観たら、カラオケをしたくなりました。
堀江:確かに視聴者の方はそうなるかもしれませんね。
小野:したくなるかな? そこは自信を持てません。むしろ怖いです(笑)。でも人はなぜあんなにカラオケに行きたくなるんだろう? 若い人ほど行くのに、おじさんになると行かなくなるのだろう?
──いえいえ、おじさんもスナックやクラブに行って、お姉さんと「銀座の恋の物語」のデュエットとかしますよ。悦に浸りながら(笑)。
小野:「銀恋」ですか?(笑) でも皆さんに「カラオケに行きたいな」と思ってもらえたら最高かもね。
堀江:そうですね。
小野:このアニメは「ここを頑張ったので観てください」というよりも、観終わった後に「カラオケって楽しいな」とか「今度、友達誘って行こうかな」と思ってもらえたら大成功かもしれませんね。……でもそうなる自信しかありません。と堀江くんが言ってました。
堀江:小野さ~ん!(笑)
[文・永井和幸]