注目書籍の著者2名が語る<海の無脊椎動物>の魅力 メンダコの次にくるアイドルは?
東京都新宿区にあるサカナに特化した本屋・SAKANA BOOKSは11月1日、海の無脊椎動物をテーマにしたトークイベント「むせきついの国BOOKS」を開催しました。
ゲストは、『今すぐ見つけに行きたくなるヤドカリ探索図鑑』(緑書房)と『海のあかちゃん』(ワニブックス)の著者・でんかさんと、『海のちいさないきもの図鑑』(西東社)の著者・むせきつい屋さん。二人は「むせきついの国」というユニットを組んで活動もしています。
無脊椎動物の魅力に取りつかれたきっかけから著書出版に至る経緯まで、生きものたちの魅力とともに語りました。
「顕微鏡って楽しい」ワークショップを実施
トークイベントに先立ち、でんかさんとむせきつい屋さんによる「顕微鏡ワークショップ」が行われ、子どもから大人まで10人ほどが参加しました。
冒頭、仕事でも顕微鏡を使用しているというでんかさんが光学顕微鏡について解説。双眼実体顕微鏡と生物顕微鏡の比較をしながら、それぞれの特徴を説明しました。
でんかさんは「3〜4万円から購入できるものもある」とし、「“見たいものが見られる必需品”と考えたら顕微鏡は眼鏡みたいなものだと思う。専門的なもので、大学生くらいまで楽しめる趣味のものとすれば手頃かもしれない」と説明。参加者からは「思っていたよりも安い」という声が上がりました。
「顕微鏡のハードルを下げるには、まずは実際に触ってみることが大事」ということで、解説もそこそこに参加者は顕微鏡の操作を体験。事前に用意されたヒオウギ(ヒオウギガイ)の稚貝やプランクトンなどを観察しました。
特に盛り上がったのは、顕微鏡で見ているのと同じ様子をスマートフォンで撮影する方法。これには子どもから大人まで、参加者全員が何度も挑戦して楽しんでいました。
父母と9歳・6歳の娘さんの4人で参加した家族に話を聞いてみると、「子ども用のおもちゃのものは持っているが、本格的な顕微鏡は初めて」といい、お子さん二人は「楽しかった」「ウニ(の管足)がよく見えた」とそれぞれ話してくれました。
オリジナルグッズ販売や標本展示も
会場には、でんかさんとむせきつい屋さんの著書のほか、二人が作るオリジナルグッズも並びました。
生きものたちの魅力あふれるグッズは見ていて楽しいだけでなく、さらなる探究心が湧いてくるものばかりです。
また、二人が所有する標本の展示も行われ、多くの参加者が関心を寄せていました。
「無脊椎動物を気軽に見るなら水族館」
トークショーは、むせきつい屋さんのトーク、でんかさんのトーク、そして二人による対談の3部構成で進行しました。
大学の研究でウミクワガタに出会う
むせきつい屋さんは元々海洋生物も昆虫も大好きだったところ、大学の研究でウミクワガタに出会いました。「こんな素敵な生きものがいるのかと感動した」といい、その見た目や特徴的な生態にハマっていったそうです。
ウミクワガタは、等脚目ウミクワガタ科に属する海産甲殻類の総称。幼生時には魚にくっつき、体液を吸うことが知られています。
むせきつい屋さんは「頭の方はまるで昆虫のクワガタのようだけど、尾の方はエビのような見た目。こんな見た目なのに大きさは3mm程度でとても小さい」と紹介。
ウミクワガタの幼生は非常にカラフルで、寄生する魚によって色が異なっていたり寄生する魚が同じでも寄生する場所によって異なっていたりするそうですが、その詳しい理由などはまだ解明されていないようです。
横浜・八景島シーパラダイスと鳥羽水族館がおすすめ
むせきつい屋さんは、実際に大学で体験した無脊椎動物の採集方法についても解説した上で、「無脊椎動物に気軽に会うには水族館がおすすめ」としました。
特におすすめする水族館として挙げたのは、横浜・八景島シーパラダイス(神奈川県横浜市)と鳥羽水族館(三重県鳥羽市)。横浜・八景島シーパラダイスには「身近な海の生きもの研究所」、鳥羽水族館には「へんな生きもの研究所」があり、それぞれ無脊椎動物の展示に力を入れていると紹介しました。
書籍刊行のきっかけは、アート作品やハンドメイド雑貨の販売が行われるイベント「デザインフェスタ」に出展したことだったといい、「好きなことを全力でやっているといいことがある」と回顧。
著書『海のちいさな生き物図鑑』については、「無脊椎って面白い、もっと知りたいという人が増えたら嬉しい」と期待しました。
「今までにない図鑑を目指した」
続いて、でんかさんのトークショーに移ります。
でんかさんは北海道・函館出身で、大学入学に合わせて上京。地元では美味しい魚は多いものの見た目が地味な体色のものが多く、本州の磯で普通に見られるカラフルな生きものたちに感動したといいます。
そして、大学在学時に出会ったベニホンヤドカリに心を奪われ、ヤドカリにのめり込んだのだとか。
ヤドカリは、磯、藻場、マングローブ、サンゴ礁、干潟と種によって生息環境が異なることから、「北海道から沖縄まで、離島にも数十回は訪問し、小笠原には数ヶ月滞在した」と述懐。フィールドで採集をしている時以外は、図書館で本を読むことが多かったそうです。
一方、誰もがぶつかる“壁”として、大学4年間の後に進学するか就職するかで悩んだことも明かしました。
最終的には副業の活動を継続できること、フィールドに出る時間や大好きな本を読む時間を確保することを優先して、増養殖・育種に関わる民間企業への就職を決意したといいます。
著書2冊のこだわりポイント
今夏出版した2冊の著書についても、それぞれのこだわりを語りました。
『今すぐ見つけに行きたくなるヤドカリ探索図鑑』は5章立て。第2章の図鑑パートでは今までにない図鑑を目指したといい、どういった環境で見られるのかをビジュアルでまとめたのが特にこだわったそうです。
また、ゴマフヒメホンヤドカリなどヤドカリ3種の和名を提唱したこともポイントだといいます。
『海のあかちゃん』は、指先に乗るサイズから大人になっても手に乗るサイズの生きものがコンセプト。
可愛い生きものだけでなく、専門性も出したいということで、コラムではビーチコーミングで拾ってきた小さな貝や海藻などにもフォーカスを当てたのだとか。
次世代の無脊椎アイドルは?
対談のテーマは「メンダコの次にくる無脊椎動物のアイドル」。
でんかさんは「メンダコが深海生物なので、私は浅海動物を推したい。中でもマガキガイは一押し」と推薦。
マガキガイは硬い貝殻を持っている貝で、発達した二つの眼でぎょろぎょろと周りを見渡す姿や、発達した足を持っていてぴょんぴょんと動き回る姿、特徴的な像の鼻のような口を伸ばす姿など見ていて飽きないのがポイントだと熱く語りました。
むせきつい屋さんは「イカはもっと流行ってもいい。ダンゴイカはぽてっとしていて可愛い」と候補に挙げつつ、一押しはやはりウミクワガタ。「世の中には節足動物が苦手な人はいるけどやっぱり可愛い」と笑顔で話し、他にも「ウミホタルも丸っこくて可愛いし、発行生物で青く光るのでグッズ化もできそう」と具体的なアイデアを交えて推薦しました。
一方、会場からは「カラッパ」の意見も。でんかさんは、カラッパについて「可愛いけれど、缶切り状の鋏で巻貝などを砕いて食べるというギャップが面白い」と納得の様子で、「砂に潜るのもうまいし、美脚で細長いスレンダーな足でテケテケ歩く様子は特徴的」と語りました。
「まだ飼育が確立されていない」 天敵のいない自然下の再現を
ゲスト二人への質問コーナーでは、「飼育しているヤドカリがポップコーンしか食べません。そのうち脱皮不全になってしまいそうで不安」「ヤドカリが長生きするためのコツは?」などヤドカリの飼育に関する質問が多数ありました。
でんかさんは「ヤドカリは寿命の推定ができていない生きもので、まだ飼育が確立されていない」としたうえで、「脱皮をうまく成功させること、そのために必要な栄養素を与えること。そして、脱皮直後はデリケートなので、なるべく刺激を与えないのが大事」と回答。
別の生きものや他のヤドカリの刺激で死に至ることもあるとして、単頭飼育を推奨しました。
また、「ポップコーンしか食べない」という質問に対しては、個体差があると前置きした上で、「自分だったらポップコーンをあげないで他の餌をあげる。すると、いつか他のえさも食べるかも」と答えました。
そして、最後に「天敵のいない自然下の再現が一番」だとまとめました。
ウミクワガタの立派な顎 目的・理由はまだ研究半ば
「ウミクワガタを見たことがないが、どういった魚についているのか」という質問には、むせきつい屋さんが「色々な魚にくっついているが、泥とか砂の中にいるので、ハゼなど底にいる魚が多い。でも、サメやエイにもつく」と回答。
さらに「すぐに離れるからなかなか見られない。魚釣りなどで見ることができたらラッキー」と説明しました。
また、「大人(成体)になると何も食べず、子どもの頃に蓄えた栄養のみで生きる。大人になってから1年くらい生きる種もいる」とし、「捕食しないのに顎はなんでこんな形なのかなど不明なことも多い。一部で泥の中に巣穴を作る種がいて、オスがメスを掴んで自分の巣に引き寄せるという知見もある」と解説しました。
まだまだ広がる<むせきついワールド>
最後に今後の展望について、むせきつい屋さんは「水族館とコラボがしたい」とし、具体的にどこの水族館か聞かれると「横浜・八景島シーパラダイスでパンフレットや解説パネルを作りしたい」と期待を込めて語りました。
でんかさんは「同人誌を作っていて、さらに今年は2つの本を出したが、今後も色々な切り口から本を作りたい。それが絵本なのか読み物なのか写真集なのかはわからないけれど、海の生きもののネタは尽きないので引き続き作っていきたい」と話しました。
トーク終了後にはサイン会も開かれ、大盛況でした。魅力あふれる無脊椎動物の世界は、まだまだ広がっていきそうです。
(サカナト編集部)