2020年公演のビリー役利田太一&マイケル役河井慈杏に聞く!ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』の見どころとは?
ミュージカル『ビリー・エリオット〜リトル・ダンサー〜』が2024年10月26日(土)まで、東京・東京建物Brillia HALLで上演中だ(11月9日(土)〜11月24日(日)大阪・SkyシアターMBSでの上演あり)。
本作品は、1980年代のイギリス北部の炭鉱の町を舞台に、踊ることが好きなひとりの少年と彼を取り巻く大人たちの姿を描き、世界中を虜にした映画『BILLY ELLIOT』(邦題『リトル・ダンサー』)をミュージカル化した作品。ビリーの圧倒的なパフォーマンスと、作品の持つ巨大なエネルギーが評価され、2006年には英国ローレンス・オリヴィエ賞4部門、2009年にはトニー賞で10部門を獲得している。日本では2017年に日本人キャストによる初演が開幕。2020年には再演もおこなわれ、今回は3度目の日本上演となる。
今回、SPICE編集部では2020年公演に出演したビリー役の利田太一とマイケル役の河井慈杏にインタビュー。それぞれドイツとアメリカで夢に向かっている二人に、2024年公演を観た感想や、出演当時の思い出を語ってもらった。
ーーお二人は今年の『ビリー・エリオット』をご覧になられたそうですね。ぜひ感想を教えてください。
河井慈杏(以下、河井):僕は(浅田)良舞くんと(春山)嘉夢一くんのビリー、マイケルは(高橋)維束くんと(渡邉)隼人くんで計2回観ましたが、両方ともボロ泣きでした。ストーリーはもちろんなんですが、出演していた当時を思い出して、懐かしくて……。ただ、僕も高校生になって、少し大人の視点というのかな、例えば炭鉱夫さんたちがビリーのことを思って、いろいろなものを犠牲にしているからこそ、ビリーが夢を追いかけられているんだとか、そういうことも分かるようになって。とにかく泣けました!
利田太一(以下、利田):僕は(井上)宇一郎くんビリー、維束くんマイケルの回を観ました。僕も大号泣で、ずっと泣いていましたね。そして、慈杏と同じように、今となって分かることがありました。例えば、ビリーのお父さんは、ビリーのことを応援したいからこそ、炭鉱夫仲間を「裏切る」わけですけど、そういう葛藤だったりとか……あと《Expressing Yourself》の「個性は世界を救う」「ドレス着ても誰も死なない」というメッセージに心打たれて、「そうだよな〜」と思いました。
もちろん当時の自分と重ねてみている部分もあって。《Angry Dance》なんかは、「頑張れ!ここが終われば、あともう少しだ!」と応援している自分がいて、完全にビリー目線でしたね(笑)
河井:わかる、わかる。僕も特に《Expressing Yourself》は「ここからはスタミナが切れて大変なんだよな〜!あと少しだぞ〜!」とマイケル目線で見ていました(笑)
ーーお二人が好きなシーンは?
河井:1番好きなシーンは、最後のシーンなんですけど、クリスマスのシーンも大好きです。マイケルとビリーの友情がぐっと深まるような感覚があって!それから、今回観に行って好きだなと思ったのは、手紙のシーンですね。お母さんがいないビリーはどういう思いなんだろうと思うと、すごく泣けて泣けて……改めて好きになりました。
利田:僕が1番好きなのは《Expressing Yourself》ですね。メッセージも共感できるし、とにかく明るくポジティブな気持ちになれるから。今回観て改めていいなと思ったのは《Born to Boogie》のシーン。ビリーがだんだんバレエに向き合い始めて、だんだん上達していく様が見て取れて、面白いなと思いました。やっているときは、縄跳びがあったり、ピアノの上から即宙したりと忙しくて大変だったんですけど、いざ客観的に観るといいなと思いましたね。
ーーお二人が出演された2020年公演から4年経ちますが、今、どんなことを思い出しますか?
利田:僕が1番印象に残っているのは、《Angry Dance》の稽古。とにかく体力的にも精神的にもきつくて、個人的にすごく嫌な時間だったんですね。何回やってもうまくできない自分が悔しくて、いろいろ嫌になって、稽古中に泣いてしまったことがあったんです。でも《Angry Dance》って、そもそもそういう場面じゃないですか。だから、なんか自分の中で吹っ切れたんでしょうね、その日を境にひとつレベルアップした気がするんです。それが印象に残っていますね。
河井:オーディションでタップのレッスンは3つか4つにレベル分けをされていたんですけど、僕はタップのレベルが下の方だったんです。それが悔しくて、家でひたすら練習したり、一緒にオーディションを受けていた友達に振り付けの確認をしたりして……それで最終的にはレベルが上がっていった思い出があります。
それから千秋楽での、最後の「またな、ビリー」というセリフを強く覚えています。作品自体に別れを告げているような、ちょっとビタースウィートな気持ちになって……。千秋楽は僕がマイケルで、太一がビリーだったんだよね。
利田:そうだったね。千秋楽の幕が閉まった後に、めちゃくちゃ泣いたのを覚えている……!
ーー改めて『ビリー・エリオット』に出演していた時間は、どんな時間だったと思いますか。
河井:絆が深まるような経験ができました。きちんと数えたことはないけれど、ビリーや他のキャストさんたちと毎日何時間も一緒にいたから、人と人とのつながりを実感する日々でした。特にコロナ禍だったからということもあるかもしれませんが、本当に貴重な体験だったなと思います。
利田:ビリーはバレエ以外にも、演技もタップも歌もやるので、覚えることややるべきことがとても多かったんです。言われたことをすぐに飲み込むことがすごく大事だったので、「吸収力」を身につけることができたかなと思っています。
ローザンヌ国際バレエコンクールに出場した際も、その場で先生から言われたことをすぐに吸収してやってみせることが大事なポイントだったんですが、それができたのは、まさに『ビリー・エリオット』の出演経験があって、そこで鍛えられたからだったのかなと。
ーーお二人の現況についても教えてください。今、お二人はどんなことを頑張っているのですか?
河井:僕は今アメリカに住んでいますが、学校での演劇や学校外の地域のユースシアターなど、今もミュージカルや舞台の活動を続けていて、タップのレッスンも頑張っています。 『ビリー・エリオット』の経験が今の自分にどう活きているかというと……学校の勉強と、ミュージカルの活動を両立するのが大変になってきているんですけど、必要になってくる集中力は、本当に『ビリー・エリオット』のときに得たものだなと思ってます。
こちらの学校ではミュージカルもとても盛んで、上手な人はたくさんいますが、『ビリー・エリオット』の1年弱のオーディションでのタップのレッスンや、歌や演技をお稽古で学ばせていただいたことで、そんな人たちの中にも自信を持って入り込み、すぐに友達になれたことも、経験が活きた一つだと思いますね。
また、(2020年公演日本版)演出補のサイモンさんから「1つのセリフに、1つの意図をつける」という演技指導を受けたことがあって。セリフを言うとき、何なら普通の日常の会話でも、人間と人間の会話は何かを求め、何かを意味しているから、意図を持って話して、という解釈しているんですけど、その言葉は今もよく思い出します。
利田:僕はドイツのハンブルグバレエ学校に留学していて、バレエ1本の道を進んでいます。『ビリー・エリオット』の出演経験がどう活きているかというと、今までのバレエのレッスンは2コマで3時間ぐらいだったんですけど、今はもっと長くて5コマで7時間ぐらい踊っているんですね。すごく大変なんですけど、思い返せば『ビリー・エリオット』のときもロングラン公演で、自分が舞台に出ないときもスタンバイしていなくてはいけない時間があったりして、体力が求められたんですよね。あのとき培った体力や忍耐力が、今のレッスンにも活きているのかなと思いました。
それから、留学先の学校はバレエ一本でやってきている人たちばかりなのですが、プロのバレエ団の方がタップを練習している姿を見かけたことがあって。将来的にそういう踊りの可能性もあるのかなぁ、やってみたいなぁと。
ーー利田さんは、ある意味リアルビリーの道を進んでいるわけですね。その点において何か思うことありますか?
利田:そうですね……『ビリー・エリオット』の中で、ウィルキンソン先生が「ここでやってきたことはもう全部忘れて」みたいなセリフを言うシーンがあるじゃないですか。ビリーも僕も「本当にそうなのかな?」と思っていたんですけど、今のバレエ留学での日々が濃厚で、とてもいい時間を過ごしているので、どこかでこの経験を忘れちゃうのかな〜と思っていたりします。いや、忘れないけど!(笑)。
ーーちなみに今でも2020年公演で共演したキャストとは連絡を取り合う仲なのですか?
利田:はい。僕は(ビリー役の一人だった渡部)出日寿くんのご両親がやっている発表会に出演したり、『Bright Step』という公演で会ったり、バレエ関係で交流が続いています。
河井:僕はアメリカに住んでいるので、実際に会える機会は少ないんですけど、予定が合う限り、一緒にビリーやマイケルを演じたみんなや、オーディションの頃からの友達に会いますね。それから、太一がニューヨークに短期留学に来たときに、一緒にマンハッタンで遊んだり、庭でBBQをしたりしました。
ーー海外でも『ビリー・エリオット』に出演しているということは明かしているんですか?
河井:アメリカの学校で、ミュージカル『メリー・ポピンズ』をやったことがあるんですが、そのときに少しだけタップを踏んだら、「なんでそんなにできるの!?」と話題になったことはありました(笑)。それで「実はね……」と。まだ日本から来て1ヶ月も経たないぐらいだったと思うので、みんなびっくりしていましたね。
利田:今、僕は寮にいるんですけど、その寮母さんにビリーを演じていたことがあると言ったら、「すごい、すごい!動画を見せて!」と言われたことはあります。嬉しい反応でした。
ーーぜひこれからの夢を教えてください!
河井:ミュージカルに携わる仕事ができたらいいなと思っています。アメリカに来て、たくさん素晴らしいミュージカルを観る体験をさせてもらっていて、これが日本でも観られたらいいなと思うことが多くあります。逆に『生きる』のように、日本の素晴らしいミュージカルもたくさんある。出演者として舞台に立てたら最高ですが、裏方として創る仕事も魅力的だなと思います。アメリカでは、幼い頃からミュージカルや演劇文化に親しんでいる人が多く、地域の子どもが演じる作品でもとてもクオリティが高いので、そんな文化を日本に浸透させるような仕事にも興味があります。
利田:僕はプロのバレエダンサーになりたいです。今の学校から、その系列のバレエ団に行けたら一番いいなと思っています。あともう1つ夢があって……『ビリー・エリオット』で、オールダー・ビリー役としてまた舞台に立つことです。
ーーお二人の活躍が楽しみです。最後に『ビリー・エリオット』をご覧になるみなさんへメッセージをお願いできますか。
河井:『ビリー・エリオット』はいろいろな要素がある作品だと思うんです。《Angry Dance》のような衝撃的なシーンもあれば、《Expressing Yourself》のように気持ちが上がるような場面もあるから。ビリーやマイケルなどと自分を重ねたり、共感したりする瞬間もあると思うので、ぜひ観てみてください!
利田:『ビリー・エリオット』という作品は、ビリーやマイケルといった子どもたちが大活躍する舞台です。そういう舞台はなかなかないと思うし、それぞれ演じ方なども違うと思うので、その違いを見てみてほしいですね。また、ミュージカルとしても完成度が高いというか、曲もいいし、物語の明るい部分と暗い部分があって、いろいろな要素がぎっしりずっしり詰まっていて、見応えがあると思うので、ぜひ劇場で観てみてください!
取材・文=五月女菜穂