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浅利演出事務所『夢から醒めた夢』観劇レビュー「劇場は夢を創りだし、人生を映し出す大きな鏡」

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『夢から醒めた夢』(撮影:石阪大輔)

2021年5月21日(金)、東京・自由劇場にて開幕した『夢から醒めた夢』。赤川次郎の原作をもとに、劇団四季で長らく代表を務めた演出家・浅利慶太氏の企画・構成・オリジナル演出で80年代に上演されて以来、多くの観客に愛されてきたオリジナルミュージカルだ。

浅利演出事務所による公演は2017年以来4年ぶりとなる。ここではコロナ禍で2回の延期を経て初日の幕を開けた同公演について綴っていきたい。

『夢から醒めた夢』(撮影:石阪大輔)

好奇心旺盛な少女・ピコは、夢の配達人に夜の遊園地へと誘われ、1人の少女と出会う。マコと名乗るその少女、じつは幽霊。不慮の事故で亡くなったマコは、大切な母が嘆き悲しむ様子を見て光の国に旅立てずにいたのだった。

マコの心情を想ったピコは、1日だけ人間と幽霊の立場を交換することを承諾し、死者が行き先を告げられる霊界空港でさまざまな出会いを経験する。そんな中、いじめを苦に自死した少年・メソが、ピコがマコから預かった光の国に行ける白いパスポートを盗んだことでピコは窮地に。さらに、ふたたび自分の前に現れた娘と会ったマコの母は、必死でマコを人間の世界に引き留めようとするーー。

『夢から醒めた夢』(撮影:石阪大輔)

2021年版の演出を担うのは野村玲子。浅利氏が創り上げたオリジナル版演出を踏襲し、物語の芯の部分をより丁寧に、そして鮮明に浮き上がらせていた。

2017年版に続いてピコを演じる四宮吏桜。明るく好奇心に満ちた少女を躍動的に体現し、時に客席の笑いを誘う。マコ役の笠松はるは、劇団四季在籍時に同役での出演経験もあり、心情の揺れを繊細に表すさまが見事。また、かつてマコを演じ、2017年版からマコの母役として舞台に立つ野村は、娘を愛する気持ちと彼女を引き留めることで別の誰かが亡き者になるという葛藤を痛いほどの揺れで魅せた。

『夢から醒めた夢』(撮影:石阪大輔)

初演から『夢から醒めた夢』を観続けて強く感じるのが、本作は観る側の年代やその時置かれた状況によって受け取り方が変化するミュージカルだということ。これは良作といわれるすべての作品に共通するが、『夢醒め』は特にその傾向が強いように思う。

自分が世の中に出る前は、ピコがマコや霊界空港で出会った人々のために自らを犠牲にしようとする想いに胸打たれたし、大人になってからはメソのやりきれない気持ちに揺さぶられる。子を持つ親が観たら、マコの母に感情を乗せずにはいられないだろうし、歳を重ねるにつれ、老夫婦が再会する場面で涙が止まらなくなった(10代の頃は”良いシーンだなー”くらいだったのに)。人によっては部長のある種の切なさに身を震わせるかもしれないし、大切な誰かを失った人は『夢醒め』から大きな救いを受け取るだろう。

『夢から醒めた夢』(撮影:友澤綾乃)

今回あらためて『夢から醒めた夢』の深い部分に置かれたいくつかのメッセージにも思いをはせた。

もちろん、この作品がもっともシンプルに訴えかけてくるのは、ピコの行動から伝わる「他者のために生きることの尊さ」や「立場の違う人の気持ちを慮る優しさ」なのだが、さらに掘っていくと新たな気づきも見える。

たとえば、冒頭の夢の配達人のせりふ「今日、私はこの女優をみなさんに与えましょう。みなさんは彼女とともに私の夢の世界を生きる」からの、ピコ「ここはどこ?あたしは誰を演じればいいの」という流れ。この場面から夢の配達人が”演劇”という”夢”を創り出す劇作家や演出家のメタファーであると考えられないだろうか。主役のピコも母親がいること以外、一切のプロフィールが明らかにされないのも非常に示唆的だ。

『夢から醒めた夢』(撮影:友澤綾乃)

さらに、永遠の別れ、との言葉を残して母が去ったあとにマコが語る「お母さん、あたしたちは永遠に別れるんじゃないのよ。あなたもいずれは光の国へ来るの。あたしたちはいつか、同じ光になるの。それからはもう決して離れないの。今度こそ永遠に」とのモノローグからは、劇団四季が創立以来レパートリー作品として上演し続けたジロドゥ作『オンディーヌ』と”死”に対する哲学的な解釈が重なるとも思う。

今更ではあるが、子どもが観て素直に楽しめるこの作品に包括されたさまざまなメッセージの存在が、『夢醒め』が時代や世代を問わず多くの人に愛され続けるひとつの理由なのだと確信した。

『夢から醒めた夢』(撮影:友澤綾乃)

と、いろいろ書いたが、オリジナルミュージカルの”肝”ともいえる音楽もしっかり胸に残る。特に、ピコとマコの「二人の世界」の幻想的な美しさや、光の国に旅立つ人たちとピコが歌う「愛をありがとう」は、いつ聞いても心に明かりが灯る楽曲だ。

オーディションで選ばれた劇団四季出身者と在団者、そして外部参加の若い俳優たち。さまざまなバックボーンを持つ彼らが丁寧かつ高い熱量で演じる”夢”の世界。今回の上演では、ひとつの作品を次の世代の演じ手に繋げていくことの大切さや、キャリアが長い俳優が、自分が持つスキルを若い俳優に伝える意味もより強く浮かび上がっていたように思う。

マコ役から時を経てマコの母を担う野村玲子、2000年のリニューアル版ではクリエイターとして参加したヤクザ役の加藤敬二、かつてエンジェル役で「みんなが幸せになれたらいいなあ」とピュアな笑顔を見せた夢の配達人役の鈴木涼太、さまざまな四季作品で重要な役を演じる山口嘉三、服部幸子、澁谷智也。彼らのスピリットが若い俳優には大きな道しるべになっただろう。

最後に『夢から醒めた夢』創り手の強い想いが凝縮された夢の配達人のせりふでこの文章を閉じたい。

「人生を生きるには夢が必要だ。苦しいとき、哀しいときはここへいらっしゃい。さみしいとき、嬉しいときも是非。劇場は夢を創りだし、人生を映し出す大きな鏡です」

今だからこそ、劇場で観る”夢”は輝いている。

取材・文=上村由紀子(演劇ライター)

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