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“語ることで食べていく”時代の終わり──プロブロガーとスピリチュアル教祖の転落

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“語ることで食べていく”時代の終わり──プロブロガーとスピリチュアル教祖の転落

私のウォッチャーライフも、そろそろ終わりが近いのかもしれない。
少し前に、元人気ブロガーの立花岳志さんが、生活保護を受けるに至るまでの経緯を語ったインタビュー記事が東洋経済オンラインに掲載され、話題になっていた。

「年収5500万円から生活保護へ」元人気ブロガーが"どん底"で見た景色

2011年3月、立花さんは会社を辞め、プロブロガーとして独立した。

わずか1年で『ノマドワーカーという生き方』を刊行し、独立から7年で年収は5500万円。赤いアルファロメオ、六本木の144平米の自宅、鎌倉を含む4拠点の多拠点生活――成功の速度は速かった。

「好きなことで生きていく」「ブログで飯を食う」。そんな時代の象徴のような人物が、社会のセーフティーネットに助けを求めることになった。

そのニュースに、驚きを覚えた人が多かったようだ。


元プロブロガーと言えばイケハヤくらいしか思いつかないので、私は立花さんについて詳しく知らなかったが、その転落劇には既視感を覚えた。

なぜなら、私がこの12年ほど観察を続けている「子宮系スピリチュアル」の教祖たちが、今まさに立花さんと同じような道をたどっているのだから。


たとえば、壱岐島で活動をしている「吉野さやか」という人物は、かつて子宮系スピリチュアルの開祖「子宮委員長はる」として、圧倒的な発信力と人気を誇っていた。

破天荒を地で行く彼女のブログは、型にはまった人生に生きづらさを覚える女性たち(主に主婦層)から熱烈な支持を受けた。始めは風俗嬢として働きながら発信していた吉野だが、やがてセミナーやグッズ販売で莫大な収入を得るようになる。


ポリアモリー(複数恋愛)を宣言していた結婚生活が破綻した後、一度は引退を望んで東京から長崎県の壱岐島へ移住。けれど、静かな暮らしには腰が落ち着かなかったのか、移住後も精力的に活動を続けている。

地元である青森から親兄弟を呼び寄せると、農業を始め、カフェを開き、JAから島の駅「壱番館」の経営を引き継ぎ、ファンから“投資”を募っては事業を拡大させていく。


湯水のごとくお金を使って成功者を気取り、「億女」を自称していたが、実のところまったく利益は出ていないようだった。

スピリチュアルという虚業の世界では上手くやれても、実業の世界では成果がでない。そこで、次から次へと新しい夢を描いては「私はもっとすごいことをする。だから、みんなもっとお金を出して!」とファンに呼びかけ、集金を続けた。


あのまま突き進めば破綻する。それは分かっていた。

事業で利益を出して、それを元手に次の事業に投資するのではなく、いつまでもファンの財布を当てにするクラファン方式に頼り続ければ、やがて限界が来るのは自明の理だ。


何より、吉野が新しい夢を描くたび事業が増えて、経費も増えていくので、雪だるま式に支出が膨らんでいく。

これでは、いくら集金しても出ていく一方で、支出に収入が追いつかない。


羽振りが良かった頃に壱岐島の土地を買い漁っていたので、資産はある。しかし、離島の負動産は現金化が難しい。案の定、資金がショートしたようだ。

彼女は今、運営する施設の電気代すら払えなくなり、ファンに「少額でもいいから助けてほしい」と泣きついて、寄付を募っている。


そして、同じく子宮系の教祖であった假屋舞も、行き詰まりを見せている。

壱岐島に建てた豪邸の建設費(1億6,000万円)の支払いを期日までに完了できず、物件が競売にかけられそうなのだ。


どちらも、一時は「女性性を楽しむことで宇宙と繋がり、豊かになれる」と説き、多くの信者を集めていた人たちだ。

羽振りの良かった頃には、豪華な家に高級家具を揃え、外車を乗り回し、頻繁に海外へ出かけるなど、贅沢な暮らしぶりを見せつけていた。

しかし、今や彼女たちのビジネスと生活は破綻寸前だ。


「まあ、そりゃそうだろうな」と思う。だって、世の中の空気がすっかり変わってしまったのだから。

スピリチュアルビジネスは、かつて主婦のあいだで一世を風靡した「キラキラ起業」と地続きにある。

・好きなことで起業する
・ブログとSNSで生き様を発信して共感を得る
・ファンとつながって収益化する

この構造はブログ飯とも同じだ。つまり、ブログを書いて読者やフォロワーに「あなたも自由な生き方ができる」と“夢”を見させ、その夢を信じてもらうことで、高額な情報商材やセミナーに誘導するビジネスモデルだった。


けれど、その夢を見続けるための「空気」がなくなってしまった。気がつけば、人々の顔つきが変わっている。

かつては「会社を辞めて自由になりたい」と叫んでいた人たちが、今では「もう一度、会社員に戻りたい」と言うようになった。

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子どもたちのなりたい職業ランキングでは、YouTuberより公務員が上位だ。

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社会全体が“自由の代償”に疲れてしまったかのように、“自由”よりも“安定”が選ばれはじめている。
ブログ飯やノマドワーク、キラキラ起業に子宮系スピリチュアル。

それらが隆盛を誇ったのは、まだほんの10年ちょっと前のことなのに、ずいぶん遠い昔に感じる。

当時のプロブロガーは「答え合わせは10年後」なんてよく言っていたものだが、実際に10年経ってみると、個人で稼ぐことの難しさが露わになった。

凡人は、好きなことだけでは食べていけないのだ。
子宮系スピリチュアル教祖たちの没落も、プロブロガーの転落も、同じ事象の別の断面にすぎない。

“語ることで生きる”というビジネスモデルそのものが、もう時代に合わないのである。


世界が不安定になり、日本という国そのものが貧しくなっていく実感の中で、誰しも無駄なお金は使えない。

インフルエンサーの暮らしを支えていたのは、「自由になりたい」と願う人々の欲望であり、庶民の経済的なゆとりだった。


一昔前は、不景気と言いつつ「覚悟を決めればどうにかなる」という言葉がまだ通じていた。

その空気がなくなった今、元プロブロガーやスピリチュアル教祖たちは、立っている場所の脆さを思い知っているはずだ。
かつては女王様気取りで、傲岸不遜が服を着て歩いているようだった子宮系スピリチュアル教祖たちだか、今ではファンに向かって「お願いします」「ありがとうございます」「ごめんなさい」とペコペコ頭を下げている。


人気があった頃の彼女たちのブログには、歯切れ良く、力強いメッセージが並んでいた。

それが、今では言い訳ばかりが並び、キレが悪くてダラダラ長い。文章は長いくせにメッセージ性がなくなっている。

彼女たちが魅力を失ったのは、もはや語るべきことを思いつかず、語る言葉をなくしてしまったからだろう。言葉を失った瞬間に、すべてを失うことが決まったのだ。
破滅までのカウントダウンは始まっている。

「語ることで食べていく」時代の終わりを最後まで見届けたら、私のウォッチャーライフも静かに幕を閉じるのだろう。

***


【著者プロフィール】

マダムユキ

ブロガー&ライター。

「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。最近noteに引っ越しました。

Twitter:@flat9_yuki

Photo by :OPPO Find X5 Pro

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