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大切な「うちの猫」が病気になったとき  最良の治療を見つけるための獣医師とのコミュニケーションは

ねこのきもちWEB

あなたは、愛猫が病気になったときまずどうしますか? webでも情報が探しやすくなった今、動物病院を検索し、ご自身で病気や治療法について調べる方も多いでしょう。しかし獣医療も進歩し、治療の選択肢が多くなっている今、何が最良の治療なのかと悩まれる飼い主さんも少なくないのではないでしょうか。言葉が話せないペットに変わり、どのようにすれば最良の治療を選ぶことができるのか、帝京大学大学院公衆衛生学研究科 客員研究員の伊藤優真先生に寄稿いただきました。伊藤先生は、獣医師として有明動物病院に勤務する一方、「飼い主と獣医師間でのコミュニケーション」について研究されています。

家族の一員としてのペット


家族の一員としてのペット


「チョコに何をしてあげたらいいか教えてほしい!」 先日、友人からペットのチョコちゃん(トイ・プードル)の治療に悩んでいると、獣医師である筆者に相談があった。
「病気の治療をしているが、なかなか良くならず、このまま入院を続けた方がいいのか?もしくは家での治療に切り替えたほうがいいのか?他の動物病院に連れて行った方がいいのか?どの治療がこのコにとって幸せなのだろうか?」という悩みであった。

日本国内での2022年の犬猫の飼育頭数は1589万頭であり、その数は人間の15歳未満の子供の数(1450万人)よりも多いとされる。<注(1)(2)> ペットの飼育が当たり前になった現在、犬猫などのペットを人間と変わらない家族としてとらえている人も多いだろう。

昨今、獣医療でも心臓外科手術や腹腔鏡手術など今までは行われていなかった高度な医療を行う病院が増えている。また大型の動物病院や皮膚科、循環器科、腫瘍科など細分化された診療科を持つ専門動物病院もできてきている。このように、選択肢が増え医療水準が上がることはいいことだ。その一方で、筆者の友人も悩んでいたように、家族の一員であるペットが病気になった際、最良の治療を提供してあげたいと考えるものの、そのためにはどうしたらいいかわからないと感じている人も多そうだ。

「どうすれば家族の一員であるペットに、最良の治療を提供できるのか?」ということついて、さらに深く考えていくために、獣医師に向けて飼い主さんとのコミュニケーションのあり方について解説した著書「ロジックで学ぶ獣医療面接」(緑書房)がある、獣医師の小沼 守先生にインタビューした。

ペットへの最良の医療とは?


取材に対応してくださった笑顔の小沼 守先生。獣医師 博士(獣医学)。千葉科学大学 教授、大相模動物クリニック名誉院長。NPO法人 獣医学教育支援機構vetOSCE委員(医療面接)


――自分の大切なペットに対して最良の治療を行いたいと考える飼い主さんは多くいるようです。しかしながら動物病院での治療は複雑になり、何が最良の治療なのか悩まれる方も多いようです。まずは、ペットへの最良の治療とは何なのでしょうか?

小沼先生:
「まず強調したいのは、目指すべきは最高の医療ではなく最良の医療であり、家族ごとにその最良の治療は変わるということです。最良の治療とは、家族がペットのことを思い考え、この治療がいいと納得した治療です。このために、獣医師と飼い主さんのコミュニケーションが必要となります。獣医療は自由診療なので、公的医療保険制度が整備された人に対する医療のように、スタンダード(標準)の治療が示されているわけではありません。もちろん、獣医学の教科書やガイドライン等に推奨された治療は存在しますが、それと同じくらい治療を決める際に大きく関係してくるのが家族の価値観や意向などです。つまり、動物の権利や福祉を踏まえた上ではありますが獣医療での最良の治療とは、決してペットに対して高度な医療を実施することではないということです。」

――そうした納得できる治療を選択するために、飼い主さんは獣医師とどのようにコミュニケーションをとるのがよいのでしょうか?

小沼先生:
「飼い主さんがペットに対してどのような治療をしたいと考えるのか。ここで正解が変わります。獣医療では、言葉を話せないペットに代わり、飼い主さんが獣医師とコミュニケーションをとり、症状、価値観・希望、診療費の予算の目安などを伝えてもらうことになります。獣医師は、それらの情報を基に検査を行い、病気を診断して考えられる複数の治療法をメリットとデメリットを含めて伝えます。その上で飼い主さんと獣医師がどの治療がペットに向いているかを相談することで納得する治療を選ぶことができます。

分かりやすく伝えると、獣医師は治療の選択肢という複数のカードを提示し、飼い主さんが獣医師と共にペットのことを考え、カードを選んでいく中で納得できる治療が決まっていくのです。飼い主さんには積極的に、考えや要望、気持ちを伝えて欲しいと思います。このやり取りを踏まえることで納得できる治療、つまりペットに対しての最良の治療を飼い主さんが選ぶことができるようになるのです。」

飼い主と獣医師間のコミュニケーションが重要


インタビューで小沼先生が「最良の治療=家族が納得した治療 を見つけるには、飼い主と獣医師間のコミュニケーションが重要である」と強調されていたのが印象的だった。人への医療でも患者と医師間でのコミュニケーションの役割は重要になるが、獣医療でも同じようだ。

飼い主さんごとに最良の治療が異なり、獣医師と飼い主が治療というカードを一緒に選ぶという話を聞いて、人の医療でのShared Decision Making(シェアード・ディシジョン・メイキング:共同意思決定)の考え方が近いと筆者は思った。共同意思決定とは、治療の選択肢が複数あり、患者の希望ごとに治療の正解が異なる際に、医療者と患者が共同でより良い治療を見つけていくことを目的とした意思決定方法である。この概念を応用することで、獣医療における最良の治療を見つけることができるだろう。

飼い主さんに役立つ3つのこと


それでは、飼い主さんが獣医師とコミュニケーションをとり「納得する治療」を見つけるために、具体的にはどうしたらいいのだろうか。小沼先生のインタビューを基に3点にまとめた。

飼い主さんに役立つ3つのこと

➀気になることや質問は紙に書いて持っていく


動物病院で、獣医師に話したいことや質問があるのに、萎縮してしまったり、話を忘れてしまったりうまく伝えることが出来ず、もやもやしてしまったことがある人もいるだろう。
そうならないように、気になることをメモして持って行くことが重要だ。メモを基に話してもいいし、メモを渡してもいい。

メモする内容は、症状や頻度、いつからかなどである。その他、ペットに対しての価値観や希望「高齢だから入院や全身麻酔はなしで、できるだけペットの負担を減らしたい」や「手術を含めどんな治療もしてあげたい」といったことを書いてもいいだろう。また、文字や言葉にしづらい症状などは、動画を撮影していくと獣医師に伝える際に役に立つはずだ。

場合によっては、飼い主さんがこれは病気と関係ないのではと考えることに原因が含まれていることや、家族の状況や仕事の都合なども治療をしていく上で重要になることがある。まずは、何でもいいので気になることや思い当たることを書いてみるのがよい。そして、もし可能なら整理し、箇条書きでまとめる等することで、読む側の獣医師の負担も減る。

②悩むときはすぐに決めない、家族で話し合う


治療に緊急性がないときにはその場ですぐ決める必要はなく、時間を作り家族全員でそのペットにとって最良の治療を話し合うことが重要だ。

時には、子どもたちが欲しくて飼ったペットだったが、進学や結婚など人生の出来事により今は一緒に暮らしていないということもよくあると思う。そんなときも、一度はみんなで集まり、しっかり家族で話し合い、そのペットに対してどのような治療を行いたいか、納得ができる治療がどれか考える機会を設けるのがいいだろう。
家族の意見が一致しないときには、可能なら家族揃って動物病院に行き、再度、獣医師から必要な情報の提供を受け、家族全員が納得して同じ決断ができるように話し合うのがよい。

③獣医師だけでなく、愛玩動物看護師に伝えてみる


2023年度より、動物病院での診察を補助する国家資格の愛玩動物看護師が誕生した。愛玩動物看護師は、採血などの手技に加え、専門的知識の下で、飼い主さんとのコミュニケーションにおいて活躍の場が期待されている。獣医師と飼い主さんの間に入り、ペットの分からないことや、悩んでいることがある時には力になってくれるだろう。

心理的に獣医師には話しにくい思うことも、愛玩動物看護師には話しやすいこともある。一人一人の飼い主さんに対して割ける時間も獣医師に比べ愛玩動物看護師たちは比較的とりやすいので、自分たちがペットに対してどのような治療を行いたいかということを整理する機会になるかもしれない。

このように、積極的に愛玩動物看護師ともコミュニケーションを取ることがお勧めだ。

ペットロス症候群の減少にも


悲しいことだが、治療が功を奏してペットの病気が回復するとは限らない。飼い主さんと獣医師間で相互のコミュニケーションが行われていた場合には、ペットロス症候群の減少につながるという報告もある。この他にも飼い主さんと獣医師のコミュニケーションは以前から重要性やメリットについての研究が進められている。<注(3)(4)>

筆者の実際の経験に基づく話になるが、平均寿命程度の16、17才くらいの猫(人では80~90代に相当)を、「がん」だと診断したとする。この時に、

➀外科手術や抗がん剤などを用いた積極的な治療を中心に行っていくか
②脱水への補液や痛み止めの薬など、症状を緩和させる治療を中心に行っていくか

このどちらを選択するかの答えの正解はなく、飼い主さんがどの治療方針が納得できるかによって変わる。このように実際の診察場面でも、獣医師と飼い主のコミュニケーションが重要になる場面は多い。ペットと悔いの少ないお別れをするためにも、獣医師と積極的に意思疎通をすることが勧められる。

納得できる治療を決められるか不安の飼い主さんへ


ここまで、獣医師とのコミュニケーションの大切さを伝え、最良の治療に向けてのアドバイスを紹介してきた。それでもやはり、ペットの治療方針を選択するのは難しいと考える飼い主さんが少なくないかもしれない。そんな方に対して、小沼先生からのメッセージをお伝えすることで締めくくりたい。

「愛するペットの命を助けてあげられるのは、獣医師ではなく飼い主さんなのです。(みなさんが)動物病院に来るまでは獣医師は受け身であり、無力です。飼い主さんの協力があってこそ治療もできます。飼い主さんが十分考え納得した治療は、ペット自身にとってもきっとよい治療となるでしょうし、お互い幸せだと思います。獣医師と共に、ペットにとって最良の治療を見つけていきましょう。」

伊藤優真
獣医師 博士(公衆衛生学)。帝京大学大学院公衆衛生学研究科 客員研究員。獣医師免許を取得後、都内の動物病院に勤務。より良い獣医療の実現には飼い主さんと獣医師間でのコミュニケーションが不可欠であると考え、大学院にて医療コミュニケーションの研究をし博士号を取得。「日本一優しい獣医師」になることを目標に奮闘中。

参考文献
(1)一般社団法人 ペットフード協会2022年(令和4年)全国犬猫飼育実態調査 結果
(2)総務省統計局
(3)Pun JKH. An integrated review of the role of communication in veterinary clinical practice. BMC Veterinary Research. 2020/10/19 2020;16(1):394. doi:10.1186/s12917-020-02558-2
(4)Testoni I De Cataldo L Ronconi L et al. Pet Grief: Tools to Assess Owners' Bereavement and Communication Skills. Animals (Basel). Feb 21 2019;9(2)doi:10.3390/ani9020067

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