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【昭和の春うた】山口百恵と谷村新司が作りあげた日本のスタンダード「いい日旅立ち」

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1978年11月21日 山口百恵のシングル「いい日旅立ち」発売日

メロディーが日本人の心の琴線に触れるメロディ「いい日旅立ち」


春といえば旅立ちの季節。“旅立ち” と一口に言っても、それはそれぞれの立場によって違った風景を見せる。“送り出す人” にとっては寂しさやせつなさが大きくのしかかるし、“旅立っていく人” からすれば希望に満ちた世界へ扉を開くものとなるだろう。

音楽にもそんな春にふさわしい “旅立ち” をテーマにした曲は数多く存在する。そして “旅立ち” というワードでダントツに浮かぶ曲といえば、やはり山口百恵の「いい日旅立ち」ではないだろうか。ただし、この曲の妙は旅立つ側にいる主人公を描きながらも “希望に溢れた旅立ち” という明るい世界とは違う点だ。むしろ「♪雪解け間近の北の空に向かい」という春の描写からも感じ取れるように、大きな “悲しみを抱えた旅立ち” が日本人の心の琴線に触れる美しいメロディーで描かれている。

タイトルは、2つのスポンサーの名称から考案


この曲の背景について改めて見ていきたい。1978年に国鉄が旅行誘致のために打ったキャンペーン名が「いい日旅立ち」だ。この名称は、スポンサーとなった「日本旅行」と「日立製作所」の企業名から一文字ずつ取って考案された。作詞・作曲を手掛けたのが谷村新司。依頼を受けた谷村はちょうど1年前にリリースされた「秋桜」(コスモス)を相当に意識したという。

さだまさしが手がけた「秋桜」は百恵のファルセットが非常に印象深い、結婚をテーマにした名バラードだ。谷村もバラードを依頼されたとなれば「秋桜」を意識することは当然だろう。“絶対に「秋桜」に負けたくない” という強い思いが谷村の中にあったと言われている。その思いの中で、秋の名曲「秋桜」に匹敵する春の名曲「いい日旅立ち」が生まれた。

当時の山口百恵はこの前年にリリースした「プレイバックPart2」「絶体絶命」といったロックチューンが大ヒット。宇崎竜童・阿木燿子による楽曲によってその才能を開花させたアーティスト・山口百恵にとって、とても重要な時期だった。この名曲たちに続く曲が「いい日旅立ち」であり、託された谷村のプレッシャーたるや想像を超えるほど大きなものだったに違いない。

どこか自分に言い聞かせるようなお馴染みのフレーズ


「いい日旅立ち」を歌ったのは、山口百恵が19歳の時である。この若さにして、ここまで憂いのある表現力ができるのかと、才能のすごさを感じずにはいられない。

山口百恵の歌唱力の素晴らしさは今さら言うまでもないが、特に低音の響きと鼻濁音の美しさは天下一品。三浦友和氏との間に生まれた長男で歌手の三浦祐太朗が、唯一、母にアドバイスを受けたこととして「濁った言葉をそのままに歌うと、美しく聞こえないから鼻濁音には注意をしたほうがいい」と答えていたことからも、いかに山口百恵が言葉のひとつひとつにこだわりを持っていたかが分かる。「いい日旅立ち」が美しく響くのも、こうした細部への百恵のこだわりがあったはずだ。

美しいメロディーはもちろん、春の旅立ちをテーマにした曲としては、もの悲しさ漂う歌詞がとても印象的だ。大切な人との別れを経て、その地を旅立つときの心情を山口百恵は見事に表現している。

 あぁ日本のどこかに
 私を待ってる人がいる

というお馴染みのフレーズは、“別れ” に対する希望でもあるが、どこか自分に言い聞かせるようでもあり、そこがまた私たちの心をせつなさせる。大きな喪失感と悲しみに暮れる主人公が、区切りを告げるために旅に出る。きっとそこにはまた新しい出会いが待っているのだからと、誰かに歌うのではなく自分自身に言い聞かせるような、そんな悲しみと希望が入り混じっている。

聴き手にとっていかようにも解釈できる 歌詞の世界観


当時19歳の山口百恵がどんな気持ちでこの曲を解釈し、レコーディングに臨んだのかは分からない。ただ、歌詞に出てくるこの部分が胸に刺さる。

 母の背中で聞いた歌を道連れに…
 父が教えてくれた歌を道連れに…

別れといえば歌の世界ではやはり恋愛の別れを描くことが多いが、この歌詞からは、親との死別というふうにも取れ、非常に解釈に幅が生まれる。聴き手にとっていかようにも解釈できる “別れ” は、老若男女、時代を問わず愛される名曲となった所以だろう。美しく奥行きのあるメロディーだけでなく、こうした歌詞の世界観も大きく影響しているはずだ。

かくして、大きな悲しみを抱えた主人公の春の旅立ちを歌った「いい日旅立ち」は、今も多くの人に愛され、カバーする歌手が後を絶たないスタンダードナンバーとなった。この名曲を生んだ百恵と谷村の信頼関係はその後も続き、1980年、結婚式の当日にリリースされた「一恵」も谷村が作曲。作詞は百恵が横須賀恵というペンネームで手がけている。

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