アイを超えることは許さない?──『【推しの子】』重要人物・カミキヒカルの人格&犯行動機を考察
志半ばで亡くなった伝説のアイドル・星野アイの双子の娘・ルビーと息子・アクアが、芸能界で奮闘する物語『【推しの子】』。
推しのアイドルの子どもに転生するというユニークな設定と赤裸々とまで言えるほどリアルに描かれる芸能界の裏事情が人気を呼んでいる作品です。
ファンの熱い支持を受け、現在アニメ第3期が放送中の本作。本編ではいよいよ物語の核心に迫る展開が近付いていますが、その中で鍵を握るのはカミキヒカル。
先日放送されたストーリーでも人気絶頂の女優・片寄ゆらを殺害したような描写が。彼はなぜ彼女を手にかけたのでしょうか。本稿ではカミキヒカルの人格や犯行動機を、作中の映画「15年の嘘」などを基に考察しています。
なお、物語の重大なネタバレが含まれますので、アニメでお楽しみの方はご注意ください。
【写真】『【推しの子】』重要人物・カミキヒカルの人格&犯行動機を考察
株式会社メディアEYES 代表取締役、その裏の顔
カミキヒカル(神木輝)は株式会社メディアEYESの代表取締役を務める31歳の男性。端麗な容姿と紳士的な笑顔、そして両眼に黒々とした六芒星型のハイライトが印象的な人物です。
アイの息子・アクアと瓜二つの顔立ちからもわかるように、彼こそがアイを妊娠させた張本人であり、アクアとルビーの父親。そして、アイ殺害事件の裏で糸を引いていた犯人でもあります。
彼は人の好さそうな笑顔の裏に猟奇殺人鬼としての素顔を隠しており、自らが才能や価値を感じた人物を殺すことで自らの命に重みを感じるという感覚の持ち主。先日の片寄ゆら殺害事件時の描写からもその狂人っぷりが感じられました。
なぜ猟奇殺人鬼になってしまったのか
カミキも幼い頃からこんな常人離れした感覚を持っていたわけではありません。むしろ幼い頃は同世代の子供と何も変わらない純粋な少年だったと言えるでしょう。彼の生い立ちが倫理観を大きく歪ませ、やがて猟奇殺人鬼へと変貌してしまったと考えられます。
ここからは、純粋な少年が猟奇殺人鬼へと変わってしまった原因を考察。なお、考察材料としているのは星野アクアが脚本を手掛けた映画「15年の嘘」です。
本作は、実際に起きたアイ殺害事件をベースにした実録映画であり、母親であるアイを殺した犯人(カミキ)への糾弾と復讐を目的としたもの。
大まかなストーリーは事実であるものの、映画作品である以上脚色されている部分があるのはもちろん、実際にアイやカミキから当時の心境や状況を聞いているわけではないので、アクアや彼の執筆に協力した面々の想像や創作によって物語が補われている箇所もあります。
本作を見たカミキは「この物語はフィクション」「捏造して誇張して都合の悪いことはきれいに隠す」「どこにでもあるエンターテインメント作品だ」と評しています。真実はアイとカミキのみぞ知る……そのうえで、本稿の考察をお楽しみいただければ幸いです。
芸能界の闇に飲まれた幼少期
カミキの心を壊した一番の原因は、所属していた劇団ララライで受けていた性被害でしょう。同じ劇団に所属する女優・姫川愛梨は齢10歳のカミキに継続して性加害を行っており、カミキとの子供・大輝まで産んでいます。
大輝は、表向きは同じ劇団に所属する夫・上原清十郎との子ということになっているのも、芸能界の闇の深さ、悍ましさを感じずにはいられません。もちろん上原はこのことを一切知らず、同じ劇団に所属するカミキのことをとても可愛がっています。
カミキ自身、姫川からの行為を喜んで受け入れているわけではなく、内心では「気色悪くてたまらない」と思いながらも関係を断ち切ることはできません。その理由はカミキの成育歴が関係していると考えられます。
両親の愛を知らずに育った幼少期
「15年の嘘」の中で、カミキの両親についての描写は一切ありません。また、作中の描写からカミキが孤独な幼少期を送っていることが垣間見られます。このことから彼には両親、あるいはそれに代わるような保護者がいなかったことがうかがえます。
彼には守ってくれるような大人がおらず、子供の頃に受けるべき愛情を知らない可能性が非常に高いです。子供の頃に無条件に愛される経験をしなかったカミキは、おそらく愛着障害か、それに近いものを起こしていたのではないでしょうか。
愛着障害を起こした子供の特徴として、周囲の大人の顔色を窺うようになるというものがあるそうです。カミキは物心がつく頃から周囲の大人が求める自分の姿を演じる癖がついており、そうやって欠乏した愛情を必死に求めてきました。
姫川の行為を受け入れたのもその延長線上のことだったのでしょう。本当は酷く嫌悪しながらも拒絶できないのは、身体を差し出してでも、姫川の行為に応えてでも、誰かに愛されたかったから。
なお、映画の内容が全て事実というわけではないので、両親がいた可能性も強く否定はできないのですが、まともな両親がいたならば、カミキはきっと両親に助けを求めることができたでしょうし、姫川もまともな大人が守っている少年に手は出さなかっただろうと思います。
カミキがどういう経緯で生まれたのかは定かではありませんが、愛情を注いでくれる両親がいれば……と思わずにいられません。
アイとの出会いと心を追い込んだ事件
その後、同じように両親の愛を知らずに育ったアイと出会ったカミキ。歳が近いだけでなく、似た境遇からか、求められる姿を演じ続ける自分の嘘にアイだけが気付いてくれたことで、カミキは一気に彼女に心を許し、姫川と決別を試みます。
しかし、姫川がそう簡単に離してくれるわけもなく、大輝がカミキの子であることや「どうしようもなく空っぽな貴方が誰かに本当の意味で愛される事なんてないんだから」と、カミキの心の弱点を的確に突いた言葉で強い不安感を煽り、逃がそうとしません。
不安を消したい一心で、カミキは「アイは僕の事を捨てたりしないよね? 僕の事愛してるよね?」と縋るように訊ねるも、アイの回答は「分かんない」。カミキには嘘が通じないとわかっているがゆえの正直な答えでしたが、カミキを追い詰めるには十分。
心が限界に達したカミキは、姫川の夫の所へ向かい、これまでの姫川とのことを暴露。これがきっかけとなり、姫川夫妻は心中。カミキは間違いなく被害者なのですが、自分の行動がトリガーとなり2人の命が潰えてしまったことがカミキの精神をさらに追い込むことになってしまいます。
心を完全に崩壊させた別れ ※重大ネタバレ注意
姫川夫妻の命の重みに押しつぶされる少年・カミキの心。彼が助けを求められるのはもはやアイしかおらず、アイへの執着はより強いものに。彼女が自分を受け入れてくれることでその精神は何とか持ちこたえられていたと考えられます。
そんな中でアイから突然別れを切り出され、激しく動揺するカミキ。自分にはアイしかいないし、アイには自分しかいない、これからも2人で支え合って生きていくものだと心の底から信じていたのですから、取り乱すのも無理はありません。
アイが別れを切り出した理由は自身の妊娠。カミキは結婚を申し出たものの、それもきっぱりと断ってしまいます。「私は君を愛せない」愛する彼女にそう告げられ、1人になってしまったカミキの絶望は想像するに余りあります。
その絶望からカミキはアイを殺害した犯人・良介に彼女の住所を教え、結果としてアイは刺殺されてしまいました。
「嘘は愛」であるアイの本心
「私は君を愛せない」。それはアイがカミキを愛していたからこその嘘でした。カミキが姫川に性加害を受けて苦しむ姿も、そこから逃げようともがく姿も、姫川夫妻の死を重く受け止める姿も、アイはずっとそばで見てきました。
そんな中で発覚した妊娠。既に姫川夫妻や子・大輝の命の重みを背負っているカミキに、アイはこれ以上命を背負わせてはいけないと判断し、彼の元を離れることに。カミキと、子供たちといっしょに生きていきたいという本心を嘘の愛で隠したのです。
子供を産み育てる決断をしたのもカミキへの愛が確かにあったからこそ。子供たちが4歳になる頃に一度カミキに連絡を取っていることからも、時間が彼を癒した頃ならまたいっしょに生きていけるかもしれないという思いもあったのかもしれません。しかしながら、カミキにその愛が届くことはありませんでした。
「命の重み」が快楽になったのは自分の心を守るため?
間接的ではあるものの、姫川夫妻だけでなくアイの命にも手をかけてしまったカミキは、苦しかったはずの命の重さに快楽を感じるように変化。恐ろしい怪物になってしまったわけですが、これもまたカミキが自分の心を守るための現象だったように感じられます。
そもそもアイのことは少し怖い目に遭って自分の絶望を理解してくれれば、と思っていた程度でまさか殺してしまうとは思っていなかったよう。なんなら当時もまだアイのことを愛していた可能性もあります。
歪んだ愛だったかもしれませんが、愛する人を殺してしまった事実を、既に絶望の渦中にいたカミキが受け止めるには、命の重みを快楽として感じるしかなかったのだと推察します。
ターゲットは"アイを超えそうな才能を持つ人物"? ※重大ネタバレ注意
果たして猟奇殺人鬼へと変貌を遂げたカミキ。しかしながら、殺せれば誰でもいいというわけではなく、彼がターゲットとするのは自分が才能や価値を感じた人物です。私は彼の価値基準にはアイの存在があるように感じられます。
アイは人気絶頂の最中に亡くなってしまいました。もちろん悲劇以外の何物でもないのですが、これによって彼女は、人気が失墜する姿も、熱愛報道をはじめとするスキャンダルも、老いていく姿も見せることのない“完璧なアイドル”として朽ちることのない存在となりました。
カミキはアイが人気絶頂だった当時と同じカリスマ性や人気を誇る人物を標的にしていると考えられます。そのひとつの証拠となるのが、瞳に輝く六芒星型の星。アイはもちろん、ルビーやアクア、幼い頃のカミキや片寄ゆらにも星のハイライトが輝いていました。
私はあのハイライトを人を惹きつける魅力やカリスマ性を可視化したものだと解釈しています。作中にはたくさんの才能や魅力を持った芸能人が大勢登場しますが、あのハイライトを持っている人物はかなり限られてますし、おそらく天性のものなのでしょう。
カミキはハイライトを有するほど天性の才能を持つ人物を敏感に察知して近付き、標的としているのです。
その犯行動機は命の重みを感じたいがためなのか、才能ある人物をアイと同じように永遠の存在にしたいからなのか、はたまたアイを超えることは許さないという思いがあるのか……本心はカミキ自身にしかわかりません。もしかすると、彼自身も本当の気持ちはわからずにいるのかもしれません。