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公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタルジア」。入江一子ら8人のそれぞれの「景色」

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公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタルジア」。入江一子ら8人のそれぞれの「景色」

 東京都美術館は、2017年から毎年異なるテーマで、「上野アーティストプロジェクト」を続けてきた。8回目となる本展のテーマは「ノスタルジア」。「ノスタルジア」には、「郷愁」や「懐かしさ」などがイメージされるが、そこには、子どもの頃の思い出だったり、懐かしい風景だったり、今は失われてしまった過去に強く恋焦がれる気持ちもあるだろう。

 本展では公募展展覧会で作品を発表し続けて来た8名の作家、阿部達也、南澤愛美、芝康弘、宮いつき、入江一子、玉虫良次、近藤オリガ、久野和洋らの作品が並ぶ。「街と風景」「子ども」「道」の3つの章にわかれ、作家らの思い描いた様々なノスタルジアの世界を味わえる展覧会だ。

 その中の一人、入江一子は、2021年に105歳でこの世を去るまで、精力的に制作を続けて来た。百歳の時には上野の森美術館で、『シルクロードに魅せられて 入江一子100歳記念展─百彩自在─』(2017)を開催した。もともとは53歳(1968年)の時に東アジア、ヨーロッパ、シルクロードへの写生旅行に出かけたことがきっかけになり、2000年までに30ケ国以上を訪れ、シルクロードの風景や人々の暮らしを主題にした作品を描くことをライフワークとした。
 中国の北東部、黒竜江省を流れる「のん江」の川面には血を流したような夕日で真っ赤に染まり、舟が1隻浮かんでいた。その美しさは生涯忘れることができないほど感動的だったことが、入江の創作の原点になったという。
 入江はシリア、ヨルダン、イラクなど個人ではなかなか行けないような危険なところを訪れ、砂漠の中の崩れかけた建物や民家を描いた。シルクロードの作家として知られる平山郁夫が遺跡などを描いたのとはだいぶ違う。入江が生涯を描いた作品には彼女の生命力が漲っているような気がするのである。

▲入江一子 《イスタンブールの朝焼け》 1975年 油彩、カンヴァス 入江一子シルクロード記念館蔵

 夏休みに田舎を訪ねた少年が駅舎のベンチに座って時刻表でも見ている《彼方》(2005)や、学校の帰りに田んぼのおたまじゃくしでも見つけたのだろうか、ふたりの少年が佇む《六月の詩》(2011)など、芝康弘は子どもたちが陽光にあふれた野外で無心に遊ぶ情景を、岩絵具を削りながら表現した繊細な日本画で描き続けている。作品をみていると純粋で素直だった子どもの頃を思い出し、同級生と一緒に歌った童謡を思い出す。日本画を描き始めて35年目になるという。迷いながらの20代、院展に初入選するのに8年かかったが、今では、子どもや馬の絵を描く作家として認知されている。

▲芝康弘 《いつもの此の道》 2017年 紙本彩色 東京オペラシティ アートギャラリー蔵 

 
 阿部達也は、2011年の東日本大震災の前後から、身近な川や海、郊外など、空間が広く深い景色を「できるだけ正確に」描く風景画を継続して制作している。南澤愛美は20代で、川、釣り堀、そして銭湯などで動物が釣りを楽しんでいる独特な情景をカラー・リトグラフで制作した作品がユニークだ。玉虫良次の《epoch》は、一連の都市の情景を連作で描き、10枚つなぎ合わせて約16mのパノラマにした。本作は彼が5年をかけて描きつづけたもので、連結した姿を鑑賞するのは本人にとっても初めてのことだという。
 会場は天井まで約12mある吹き抜けのギャラリーAで、その中央には、8畳大の休憩スペースを設けた。その周りを入江一子、玉虫良治、近藤オリガ、久野和洋の作品が取り囲む。

 畳のある日本間も懐かしい。畳に座りながら足腰の疲れを癒し、ゆっくり思いにふけるという試みもありがたい。

 同時開催している「懐かしさの系譜―大正から現代まで 東京都コレクションより」も興味深い。東京都が所蔵するコレクションの中から、昔日の情景をとらえた絵画などにくわえ、川瀬巴水の版画や土門拳の昭和の子どもたちの写真など「懐かしさ」を痛感する作品が展示されている。

上野アーティストプロジェクト2024「ノスタルジア―記憶のなかの景色」同時開催「懐かしさの系譜―大正から現代まで 東京都コレクションより」は、2024年11月16日(土)-2025年1月8日(水)、会場:東京都美術館 ギャラリーA・C。
休室日2024年11月18日(月)、12月2日(月)、16日(月)、21日(土)-2025年1月3日(金)、1月6日(月)
展覧会ウェブサイト https://www.tobikan.jp/exhibition/2024_uenoartistproject.html
問い合わせ先:東京都美術館 03-3823-6921

 

 

 

 

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