「masterkey」（マスターキー）が生み出すVINTAGE MIXと異素材MIXでつくられる唯一無二の服づくり

12/29(金) 10:00配信

“ニューヴィンテージを構築”していくという、一見矛盾したテーマをもつ「masterkey」（マスターキー）というブランド。古く価値のあるヴィンテージを再構築していくことで、新しい価値が生まれる。それがニューヴィンテージを構築するということだ。リサイクルやアップサイクルという言葉では収まらないブランドのバイタリティーを、masterkeyのデザイナーであり代表の石橋智弘さんに伺った。

個性的なmasterkeyのプロダクトはこうして構築された

―― masterkeyのブランドルーツについて教えていただけますか。

「約15年前に、自分の地元でもある大阪府岸和田市にセレクトショップとしてスタートしました。お店を始める前は洋服のお直しの会社に勤めながら、文化服装の通信教育で服づくりを学んでいたんですね。その時に知人から『服をつくれるなら、一緒に展示会をしてみる？』と誘われたことが開業のきっかけです。年数を経ていくなかで、ショップからアトリエに環境が変わって、ブランドに業務が移ったという感じですね」

自分にしかできないことを突き詰めたデザインワーク

――ブランドを始めた頃と今とを比較して、どのような違いを感じますか。

「昔はロンドンとかパンクっぽいもの、特に『SEX PISTOLS』が好きでした。そういう匂いのあるものを最初はつくっていたのですが、やり続けていくうちに、『自分にしかできないことはなんだろう』と考えを突き詰めていく時期がありました。岸和田は古着文化が盛んな土地だったので、古着とアトリエにあるミシンを使って何か表現できないかということを考えていて……。ブランドを始めて５年目ぐらいの時に、今の原型のようなものができ上がっていった感じです。今では古着を解体し再構築する、VINTAGE MIXというキーワードがブランドイメージのひとつになっていますが、最初からその方向性が明確だったわけではなく、変遷のなかで生まれたものです」

masterkeyの個性は、非効率な作業のなかにある。必要だったのは自社工場というアトリエ

――個体差のある古着を一つひとつの服に取り入れていくと、アイテムにバラつきが出てきませんか？

「色や素材、形もバラバラな古着の個体差を個性として生かしつつ、そのなかから大きなカテゴリーを決めています。柄や素材が異なっても色やテイストに個体差が出ないよう、一貫性をもたせた独自の雰囲気で古着を縫い合わせています。どこにどの古着のパーツをもってくるか、というレイアウトのような作業は、自分の目で確認しながら手がける必要があるため、注文が100枚、200枚と入っても外注の縫製会社に頼むのが難しい。そういった事情があり、自社のアトリエでつくるという流れができました。今はミシンや機械、技術者も揃っていますが、最初は私しか縫製をできる人がいなかったため、一から着手していった感じですね。
自社の服を縫うということもそうなのですが、もうひとつの理由として、縫製業界の高齢化が進んでいることを実感しています。10年後の未来を考えると、今から取り組まないとな、という思いもありました」

2023年FWと2024年SSの個性あふれるアイテムを紹介

masterkey の服づくりは古着をアップサイクルするVINTAGE MIXのイメージが先行するが、実際は全体の30％ほど。残りの70％はさまざまな素材を組み合わせてつくる“異素材MIX”のアイテムとシンプルなアイテムで構成されている。

――masterkeyの新作でオススメのアイテムを紹介していただけますか。

「2023年FWのアイテムから、リバーシブルベストを紹介いたします。布で出来たカレンダー自体が珍しいと思うのですが、ヨーロッパの1970年代のカーテンファブリックで出来たカレンダーを4〜5枚パッチワークにして、シンサレートの綿を入れてキルティングベストに仕上げています」

「異素材MIXのセットアップで、デニムや刺し子のような素材を5〜6種類ほど使っています。デニムというカジュアルな素材でセットアップをつくることで、ちょっとかしこまった所にも着ていけるかな、と思いつくったアイテムです。パンツはカーゴタイプにしてドレスアップしすぎないようにしています」

――2024年SSの最新作からもいくつか紹介していただけますか。

「春夏のアウターを紹介させていただきたいのですが、今古着で人気の３Dニットの柄を転写プリントしてつくった生地のボンバージャケットです。素材自体はダンボールニットなので、カットソーを着ている感覚で着られるアイテムとなっています」

「もうひとつ春夏のアイテムとして、タイダイに染めたTシャツがあります。古着のシルクスカーフをタイダイに染めて、それを袖と裾に二重に取りつけたものです。裾のドローコードでシルエットを変えられる仕様になっています」

ジェンダーレスな服づくり

――masterkeyの服はジェンダーレスだと伺っています。その取り組みはいつ頃から始められたのでしょうか？

「最初は、特にジェンダーを気にしてつくってはいませんでした。女性のお客さんもいらっしゃると気づいてからは、性別を問わずに着用できるアイテムが増えたと思います。例えば、袖を折って着られるように袖が柄の異素材になっていたり、着丈がドローコードで調整できたりと、サイズの壁をパターンやデザインの工夫でクリアしています」

masterkeyの服づくりだからこその出会い

――ｍasterkeyをやり続けていたからこその出会いがあったと聞きました。教えていただけますか。

「こういう変わった服づくりをしているからこその出会いがあります。洋服をつくる上で、古着を大量に仕入れて、それを材料として使うために一旦解体する作業があるんですね。その作業を縁あってお願いしているのが、障害者支援施設なんです。社会と接点をもって、彼らの良いところを伸ばしていくという施設で、私もその考え方に共感して色々とお願いするようになりました。縫い目が縮んで起こるパッカリングという凸凹があって、それは古着のエイジングを感じられ味にもなります。なので、ただ切るのではなく、良い風合いを残しながら縫い目を解いて分解してもらい、その後きれいにアイロンがけをし、色分けまでをお願いしています。

彼らが携わったmasterkeyの服がアーティストの衣装としてテレビ番組のなかで着られていることを知り、施設で働いている人の親御さんが『うちの子供が携わったものを、有名な人が着てくれている』と喜んでいただいて。そういう姿を見た時に私も嬉しい気持ちになりますし、こういう取り組みはこれからも続けていこうと思います」