癇癪を起こし泣き止まない1歳息子…愛情不足?育て方が悪い?自信をなくしていたあの頃
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
育児業界で学んだ知識や情報と現実の息子に翻弄される日々……
私が働き始めた会社は育児関係の事業を行っており、ベビーマッサージのインストラクターを養成する講座を開催していました。ベビーマッサージが赤ちゃんとお母さんのアタッチメント(愛着関係)を育むのにも良いツールだということを発達心理学の考えを使いながら伝えていました。
入社当初、育児関係の会社なら自分の育児や生活にも何か役立つ情報が得られるのでは?という期待もありました。案の定、スタッフとしてテキストの製作過程で内容を読み込むうちに、発達心理学をはじめとした心理学や子どもの発達については結構詳しくなり、自分でも本を買い漁って勉強するほどになりました。
ただ、当時の私が独学で得た知識の中で気になったのは、発達障害ではなく愛着障害(※)という言葉でした。当時はまだ、コチ丸は「手がかかる子」という感覚でしかなかった私は、コチ丸の困り事と発達障害とが全く結びついていませんでした。育児にも自信がなかった上に、一度癇癪を起こすと何をしても泣き止まず手に負えないコチ丸につい怒鳴って叱ってしまったり……。もしコチ丸が愛着障害だとしたら、思い当たる節が多すぎて(汗)、ますます「私の育て方が悪いのかも」という考え方が強くなりました。
※ICD-10では小児期の反応性愛着障害、DSM-5TRでは反応性アタッチメント症とされており、乳幼児期に長期にわたって虐待を受けたり、両親の死やその他の要因で養育者と安定した関係が結べなかったりして、保護者との愛着関係を結ぶことができなくなることで引き起こされるとされています。
1歳半健診では別室に呼び出され、思わぬ大事に
そんな中、1歳半健診がありました。コチ丸は保健師さんと目を合わせず、声かけにも反応せずでした。それまでもなんとなく「あれ?聞こえてないのかな?」と不思議に思うことがたまにあり、その日は別室に呼ばれて生活で困ったことはないかなど聞かれた末、念のためにと総合病院で聴力の検査をすることになりました。
コチ丸を眠らせて検査する予定でしたが、途中で目を覚ましてしまったため、しっかり検査することはできませんでした。さらにその頃、コチ丸は中耳炎を何度かやっていたので、果たして耳が聞こえづらいのか、聞こえていても反応しないのか……何が原因かを特定するのはもう少し様子をみようということになりました。
当時は中耳炎のほかにも、よく熱を出して仕事中にお迎えの連絡が来ましたが、さすがに育児関連の会社だけあって、早退や遅刻には寛容な会社でした。まだコチ丸も小さかったので、大変ありがたかったです。
目を離したらすぐ行方不明!身につけるもので迷子を阻止!!
そんなコチ丸もやがて歩けるようになりました。が、そうなると最早、私の手には負えず(汗)、とにかく足が早く、気になるものがあるとそこにめがけて一直線。スーパーや広いところに行くとしょっちゅう姿を見失いました……。当時、常に時間に追われていた私からしたら、買い物に行く時間すら惜しい状況なのに、さらに「コチ丸を探す」ことに時間を取られ日々のイライラが増すばかりという悪循環でした。
そんなことが続いたので、当時からコチ丸の服選びには蛍光色や派手な柄物など、遠くからでも姿を確認しやすい目立つものを選ぶようにしていました(笑)。
本人にとっても、視覚的に目立つ色の持ち物なら自分の物と認識しやすいかなとも思っていたので、靴や服はほとんど派手なものばかりでした。単純なことですが、意外に効果はてきめんでした!
とにかくチカチカ目立つコチ丸を追いかけて日々翻弄されていました……(笑)。
当時から変わらないもの、変わったもの
高2になった現在は、好きなもののためには一人でバスや電車に乗って勝手に出掛けてしまうコチ丸。寮生活をしている北海道からバスを乗り継ぎ、飛行機に乗って一人で地元の愛知まで帰ってくるくらいなので迷子にもなりませんが(笑)。
中3になりたての頃、好きなゲームの聖地巡礼のため、愛知から広島の呉まで、夜行バスや新幹線を駆使して、二泊三日の一人旅をしたのが大きな自信になったようです。
駅に見送る時に、振り返りもせず改札を抜ける後ろ姿を見ながら、1歳の頃スタスタと勝手に歩いてどこかへいってしまった姿となんとなく重なりました。未だに母は案ずるばかりで(笑)、一生心配しているものなのかもな、と思っています。
さらにコチ丸が自分で服や靴を選ぶようになってから気づきましたが、意外にモノトーンや地味な色が好きなようです(笑)。反していまだに派手な服や靴をコチ丸に選びがちな私ですが、これも成長と子どもの意見を取り入れて派手な服や靴は封印しつつあります(笑)。
執筆/あき
(監修:新美先生より)
1歳頃の、まだ診断にたどり着く前の育児不安について聞かせてくださりありがとうございます。あきさんは、当時、育児関連業界のお仕事をされていたのですね。子どもの発達について学ばれたとのことで、得るものがたくさんあった半面、もしかしたら一般的な多数派の発達を知ることで、個性の強いわが子の行動とは異なるところが気になってしまうこともあったかもしれないですね。
また「愛着」という観点は、子どもの基本的信頼感を形成するうえで大切な視点であるものの、発達の個性によっては、愛着、基本的信頼感の形成の道筋が異なることもあります。子どもを叱ったことがない親はいないので、「愛着障害」という観点からみると、親としての関わり方が悪かったのではないか?という過度の後悔にさいなまれることは、あるあるなのです。でも、精神医学的に「愛着障害」という診断になることは非常にまれな事例に限られており、中途半端に“愛着障害”というワードを使われることで、保護者に罪悪感を抱かせてしまうのはあまりよくないのではないかと、個人的には感じています。
コチ丸くんが歩けるようになってからの迷子対策に、「蛍光色や派手な柄物」の衣服を身につけるというのは、応用しやすいライフハックですね!勉強になります。そして、歩けるようになった頃からどこまでも一人で行ってしまっていたコチ丸くんは、中3で二泊三日、愛知から広島までの一人旅ってめちゃくちゃ行動力ありますね!!自立心旺盛という形で三つ子の魂百までの行動力を発揮されている、素敵なその後まで聞かせて下さりありがとうございました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。