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日本画家として初めてヨーロッパに渡った“知られざる名匠”のすべて 『渡辺省亭─欧米を魅了した花鳥画─』鑑賞レビュー 

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『渡辺省亭─欧米を魅了した花鳥画─』

『渡辺省亭─欧米を魅了した花鳥画─』が、3月27日に東京・上野公園の東京藝術大学大学美術館で開幕した。5月23日まで開催される本展は、近年再評価が高まっている明治・大正の日本画家・渡辺省亭の全画業を紹介する初めての大規模回顧展だ。日本画家として初めてパリに渡り、国際的に高い評価を得るも、日本画壇では孤高を貫いたことから“知られざる天才”として長く陽があたることのなかった渡辺省亭。その全貌に迫る注目展の感想を会場の様子とともにお伝えしたい。

日本画家として初めてパリに渡り、印象派画家らを圧倒

本展は個人コレクションの作品を中心に、海外からの里帰り作品を含め100点を超える作品で構成され、渡辺省亭という日本画家のすべての画業に迫っている。入場に際して事前予約は不要。なお、休館日の4月26日を境に大幅な展示替えが行われる予定となっている。

順路は入場口となる1階からまず地下2階に移動し、第1会場と第2会場を鑑賞。その後、3階の第3会場を見る流れになっている。地下2階まではこの建物の特徴である独特な螺旋階段を下る。

第1会場

第1会場には、本展の導入として、渡辺省亭の生涯を紹介する映像が巨大スクリーンに投影されている。

ここで簡単に作家の略歴を紹介しておこう。渡辺省亭(わたなべせいてい)は、幕末の嘉永4年12月(1852年1月)、江戸の神田佐久間町の札差の家に生まれた。そして16歳を迎えた慶応2年(1866)に『前賢故実』の作者としても有名な絵師・菊池容斎の内弟子となり、写生の大切さを学ぶ。その後、時代が江戸から明治に移り変わる中、容斎の画塾を離れた省亭は輸出工芸品の図案制作の職に就き、ここで琳派などの伝統的な日本美術を学んだ。そんな中、明治10年(1877)の第一回内国勧業博覧会に出品した《群鳩浴水盤ノ図》が翌年のパリ万国博覧会への出品作に選ばれる。万博に合わせて省亭もパリに渡ることになる。

第1会場

省亭がパリに渡ったのは印象派絵画が全盛期を迎えた頃。一年近くをパリで遊学した彼は、その間に印象派の画家とも交流し、エドガー・ドガらと親睦を深めた。こうした西洋からの影響は元来持っていた日本美術の技術や突出したデッサン力と結合し、「省亭風」と呼ばれる独自の画風を築くきっかけになった。その後も西洋の万博に作品が出品され、明治25年(1892)にはロンドンのジャパニーズ・ギャラリーで個展を開催するなど世界的に評価を受けるも、国内では日本美術院への参加を辞退するなど特定の美術団体や展覧会とは距離を置く。そして市井の画家というスタンスを貫いたまま住まいのある浅草周辺からほぼ出ることなく、大正7年(1918)に68年の生涯を閉じた。そうした孤高というべき経歴が“知られざる名匠”という現在の再評価につながっている。

数々の来賓をもてなした迎賓館赤坂離宮を彩る、天才と天才の共作

第2会場は省亭の画業をテーマ別に振り返る構成になっており、初めにさっそく本展のハイライトのひとつとなる展示が待っている。《迎賓館赤坂離宮 七宝額原画》は、国の公式晩餐会などが開かれる国宝・迎賓館赤坂離宮に飾られている七宝焼の原画だ。

《迎賓館赤坂離宮 七宝額原画》前期展示風景 東京国立博物館蔵

七宝焼を手がけたのは、こちらもその道で天才と謳われた濤川惣助。パリから帰国後、省亭は濤川の数々の作品で原画を担い、彼らの共作は後のパリ万博にも出品された。その二人の傑作として名高いのが、迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の壁に今も使われている七宝額だ。

《迎賓館赤坂離宮 七宝額原画 真鴨に葦》東京国立博物館蔵 (展示期間:3/27-4/25)

「花鳥の間」を模して壁面調に展示された原画は、省亭の類まれな描写力が余すことなく反映されている。そして、微妙な色の濃淡やグラデーションなど妥協を許さない省亭の原画に対して、濤川は焼成の前に金属線を抜いて独特のぼかしを作る「無線七宝」などの技術を編み出してこれに応えた。小窓程度の空間の中に緻密に描かれた花鳥図からは、この作品に懸けた省亭の並ならぬ意欲を感じるだろう。なお、本作は会期の前後半で5点ずつ展示され、会期中に計10点を見ることができる。

《四季江戸名所》 個人蔵

一方で、その右手には本展が初公開となる《四季江戸名所》の4幅の掛け軸が展示されている。花鳥画を得意とした省亭だが、江戸風情が残る場所や人の風景を描いた作品も残している。この《四季江戸名所》では、春は上野の桜、夏は不忍池、秋は瀧野川、冬は隅田堤と、自らの生活圏にあった季節の光景を粋な風情とともに精緻な筆致で描いている。

《花鳥魚鰕画冊》展示風景 メトロポリタン美術館(アメリカ)蔵

「欧米を魅了した花鳥画」のコーナーには、アメリカ・メトロポリタン美術館所蔵の《花鳥魚鰕画冊》をはじめ、海外に渡った作品が来日している。そのうちのひとつに《鳥図(枝にとまる鳥)》がある。アメリカのクラーク美術館が所存するこの作品の左下には、「為 ドガース君 省亭席画」と書かれている。

《鳥図(枝にとまる鳥)》 明治11年(1878) クラーク美術館(アメリカ)蔵

この「ドガース君」とはエドガー・ドガのこと。パリに渡った時代、印象派画家が集まる社交場を訪れて即興で絵を描くこともあったという省亭は、この作品をドガの前で描き、直接贈ったという。ドガはこれを生涯手放すことはなかったといい、西洋にジャポニスムが席巻した時代に省亭が決して小さくない影響を与えた証ともいえる。

第2会場

そのほかにも、師匠である菊池容斎から継いだ技術を自らのものに昇華させた美人画や歴史人物画、書籍の挿絵や口絵、書の腕が伺える《名号》など、時代に求められた男・渡辺省亭の幅広い仕事を見ることができる。

稀有な経歴が生んだ「省亭風」花鳥画の真髄を見る

第3会場は、伝統的な日本の美意識に卓越した描写力と西洋の影響が加わった「省亭風」の花鳥画を存分に味わえる空間となっている。

《牡丹に蝶の図》 明治26年(1893) 個人蔵

展示室に入って正面、室内のほぼ中心には省亭の傑作中の傑作とされる《牡丹に蝶の図》がある。画面の中には大輪の花を咲かせる紅白の牡丹。白い牡丹には蜜を吸うクロアゲハの姿がある。写実的な描写と巧みな色の濃淡は生きているような存在感を感じさせる。一方で、背後には花鳥画では珍しい散りゆく花弁が描かれ、そこには現実の儚さを描いたドガのような西洋絵画の表現にも通じるところがある。

《瀑布、暁鴉、晩鴉》 明治27年(1894) グレース・ツムギ・ファインアート(イギリス)蔵 ※3月27日から4月25日のみ展示

そのほか、大胆な構図で朝昼晩の時の移ろいを表した《瀑布、暁鴉、晩鴉》(前期のみの展示)や眼光鋭いミミズクを描いた《月夜木菟》などの絵画のほか、濤川惣助との共作も複数鑑賞できる。この展示室は順路のない配置になっているので、自由に巡りながら自分のペースで風流な花鳥画の世界に浸ってみてはいかがだろう。

展覧会オリジナルクッズも充実

ここ数年で新たな研究が進み、再注目を集めることになった渡辺省亭。その卓越した描写力や色彩の微妙な変化はぜひ現地で実物を見ながら確かめて欲しい。『渡辺省亭─欧米を魅了した花鳥画─』展は、3月27日から5月23日まで東京・上野公園の東京藝術大学大学美術館で開催中。
文・撮影=Sho Suzuki

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