【神話の人造人間】古代に登場した驚異のロボットたち ~ゴーレム、ガラテア、72kmの巨人
「人造人間」、すなわち人型ロボットは、SF作品ではおなじみの存在である。
現実の技術で、自ら考え行動する完璧な人造人間を作り出すことは、おそらく未来永劫不可能だろう。
だが、太古の神話や伝承には、現代人も驚くような精巧さと自我を備えた人造人間が登場することがある。
今回は、そうした神話に描かれた驚異のメカニズムについて解説していく。
1. ゴーレム
ゴーレム(golem)といえば、ゲーム等ではお馴染みの動く巨像のモンスターであるが、元々はユダヤ教の伝説に登場する人造人間である。
ゴーレムの作り方は、まずラビ(ユダヤ教の聖職者)が祈祷を行った後、泥をこねて人形を作る。
その額に「emeth」と記された札を張り付けることで、泥人形にみるみる生命力が生じ、ゴーレムが完成するとされる。
ゴーレムは製作者の命令を忠実に遂行する下僕であるが、扱いが非常に難しく、その運用には細心の注意を払う必要があるという。
エリヤ・バールシェム(推定1520~1583年)というラビが使役していたゴーレムは、時が経つにつれ、身長がどんどん伸びていったそうだ。
このままでは宇宙を飲み込むほど巨大化してしまうのではないかと危惧したエリヤは、ゴーレムの抹殺を決意する。
方法は、札に書かれた「emeth」の頭文字の「e」を消し「meth」にすることである。
「meth」は死を意味する言葉であり、こうすることでゴーレムの生命力を断ち、破壊することができるとされている。
しかし死への恐れからか、ゴーレムはエリヤに反逆し、その顔に引っかき傷をつけたという。
また、別の伝承によるとゴーレムは滞りなく破壊されたが、その瓦礫に押しつぶされエリヤも死んでしまったと伝えられている。
イェフダ・レーヴ・ベン・ベザレル(1525~1609年)というラビが使役していたゴーレムは、姿を自在に消したり、死者の魂を呼び出す神通力を持っていたと伝えられている。
ユダヤ・キリスト教の伝統には「安息日」という労働を禁じる日が存在する。安息日にはいかなる理由があっても労働は許されず、違反すれば厳しい罰則を受ける場合もある。
ゴーレムも例外ではなく、安息日を迎える前夜には額の札を外して停止させるのが慣例であった。
ところがある時、レーヴはその札を外し忘れていたことに、安息日の直前になって気づいた。
もしゴーレムを働かせたまま安息日を迎えたとなれば、どのような罰を受けるか分かったものではない。加えて、ゴーレムが怒り狂って反逆する危険もあった。
慌てたレーヴは急ぎ札の「e」を消し去り、ゴーレムを塵と化したと伝えられている。
2. ガラテア
ガラテア(Galatea)はギリシャ神話に登場する、人間に生まれ変わった彫像である。
詩人オウィディウス(紀元前43~紀元後17or18年)が著した『変身物語』にて、その存在が言及されている。
かつて地中海のキプロス島は、「ピグマリオン」という王により治められていたという。
彼は、人間の女性を軽蔑していたと伝えられている。
当時キプロス島では売春が横行しており、金のために平気で体を売る女の尻軽さに、ピグマリオンは心底うんざりしていたそうだ。
憂さ晴らしのため、象牙を素材に彫刻を始めたピグマリオンだったが、思いがけず見事な女性像を彫ることに成功した。
この像があまりにも美しかったためピグマリオンは恋をし、寝食を共にするようになった。
像は無機物でしかないため、当然何も反応はしてくれない。だがそれでも、ピグマリオンはかまわず愛を注ぎ続けた。
この異常な光景を見かねた愛の女神「アフロディーテ」は、像に生命を与えることにしたという。
ピグマリオンは大喜びで彼女を妻に迎え入れ、二人は末永く幸せに暮らしたとされる。
3. モックルカールヴィ
モックルカールヴィ(Mökkurkalfe)は、ゲルマン民族の伝承、いわゆる北欧神話に登場する人造人間である。
アイスランドの詩人、スノッリ・ストゥルルソン(1178~1241年)が記した『散文のエッダ』にて、その存在が言及されている。
(意訳・要約)
ある時、雷神「トール」と巨人「フルングニル」が、決闘をすることになったそうだ。
※参考記事
『酒に敗れた神話の怪物たち』酒呑童子、ポリュペモス、フルングニルの伝承
https://kusanomido.com/study/fushigi/story/102696/#3
フルングニルは巨人たちの中でも屈指の実力者であり、滅法強かった。
だがトールは、北欧神話最強の存在と謳われる存在であり、いかにフルングニルといえど勝ち目は薄い。
そこで仲間の巨人たちは、粘土をこねて巨大な人形を作り、さらに雌馬の心臓を移植することで生命を与え、人造人間「モックルカールヴィ」を生み出したのである。
モックルカールヴィは身長が約72kmほどもある、とてつもない巨体であった。
ところが性格は極めて臆病であり、決戦場に現れたトールを見た途端、恐怖で心臓は震え、挙句の果てに失禁するという体たらくであった。
決戦はトールが勝利し、フルングニルは討ち取られた。
モックルカールヴィはというと、トールの従者である「シャールヴィ」により、いつの間にか殺されてしまっていたという。
こうして見ていくと、神話に登場する人造人間たちは、現代のSFに通じる発想や、人間の創造願望を色濃く反映していることがわかる。
人類は古代から、命を作り出すという「神の領域」に憧れ続けてきたのかもしれない。
参考 :『Israel der Gotteskampfer der Baalschem von Chełm und sein Golem』『散文のエッダ』他
文 / 草の実堂編集部