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「感じたことはすべて正しい」? 子どものためのマインドフルネスとは?【内田恭子さんとはじめる「マインドフルネス」】

NHK出版デジタルマガジン

「感じたことはすべて正しい」? 子どものためのマインドフルネスとは?【内田恭子さんとはじめる「マインドフルネス」】

内田恭子さんの「ここからはじめるマインドフルネス」

NHK『すてきにハンドメイド』テキストでは、フリーアナウンサーとして活躍を続ける内田恭子さんによる心ゆるむ「マインドフルネス」エッセイを好評連載中。

コロナ禍でマインドフルネスに出会い、その魅力を伝えたいと、マインドフルネストレーナーとしての活動をスタート。暮らしにマインドフルネスを取り入れて、いつも頑張る頭や心、そして体を少し休めたい。そんな方たちに、連載を通じて役立つ気軽なスキルをお届けします。

連載第4回をWEB特別版として公開します。

#4 すべては正しい

「私たちは呼吸の方法を教わったことがない」。ニューヨーク市のアダムズ市長は、とある会合でそう語ったそうです。「ただ空気が鼻を通って体を動かしているだけだと思っている。でも、呼吸には科学があるのです」。

 アメリカでは、幼い子どもやティーンの間で不安やうつ、自傷の問題が増加しています。そんな背景から、アダムズ市長は市の幼稚園児から高校生に、学校の授業で毎日2~5分間のマインドフルネスの呼吸エクササイズを行うことを義務づけ、実際に効果があることが認められているそうです。このような例はアメリカだけの話ではなく、近年、世界中の教育機関が子どもたちの*ウエルネスに焦点を当てた動きを見せています。

 マインドフルネスの世界でももちろん、子どもに向けたプログラムがあります。私自身も、子どものためのマインドフルネスの第一人者であるエリーン・スネルさんのメソッドを学び、講師として現在3つの幼稚園の年長クラスで通年のカリキュラムを行っています。「え? 5歳児が瞑想(めいそう)なんてできるの?」なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。けれども、子どもをあなどってはなりませぬ。先入観や正解にとらわれない子どもたちのほうが、大人よりも素直に自分と向き合うことができるのを、私自身も実感しています。

 子どものためのマインドフルネスでは、瞑想も子どもたちがわかりやすいように物語仕立てになっています。カエルは呼吸をするときに、のど元が風船のようにぷくりと膨らんだり、縮んだりしますよね。子どもたちにもそんなカエルくんになってもらい、彼らのおなかが呼吸によって膨らんだり、へこんだりするのを感じてもらうのです。年長さんの最初のレッスンでは、自分たちのやっていることがおかしいらしく、薄目をあけて隣の友達とクスクス笑いをしている子もいれば、モゾモゾと動いている子もいます。そうかと思えばおうちの方が瞑想をやっている子は、ひざの上に手を置いて、親指と人さし指で輪を作る「ムドラ」の形のまねをしていてと、反応はさまざまです。

 それが、私のガイドで毎日同じ時間に2~3分間の瞑想を続け、1か月もすると、みんな思い思いに目をつむって静かな時間を過ごすようになるのです。子どもたちが静かに目をつむって座っているお顔は、本当にかわいらしくてたまりません。

 このとき、大切なことは「こうしなければならない」というルールが一切ないということ。これは担任の先生方にもご協力いただいているのですが、レッスン時には「正解も間違いもありません。思っていること、感じていることは、すべて正しいです」ということを子どもたちに伝えています。 なので、きちんと座っている必要もなければ、立ってしまうのもそれはそれであり。今、自分の体がどんなことをしたいのか、ということに目を向けていきます。

 私たち大人は、ついつい子どもたちに「怒ってはダメ」とか「泣かないからえらいね」なんて言ってしまいがちです。私たち自身も子どものときに先生や親からそう言われた経験があると思います。けれども喜怒哀楽という言葉がある通り、怒りも哀しみも大切な感情の一つです。それをダメなものと捉えてしまうから、ネガティブな感情であるというイメージがついてしまう。すると、そういった感情が出てきたときに正面から向き合うことなく、抑え込んだり、スルーしたりということが起きます。でも、それでは根本的な解決になりませんね。逆にそのせいで、キレたり、何かに依存したりと、誤った解消法に陥ってしまうケースもあります。子どもたちとは怒りや恐れ、悲しさとはどんなものかについて話し合い、それはみんな体験するものとして学んでいきます。そしてそういった感情が出てきたときにはどうするかについても学びます。

 マインドフルネスを通じて、体の声、思考の声、感情の声、ありのままの自分の声に気づくことが、自分への自信や優しさ、そして最終的には他人への優しさへと繋がっていきます。「ふだんはあまりしゃべらない子がマインドフルネスのレッスンではよく話します」「いつも騒がしいのにレッスンの後は穏やかです」なんて先生方や保護者の方のお声もよくいただきます。

 義務や責任に縛られず、ありのままの自分でいられるのは、子どものうちにしかできないこと。でも、それさえも今の忙しい時代、難しくなってきているような気がします。けれどもそれができているか、できていないかで、大人になったときの“自分らしさ”に大きく関わってくるような気がしてならないのです。

 大切な教育としてのマインドフルネスが、もっと日本でも広まっていくことを願って。そして、大人の私たちも時には子どものように、自分が今どう感じているのか、ご自身の本当の声に耳を傾ける時間を持ってみてもいいかもしれませんね。

(用語解説)
ウェルネス
Wellness。アメリカのハルバート・ダン博士が提唱したことから始まった「健康」を広く捉えた概念。身体的・精神的・社会的に良好な状態を目指す、生活態度全般を指す。

◆トップ写真・プロフィール写真提供/内田恭子
◆バナーイラスト/山本祐布子

プロフィール

内田恭子(うちだ・きょうこ)
フリーアナウンサー、マインドフルネストレーナー。慶應義塾大学を卒業後、フジテレビアナウンス室に入社。退職後、フリーアナウンサーとして活躍するかたわら、マインドフルネスに出会う。ヨーロッパ最古のマインドフルネスセンターであり国際基準となっているIMA(Institute for Mindfulness-Based Approaches)認定MBSR・MBCT-L(Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Life)講師。日本マインドフルネス学会正会員。

内田さんが主宰する「kikimindfulness」
https://www.kikimindfulness.com/

Voicyチャンネル
https://voicy.jp/channel/304815

Instagramアカウント
https://www.instagram.com/kyoko.uchida.official/

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