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神社併設の老人ホーム「アズハイム大田中央」。地域との積極的な関わりで、身体ケアだけではない介護の形を

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共有庭では餅つきを始め、季節のイベントが実施される(写真提供:アズパートナーズ)

神社に併設する介護付き有料ホームの誕生

黒鶴稲荷神社の趣を残したアズハイム大田中央(写真提供:アズパートナーズ)

2023(令和5)年7月、大田区に開設された「アズハイム大田中央」は介護大手の株式会社アズパートナーズが運営する介護付き有料ホーム(以下ホームとする)で、原則65歳以上の要支援および要介護1〜5の認定を受けた人のみが入居できる。ホームは3階建てで、居室は全71室。各部屋は完全個室で11畳ほどのスペースがあり、室内にはトイレ、洗面スペース、クローゼットと介護ベッド、エアコンなどが備え付けられている。家具類は持ち込みが必要だ。1階はある程度自立して生活ができる人のためのフロアとし、2階以上はより看護を必要とする人たちが暮らすフロアとゾーンをわけている。

その他共有スペースとして、機能訓練室やダイニングスペースがある。浴室は個浴・機械浴の2種類。自立して入浴可能な人は個浴室スペースを順番で利用し、介助を必要とする人は機械浴を利用する。

明るく広々とした個室

特徴的なのは、地域や家族とのつながりを感じられるホームという点だ。広々としたエントランスホールには、ラウンジと、ゆったりとした相談室、ファミリールームが備えられている。開設する前から地域では「神社の敷地の中にホームができる」と関心を持たれており、なかには入居を心待ちにしていた人もいた。ゆえに、ホーム開設後しばらくは毎日面会に訪れる人で溢れていたという。こうしたいつでも気軽に家族が面会するゆとりがあり、また地域のイベントや催し物のために活用できるスペースがあるホームは多くはない。

木の風合いを感じるラウンジとファミリールーム

地域との共存を大切に。これまでの思い出を随所に残す

カウンターには神社の御神木を用いている

もとは黒鶴稲荷神社があった場所に共存する形でオープンした「アズハイム大田中央」。かつて神社は「等閑森」の中に存在していた。

周辺地域は勾配が大きく、境内地そのものも30度以上の傾斜角度があった。それゆえ土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に指定され住民が不安に思っていた過去もある。施設を建設することになり、傾斜のある土壌を整えたことで問題が解消し、レッドゾーンも解除に至った。おかげで現在は住民も安心して過ごせている。

その一方でホームを建設するにあたり、参道、庭のスペースは残されているものの、「森」の木々の多くは伐採された。歴史のある神社の森の風景に想いを馳せている人たちは惜しく感じていたようだ。こうした住民の声を汲むかのように、神社との共存をテーマに掲げられた施設内には、歴史ある森の名残が感じられるようにさまざまな工夫がされている。

たとえばホームのエントランスを入るとすぐある受付には大きな木のカウンターが存在する。またレストスペースには美しい木の年輪や風合いが感じられるオブジェの姿も。これは、神社にあったご神木を用いてデザインしたものだ。エントランスホールから望むことができる小さな庭園には、神社の擁壁で使用していた大谷石の姿も見られる。

居室のプレート置きにもさりげなく御神木がある

相談室に一歩足を踏み入れると、そこには豊かな緑に囲まれていた頃の「等閑森」の写真たちが掲げられている。ここに訪れた人が、神社の歴史を感じられるようにその様子を残しているのだ。

こうした神社のゆかりを感じられるホームのため、「神社がある施設だから」という理由で入居を希望する人もいる。ホーム長の増田幸江さんは「入居者は地元の方が多いゆえに、この土地柄をわかっている。特に入居する居室を選ぶ際には『神社に面した部屋がいい』という希望を述べる方も見られます。入居してみたら町内会で一緒に活動していた人がいた、ということもあるんです」と話す。

地域・ホームともにコミュニケーションを促進するための工夫

共有庭では餅つきを始め、季節のイベントが実施される(写真提供:アズパートナーズ)

この施設ではコミュニケーションを重視している。改めて介護の意味について考えると、介護は、日常生活を営むうえで困難な状況にある人々を、身体的、精神的、社会的に支援する行為である。

こう記すと介護に関わるスタッフは食事介助や生活介助など身体のサポートするための肉体労働のイメージが先行しがちだ。たしかにそれも業務のひとつなのだが、本来の介護とは人との、社会との豊かなつながりを生み出すための精神的、社会的なサポート。それこそが生きるための希望、行動促進のキーポイントであり、もっと要介護者に手を差し伸べたい要素である。

その一環として地域とのコミュニケーションを積極的に取り組んでいる。神社と共存するホームならではの取り組みだ。

ホーム長の増田幸江さん
相談室では心穏やかに話すことができるようゆとりのあるスペースを確保

ホームでは、神社で開催する餅つきや花見など、季節のイベントへ参加する。
夏休みに行われた朝のラジオ体操では午前7時台から近隣の小学生たちが朝からたくさん集まり、道路に溢れるほどだった。その様子に「入居者の皆さんもとても驚いていましたね。私たちスタッフも地域にこんなに子どもがいたんだ、という気づきになりました」と増田さんは話す。

年初に開かれた餅つきイベントでは、ホームの入居者はもちろん、近隣で暮らす大人や子どもが次々訪れ、社殿の庭に笑い声があふれる一日となった。
神社での主催はもちろん、自主的にイベントを開催することもある。本格的に活動を始めたのは2024(令和6)年に入ってからだが、これからは夏祭り、花火大会など、さらに地域の人たちとの交流をする予定だ。「年に5〜6回は実施していきたい」と、増田さんは語る。

さらにホームとして商店会にも加入し、関われることを模索して行く予定でもある。地域の行事にも参加していきたいと考えている入居者は多い。「『アズハイム大田中央』があってよかった、年を重ねてもホームに入っても地元とのつながりを持ち続けたい」と思う入居者のサポートをしていきたいと増田さんは話す。

また24時間365日スタッフが常駐するなかで、スタッフ自身も関わりの時間を増やすように工夫している。そのためにも介護DXを促進しており、システムを導入している。そのおかげで業務は効率化され、手が空いたスタッフは肉体労働としての介護だけではなく、本来目指したい「コミュニケーション」という点にも積極的に関われるようになっている。

個別リハビリや自主トレーニングができる機能訓練室

既成概念を超えた共存こそが、開いた地域づくりへとつながる

入居相談セクションの川村純章さん

アズパートナーズ 事業推進部 入居相談セクションの川村純章さんは、入居相談をうけるなかで一番印象に残ることをこう語る。

「宮司の働きかけによって地域の人たちは3、4年前からここに老人ホームができることを知っていたのです。この地域に住まう人を思って、宮司が関係をつくりあげてくださったからのことでしょう。それゆえオープン前から『自分たちにとって縁ゆかりのある神社のふもとにあるこの施設に入りたい』と問合せが多くありました。こうしたケースはあまりありません。単に施設をつくるのではなく、共に手を取り合い、地域の中に溶け込む施設づくりをこころがけたからこそ近い距離感で暮らせる。地域で丸ごとつながっていることが感じられるのが『アズハイム大田中央』の魅力なのだろうと感じました」

本社のスタッフ、施設のスタッフの皆さんと

神宿る神聖な土地の一部に新たな開発計画をすることは、これまでの既成概念から考えれば驚きのことだったのかもしれない。実際に神社の敷地内で施設が共存するために乗り越えなければならない規制や外部関係者への説明は容易ではなかったそうだ。

だが、開設後の今、入居者、入居者の家族、地域の住民がゆるやかに関わり合い、気軽に施設に出入りをする様子を見ていると共存することに意義があるように感じられる。

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