TVアニメ『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』佐々木役・佐藤拓也さん×山田/田山役・星希成奏さんインタビュー|「吸う・吐く」に込められたものすごい情報量。禁煙パイポを手に、喫煙シーンにチャレンジ
SNS発の大人気コミックを原作とし、TVアニメ化でも大きな注目を集めている『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』。くたびれ中年サラリーマン・佐々木と、スーパーの裏で彼に声をかけるミステリアスな女性・田山が、喫煙所という限られた空間で織りなす大人のドラマが描かれます。
今回、アニメイトタイムズでは佐々木役・佐藤拓也さんと、山田/田山役・星希成奏さんにインタビューを実施! 作品についてはもちろん、非喫煙者から見た喫煙所の姿や珍しいアプローチとなった演技など、様々な話を伺いました。
【写真】『ヤニすう』佐藤拓也×星希成奏インタビュー|「吸う・吐く」の演技に込めた意味
今までの武器が何も使えない「おじさん役」
──作品に初めて触れた際の感想をお聞かせください。
佐藤拓也さん(以下、佐藤):アニメーションの出演にあたって、僕らの世代は10代や20代のキャラクターを演じさせていただくことが多いんですけど、今回は「40代半ば」ということで、「自分もそんな時期になったのか……」と勝手に思いました。
「おじさん」を演じるのは意外にも初めてのことだったので、「これはどうしようか」と考えたものです。漠然としたおじさんのイメージはあるものの、我々のような役者は異業種の方と話していても、感覚が若いんですよね。
──普段は10代や20代のキャラクターを演じることが多いからですよね。
佐藤:ただ、本作は脚本がすごく丁寧で、原作の会話劇の世界観が再現されていたので、「これは僕ひとりでどうにかするものではない」と。共演させていただく方々との空気感の中で作り上げていくほうが早いなと思いました。そこは原作を読んで、オーディションを経て感じた心境です。
──役者人生の中でも、珍しいアプローチになったと?
佐藤:そうですね。今まで得意だった武器が何も使えないという(笑)。でも、そういう役にチャレンジさせていただけるのは嬉しいことです。
星希成奏さん(以下、星希):私は、やはり山田と田山の演じ分けは気合いが入りましたし、色々と考えて演じようと思ったところです。そもそも私は、同じ人が違う役を演じ分けることがあると知って声優に憧れたんですよね。実写の女優さんや俳優さんとは異なり、年齢や容姿の幅が広いところも声優の魅力だと感じています。
そんな中、今回、その演じ分けに挑戦させていただくだけでなく、初めてのヒロインということで、この作品に夢を叶えてもらえたなと思っています。
──初でありながら、一人二役という特殊なヒロインになりましたね。
星希:そうですね(笑)。声優自体は10年ほどやらせていただいているんですけど、声質は正統派ヒロインとは少し違うんですよね。ただ、だからこそ田山みたいな珍しいヒロインと縁があったのかなと思っています。今回、名だたる方々とご一緒させていただいたこともあって、自分自身にとって大きな学びになりました。
──本作は喫煙所の空気感や距離感がリアルに描かれていますが、タバコを吸わないおふたりからご覧になっていかがでしたか?
佐藤:外側から見ていると、大人が楽しそうに喋っている場だなと。シラフなのにどうしてあんなにも楽しそうなんだろう、と若い頃は憧れにも似た感情を抱いていました。
実際、佐々木さんの体を借りて喫煙所でのシーンを演じてみると、すごく落ち着くんですよね。彼はなかなか厳しめの企業に勤めているんですけど(笑)、喫煙所だけは同僚と好き勝手言える数少ない場です。だからみんなはタバコを吸うのかもしれませんね。会社の喫煙所に関してはスーパーの裏の喫煙所と比べて、より無防備でいられる場所なんだろうなと感じました。
星希:喫煙所はみんなが一息つくために訪れているからこそ、「この人も外で頑張っているんだろうな」と仲間意識が芽生えているんだろうなと思いました。無意識下で仲間や同族みたいな意識があるからこそ、お互いにほっと一息つけるのかもしれませんね。
田山のいじりには「甘え」が入っている?
──おふたりから見た、それぞれのキャラクターの印象について教えてください。まずは佐々木から伺っていいですか?
佐藤:佐々木さんの人生はそこまでつまびらかにされていないんですが、根はストイックな人だと思います。一生懸命というよりストイックといいますか、自分への厳しさが人一倍あるんですよね。
今は一度ポッキリ折れたままどうにか生きているんですけど、折れたからこそ見えてきた世界があるし、折れた時のしんどさを知っているからこそ人に優しくなれた。そういう人だと思います。
──中間管理職として苦労している姿は、視聴者も共感できそうですよね。
佐藤:そうですね。「同僚に鈴木がいてよかったな」って思います(笑)。
──星希さんから見た佐々木はいかがですか?
星希:自分が傷つけられた分、相手を傷つけてもいいという選択をしなかった佐々木さんのことが私は大好きです。「こんな人が近くにいたらいいのにな」と思います。
──田山のように、佐々木から癒やしを感じたり、もしくはからかいたいなと思ったりしますか?
星希:からかいたいとは……(笑)。でも、佐々木さんはすごく素敵なリアクションを取ってくれるんですよね。それは人の良さと優しさが噛み合っているからなのかも。言葉に嘘がないというか、自分を守るための嘘はつかない人だと思うので、誰かを頼りたいのに頼れない時、佐々木さんみたいな人がいてくれたらいいですね。
──では次に、佐々木がスーパーの裏で出会うミステリアスな女性・田山についての印象はいかがですか?
星希:田山は不器用な子だなと思っています。不器用だからこそ、「山田」にならないと器用に振る舞えないんですよね。自分とは違うベクトルのスイッチが入った状態じゃないと弱みを見せられないし、根底には「強くなきゃいけない」という思いがある気がしています。
好きな服だと言ってパンクな服を着ているのも、タバコを吸っているのも、ひとりで立っていようとする「心の弱さと強さ」の両方を含んだ何かを持っているからなんじゃないかなって、すごく感じていて。だからこそ、佐々木さんとの会話でちょっと甘えたり、いじっている中に甘えが含まれていたりするんだと思います。佐々木さんとは絶妙な年齢感なので、どこかお父さんというか……ちょっとお兄ちゃんですかね?(笑)
佐藤:僕に気を使わなくていいんだよ?
星希:(笑)。やはり田山にとっての佐々木さんは、そういう存在だからこその関係性なのかなと思います。
佐藤:彼女は強い子だなって思うんですけど、それは「強くありたい」「強くなきゃ」と、自分で自分のお尻を叩いてきたからなんだろうなと。気合いを入れるためにピアスを開ける話があるんですけど、それってものすごく勇気のいることですし、個人的に儀式や願掛け、ルーティンを持てる人はすごく強いと思います。田山という人格を作り上げたことも、山田という人格を作り上げたことも、人一倍頑張り屋だからこそですから。
そう考えると、がむしゃらに働いていた頃の佐々木と重なる部分もあるのかな、と最近になって気付きました。改めて、そんなふたりが喫煙所で出会ったのは、すごく不思議な縁ですよね。
──そんな田山のもうひとつの姿である山田についても伺えますか?
星希:山田は仕事ができますし、なによりすごく可愛いですよね。でもそれは、田山が世の中で頑張るために作った人格だからこそ、良い面が目立っているところがあるのかもしれません。演じるにあたっては、こんな女の人がいたらみんな好きになるだろうなと思ったので、語尾に「ハート」が付くようなイメージでいました。
佐藤:山田は「アイドル」なんでしょうね。初めて佐々木として2番レジに行くシーンを演じた時は、「これはアイドルの握手会やお渡し会だな」と思いました(笑)。
推しの前にいる時って、よそ行きの人格を作りたくなると思うんですよね。せめて迷惑はかけたくないなと思って、声のトーンが自然と上がっちゃったりして。「ポイントカード、あります!」っていうのも、よく思われたいというより、とにかく迷惑をかけないでいようというモードにさせてくれる。そういう存在だからこそアイドルなんだろうなって。
この作品における「吸う・吐く」の意味
──おふたりともタバコを吸われないとのことですが、タバコを吸う演技はどうアプローチされたのでしょうか?
佐藤:ドラマCDなどでタバコを吸う役を演じることはあるので、音の表現としてのイメージは自分の中にありました。ただ、この作品における「吸う・吐くシーン」はすごく意味を持っているんですよね。タバコを口に運んで煙を吐くという一連の動作の中に、言葉にできない情報量がものすごく詰まっている。「こういうつもりで煙を吐いているんだろう」と感情を表現できるツールでもあるので、すごく気を使いました。
実際、喫煙者同士の会話では、煙を吐く間があるから「場が持つ」そうなんですよね。何も言わなくても「そうだよね……(煙を吐く)でさ」と間を持たせられる、タバコというツールの万能さを実感しました。
星希:私はめちゃくちゃリテイクをいただきました……。第7話ぐらいまでずっとリテイクだったので、本当にタバコを吸ってやろうかなと思ったくらいです(笑)。それくらい、この作品はタバコを吸う息ひとつが大事なんですよね。
──どう乗り越えたのですか?
星希:実はスタッフさんから誕生日プレゼントに「禁煙パイポ」をいただいたんです。それで吸う練習をしたり、音響監督さんにも教えていただいて、なんとか12話までに長さや重みなど、色々なパターンの息を表現できるようになりました。やっぱり全話通して「吸う・吐く」の演技が一番難しかったです。
──佐藤さんはスタッフからオーダーなどはありましたか?
佐藤:「かっこよくやるな」とはずっと言われました。僕としてはそんなつもりはなかったんですけど、「今のままだと佐々木がすごく女慣れしているみたいだから、もうちょっとどうにかなりませんか」と(笑)。改めて、自分が思ってやっていることと、伝わるものの相違があるんだなと勉強になりました。
──そこから、どのように「佐々木らしさ」を掴んでいったのでしょうか?
佐藤:世間がイメージする「おじさんの枯れ感」や「すれた感」ってあると思うんですが、どうやら佐々木にはそれがフィットしないみたいなんですよね。なので、「おじさんだからこその枯れ感」というよりは、「一度枯れたからこそ柔らかくなった」「懐が広くなった」という方向で表現すればいいんだと。それが、全12話を演じてきて見えた僕なりの「佐々木観」です。
彼という人物を表す上で一番大切なのは、やはり「優しさ」なんだなと思いましたね。現場では毎回、原作者の地主先生が見守ってくださっていたので、ディレクションのOK・NGに関しても真っ直ぐ受け止めることができて、本当にありがたかったです。
──最後に、放送を楽しみにされている皆様へメッセージをお願いします。
佐藤:この作品が原作と同様に、みなさんの生活の中でほっとできるような存在になってほしいです。「今週も『ヤニすう』見たし、寝るか」と思っていただけたら幸いです。
星希:ほっと一息つけるような、みなさんの日常に寄り添ってくれる温かいアニメになっています。私も、その空気感をみなさんに楽しんでいただければ嬉しいです。
[取材&文&撮影・MoA]