「普通が得する時代に…」キラキラネーム世代が陥る“名付け疲れ”。唯一無二の名前=愛の証だった時代の功罪
キラキラネーム、シワシワネームなど年代によって“名前”の傾向が異なります。名前が“社会的ラベル”になる現代では、名前を見ただけで性格や親のタイプを勝手に判断されることも…。
「世界にひとつだけの名前」ブーム
「うちの子、就職面接で“これ本名?”って聞かれたらしいんです」
そう苦笑いするのは、40代の主婦・麻衣さん(仮名)だ。
2000年代前半、名付け雑誌や育児サイトでは“世界にひとつだけの名前を”というコピーが溢れていた。麻衣さんもその空気の中で、娘に「光璃(ひかり)」と名付けた。
「周りの子も“心愛(ここあ)”ちゃんとか、“翔空(とあ)”くんとか、みんなオシャレで可愛くて。だから普通の“ひかり”じゃつまらないと思ったんです」
当時は、キラキラネームが“個性の象徴”としてもてはやされていた。
芸能人の子どもの名付けがニュースになり、ママ雑誌には「未来感のある名前特集」が組まれた。SNSが浸透し始めた時期でもあり、「珍しい名前=注目される=愛されている証拠」という空気が確かにあった。
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「名前いじり」という新しいいじめが
だが、時代は変わる。
娘が中学生になった頃から、クラスメイトに名前をからかわれるようになったという。
「“ひかり”なのに“みつり”って呼ばれたり、“キラキラネーム代表”ってネタにされたり。最初は笑ってたみたいだけど、だんだんLINEのグループから距離を置かれるようになって…」
“名前いじり”は、いまや新しい形のいじめでもある。
教師が名前を読み間違えたことを笑われたり、SNSで「読めない名前ランキング」に載ったり。本人の性格や努力に関係なく、名前が「からかいのネタ」になってしまう。
麻衣さんの娘は高校生になったころ、母に「どうしてこの名前にしたの?」と涙ながらに問い詰めたという。
「そのとき初めて、“可愛いと思った”っていう理由が、本人にとっては苦しみになることもあるんだって気づきました」
キラキラネーム全盛期世代が陥る「名付け疲れ」
一方、別の母親・聡美さん(43)は逆の後悔をしている。
息子に「太一」と名付けたが、当時は「地味すぎる」「古い」と言われたそうだ。
「でも今は“落ち着いてていい名前だね”って褒められるんですよ。皮肉なもので、流行を追わなかったほうが結果的に“普通で得する”時代になっちゃった」
キラキラネーム全盛期を経験した親世代が、今“名付け疲れ”を感じている。
最近の出生届ランキングでは、響きや漢字が落ち着いた名前が再び上位に戻ってきた。
「湊」「芽衣」「葵」「結菜」──読めて、書けて、呼びやすい名前。
“オンリーワン”ではなく、“ちょうどいい普通”を求める流れだ。
背景には、SNS時代の「名前の可視化」がある。
子どもが生まれた瞬間から、名前は検索可能な“個人情報”になった。
誰でも調べられ、簡単に晒され、ネタにされる。
そんな中で、“目立つ名前”はリスクでもあると感じる親が増えている。
親の無意識の欲望が子どもにハンデを
名付けは本来、愛情の象徴だ。
だが、2000年代の名付けブームでは、それが“親の自己表現”の一部になっていた。
「他と違う名前をつけたい」「SNSで褒められたい」──そんな無意識の欲望が、子どもに“背負うハンデ”を与えてしまった。
一方で、名前の多様性を否定するのも違う。
キラキラネームがあったからこそ、“読めない名前”に対する社会の許容度も少しずつ広がった。
“個性”という言葉を、名前だけでなく生き方で表現する時代に変わってきたのだ。
名付けに正解はない
麻衣さんは、娘の成人式のときに言ったという。
「名前のせいでつらい思いをさせたかもしれない。でも、“光璃”って名前は、どんな時も自分の光を持てるようにって願いを込めたの。そこだけは本当」
娘は少し笑って、「それなら許す」と返した。
時代が変われば、“キラキラ”も“シワシワ”も、また違う意味を持つ。
名付けに正解なんてない。
ただ、ひとつ言えるのは──“オンリーワン”を狙うより、“その子が生きやすい名前”を選ぶことこそが、いちばんの愛情なのかもしれない。
(おがわん/ライター)