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空堀と水堀はどうやってお城を守っていたの?ー超入門!お城セミナー【構造】

城びと

空堀と水堀はどうやってお城を守っていたの?ー超入門!お城セミナー【構造】

お城に関する素朴な疑問を、初心者向けにわかりやすく解説する城びとの連載「超入門! お城セミナー」。今回は、城の周囲を囲む堀について。総石垣造りの近世城郭の堀といえば広大な水堀が思い浮かびますが、山上に築かれた土の城にあるのは空堀。果たして両者の違いは何? また、それぞれどんな防御力があったの?

全国屈指の水堀と石垣を持つ大阪城(大阪府)。幅数十mにもなる水堀は、見るだけで攻め手の士気を下げたことだろう

山城の標準装備・空堀はどれほどの防御能力なの?

石造りの近世城郭にある、石垣と堀のセット。石垣の高さだけでも圧倒されますが、さらに数十mもの幅がある広大な堀に満々と水が張ってあるのを見ると、「ここを攻めるなんてムリ!」 って、実感しますよね。また、フォトスポットとしても人気が高く、天守や櫓などの建造物や満開の桜などが映る水鏡は、思わずカメラを向けてしまう美しさ…。

しかし、山上に築かれた山城には、この広い水堀がありません。山城にあるのは、見た目には少々地味な、土造りの空堀ばかり。この違いは、なぜなのでしょうか? また水堀と空堀を比べてみると、防御設備としてのメリットにどのような違いがあるのでしょうか?

まず、「近世城郭に水堀、山城に空堀」という基本の組み合わせは、築城技術の発展によるものでも、城主の趣味によるものでもなく、単純に立地によるものなのです。低地を掘れば自然と水が湧くから空堀にはならず、逆に山の上では掘っても水が出ないから水堀にはならない、ということ。

賤ヶ岳の戦いで柴田勝家の本陣として築かれた玄蕃尾城(滋賀県/福井県)の堀。戦国時代に造られた城はもちろんだが、築城年代が比較的新しくても基本的に山城に備えられるのは空堀である

山上に水堀を造るとなると、どこかから水を引いてこなければいけませんし、その水を堀の中に溜めておくために、別の普請が必要にもなってきます。有事における使い捨てのような軍事施設である山城に、そんなに時間をかける暇などなかったでしょう。仮に苦労して山城に水堀を造ったとしても、それによって大幅に防御力が上がるようなこともありませんでした。というより、「敵を防ぐ」という軍事設備としての役割は、空堀だって充分に果たすことができたのです。

高さで守る空堀、幅で守る水堀

合戦における、それぞれの堀のメリットを考えてみましょう。水堀は、なんといっても水があるため、簡単に渡ることができません。溺れることもありますし、泳ぎが達者であっても進軍速度は遅くなり、狙い撃ちすることも容易になります。また水中にもさまざまな仕掛けがあり、たとえそれをかいくぐって渡り切ったとしても、次に目の前にそびえるのは、目もくらむほどの石垣です。重い甲冑を着た状態では、あの広い水堀を渡り切って城に侵入することなど、まず不可能だったでしょう。

※水堀で敵を防ぐための工夫については、「第69回【構造】堀って泳いで渡ることはできなかったの?」(https://shirobito.jp/article/819)を参照

近世に築かれた平城は、山城に比べて高低差が小さく防御が難しい。そのため、堀の幅を広げて高低差に代わる要害としている。写真は広島城(広島県)

また、水堀は弓矢や鉄砲・大砲の射程距離も計算した上で、幅が決められていたようです。水中に潜むのを防ぐため深さはそれほどではなく、水堀の防御力アップには、深さよりも幅の広さが重要でした。なるほど、だから近世城郭の水堀ってやたらと広いのですね。

火縄銃の有効射程は200m程あり、50m程度の距離であれば足軽の胴丸程度は打ち抜けたという。そのため、火縄銃が普及後に造られた近世城郭では、幅50〜100mの巨大水堀が造られるようになる。写真は平均幅約67mの江戸城桜田濠(東京都)

では、空堀はどうでしょう。「水がないんだから、飛び込むか駆け降りるかして、よじ登れば突破できそう」と思いがちですが…いえいえ、とんでもありません。水がないから、落ちたら怪我は必至。悪くすれば死んでしまいます。さらに空堀の基本の形は、少ない土木量で効率的な守りが可能な「薬研堀」というV字型。堀底が非常に狭いので、落ちたらほとんど身動きできず、登ることもできません。

小幡城(茨城県)の堀底道。複雑に屈曲した巨大空堀に敵を誘導し、頭上から鉄砲や弓を射かける仕組みだ。堀の深さは約8mにもなり、一度迷い込めば抜け出すことは不可能だ

また、現在見られる空堀の遺構は、年数とともにかなりの土が流入しています。往時は今よりずっと深く、堀底も斜面も鋭かったのです。つまり空堀の防御力アップには、水堀とは逆に、深さが重要だったことになります。とはいえ、深く掘るのはやっぱり大変。そこで、逆茂木などの設置で殺傷能力を上げたり、堀を二重にする、堀底を区切って堀障子にするなどして、敵の動きを制限することにも工夫が凝らされていました。こうして見ると、水堀がなくても、山城における空堀は、非常に強力な防御設備だったことがわかります。

一見、山道のように見えるがこれは箕輪城(群馬県)の三の丸と木俣を分断する大堀切(深さは約20m)だ。箕輪城はこの大堀切で城を南北に分け、片方が陥落してももう一方で抗戦できるようになっていた

ところ変われば守りも変わる。立地による城の守りの違いにも、ぜひ注目してみて下さいね!

執筆・写真/かみゆ歴史編集部

「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。戦国時代の出来事を地方別に紹介・解説する『地域別×武将だからおもしろい 戦国史』(朝日新聞出版)、全国各地に存在する模擬天守・天守風建物を紹介する『あやしい天守閣 ベスト100城+α』(イカロス出版)が好評発売中!

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