【実体験】こだわり、感覚過敏…発達障害の子どもの散髪で思わぬトラブル!?わが家を襲った"事件"から学んだこと
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
発達障害のある子どもの散髪問題。わが家があえて美容室を選ぶ理由
知的障害(知育発達症)を伴うASD(自閉スペクトラム症)の長男、次男、児童発達支援施設に通う三男は、美容室を利用しています。私が切って子どもたちの髪型が悲惨なことになってしまうのを防ぐため……でもあるのですが、子どもたちに家とは違う場所で散髪をするという環境に慣れてもらうためでもありました。
主に連れていくのは夫です。子どもたちが急に動いて、ケガをしてしまう可能性も考えて、力強くサポートできる体制で臨んでいます。
特に、長男りーは最初の頃は大変だったようです。知らない人、髪の毛を切られる感覚、同じ姿勢を保ってじっとしていなければならない……すべてがストレスで、怒ったり、何度も首を振ったり首元を気にしたりと、落ち着かない様子だったようです。
今でも多少気にすることはありますが、回数を重ねるうちに落ち着いてきて、夫の散髪も待てるまでになりました。
静寂は「事件」のサイン!? 工作バサミで無残に刻まれたのは……
そんなりーですが、先日とある事件を起こしました。
りーの髪型は左右非対称のアシンメトリー。いつもは3〜4か月ごとに美容室へ行きますが、体調不良やいろいろな予定が重なり、4か月を過ぎても行けずにいました。りー本人も、伸びてきた髪の毛が触れる感覚が、気になっていたのだと思います。
ある日曜日、ふと気づくと部屋が静かです。嫌な予感がして見に行くと……。
りーが工作用のハサミを使い、自分で髪を切っていたのです!
きれいなアシンメトリーヘアは、見るも無残なざんばら髪に……。幸いけがはなく、切ったのは髪の毛だけでした。しかし、手が届かないはずの戸棚から、台を使ってハサミを取り出した執念には驚かされました。
緊急バリカン作戦!感覚過敏と向き合う「休み休み」の散髪
その日はワンオペで、すぐに美容室へ駆け込むこともできません。どうしようもなかったので、夜に帰宅した夫と相談し、急遽、自宅で坊主頭にすることにしました。
浴室でのバリカン。切った毛が肌に刺さるチクチク感は、感覚過敏のあるりーにとって相当なイライラだったはずです。彼の様子を見ながら、休み休み、夫が慎重に刈り進めていきました。
りーが髪を切っている間、私はその間、ハサミの置き場を猛省しながら見直していました。今までの置き場は子どもたちの手が届かないところだったので、大丈夫だろうとすっかり油断していました。台を使っても届かない場所、目につかない場所へ隠すようにしました。
「新しい僕、どう?」坊主頭がりーに教えてくれたこと
私は「管理が甘かった」「あわや大ケガだった」という後悔はもちろん、りーの髪型が変わってしまったことに大きなショックを受けていたのですが、意外にも、坊主頭になった本人は鏡に映る自分を見て、いつもと違う姿に満足げな様子(もともと鏡を見るのは好きな子です)。
後日、特別支援学校や放課後等デイサービスの先生方に事情を話すと、「けががなくてよかった」「かわいいですね」「撫でてもいいですか?」と温かく反応してくれました。たくさん撫でてもらってうれしそうにしているりーをみて、この髪型も良いのかも、と思えるようになりました。
今回は無事でしたが、りーの成長に合わせて定期的に物の置き場を見直していくように気をつけねばと思った出来事でした。でも一方で、りーは「髪が伸びて不快だ」という自分の感覚に気づき、道具を使って自ら解決しようとしたのです。ある意味、「自分でなんとかしたい」という自立の芽生えと言えるのかもしれません。
今回の件で、わが家の選択肢は広がりました。 社会経験としての「美容室」と、今回のような緊急時や本人のコンディションに合わせた「自宅でのバリカン」。息子の成長に合わせて、環境も、髪型との付き合い方も、柔軟にアップデートしていこうと思います。
執筆/かしりりあ
発達障がいのお子さんは、聴覚過敏がある場合が多いので、バリカンの独特な音を嫌がる傾向があります。まずはスモールステップを意識し、焦らずに少しずつその刺激に慣れるように工夫するとよいでしょう。例えば美容室を利用する際も、いきなり散髪をしようとはせず、初めはただお店の中に入るだけで終えるなど、お子さんの安心感を優先する視点が大切です。もし少しでも髪を切ることができたら、その頑張りを心から褒めてあげてください。親御さんとしては「今日も全部できなかった」と落ち込んでしまうこともあるかもしれませんが、できないことよりも「何ができたか」というポジティブな側面に光を当ててあげたいものです。
よく用いられる手立てとしては、お子さんの好きなビデオを見せながら散髪する方法があります。映像を注視することで自然と頭の動きが止まり、スムーズな施術に繋がりますが、このときイヤホンを併用すればバリカンの音も軽減できるため、まさに一石二鳥の工夫と言えるでしょう。こうして常に同じ場所で、同じバリカンを使い、同じ方法を繰り返すことで、お子さんも少しずつ落ち着いて散髪を受け入れられるようになっていくはずです。(監修:小児科医 鈴木直光先生)
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。