子どもの「誕生日プレゼント」に贈りたい絵本3冊を厳選! [絵本の専門家が選出]
「誕生日祝い」に贈りたい絵本として、『たんじょうび』『ゆかいなゆうびんやさん おとぎかいどう自転車にのって』『あなたがおとなになったとき』を紹介。絵本コーディネーター・東條知美氏が厳選。連載「子どもの本のプロが選ぶギフト絵本」第2回。
【画像】まいぜん・ドズル社・ちろぴの・カラピチの学習本が小学生に爆売れ中!絵本は、子どもへの贈りものに最適なアイテム。とはいえ、数ある絵本の中から年齢や好み、贈るシーンに合った1冊を選ぶのは、なかなか難しいもの。連載企画【子どもの本のプロが選ぶギフト絵本】では、絵本の専門家が、子どもにも親にも喜ばれる贈り物にふさわしい絵本をセレクト。
第2回は、絵本コーディネーターの東條知美(とうじょう・ともみ)さんが、子どもの「誕生日祝い」におすすめの本を紹介します。
誕生日を祝う気持ちが込められた世界のロングセラー
子どものころ、誕生日が近づいてくるとワクワクしましたよね。「私の誕生日」「あなたの誕生日」という概念がわかるようになるのは、だいたい3歳以上の幼児後期からだといわれています。
今回は、贈りものにふさわしい絵本の中でも“誕生日”というテーマが浮き上がってくるような作品をセレクトしてみました。
最初に紹介するのは、誕生日を祝う気持ちがたっぷりと詰まったハートウォーミングな物語『たんじょうび』(福音館書店)。1948年にスイスで生まれて以来、今日まで80年近く世界中で愛されている、誕生日絵本としてはずせない1冊です。
『たんじょうび』(文・絵:ハンス・フィッシャー、訳:おおつかゆうぞう/福音館書店)
野原の一軒家でたくさんの動物たちと暮らしているリゼッテおばあちゃん。この日は、リゼッテおばあちゃんの76歳の誕生日です。
おばあちゃんが村へ買い物に出ている間、犬のベロが中心となって動物たちは作戦会議を始めます。
「ばんまでに おたんじょうびのしたくを しておけば、おばあちゃんを、びっくりさせてあげられるよ。」
大切な人をびっくりさせたい、喜ばせたい。子どものころ、私たちにも覚えがありますよね。動物たちのおばあちゃんを想う気持ちが伝わってきます。
動物たちはさっそく、おばあちゃんのためにお祝いの準備を進めます。うさぎたちはろうそくを76本買いに行き、めんどりたちは卵を36個産み、やぎたちはテーブルに飾る花を摘みに……。
すると、家のほうからけむりがモクモクと出てきて大騒ぎ! 猫たちが一生懸命作ったケーキが、真っ黒に焦げてしまったのです。
でも、心配はご無用。猫たちは、砂糖をたっぷりかけてごまかします。実はこの場面、とっても重要なんですね。心理学では「大丈夫」「なんとかなるさ」という気持ちが、人の幸福度を高めてくれることがわかっています。
失敗してもなんとかなる。そんなメッセージを絵本からお子さんに感じてもらえたらいいなと思います。
そうして動物たちが奮闘していると、いよいよおばあちゃんが帰ってきます。息をひそめる動物たち。静まり返った家に、動物たちに何かあったのではないかと不安になるおばあちゃん。そこでページをめくると──。
「おたんじょうび おめでとう!」ドラマティックなサプライズシーンが描かれています。
ラフスケッチのような気楽さで、一見するとやや地味にも感じるハンス・フィッシャーの絵ですが、動物の体の特徴をしっかりと捉えた噓のなさが、読み手をぐっと絵本の世界へ引き込みます。文章も決して短くはないですし、パッと見てわかりやすいものが好まれがちな今の時代、じっくりと味わわないと魅力が伝わりにくいかもしれません。
上質な絵本を親子で一緒に読んで、絵本の素晴らしさ、絵の楽しさを感じてほしい。誕生日を祝う気持ちと共に、そんな想いも届けられるのではないでしょうか。
“紙の本ならでは”の遊びが詰まった1冊
続いてご紹介するのは、イギリスのロングセラー『ゆかいなゆうびんやさん』シリーズの1作目、『ゆかいなゆうびんやさん おとぎかいどう自転車にのって』(文化出版局)。
『ゆかいなゆうびんやさん おとぎかいどう自転車にのって』(作:ジャネット&アラン・アルバーグ、訳:佐野洋子/文化出版局)
絵本のページが封筒の仕様になっていて、中に実物の手紙が入っているというユニークな仕掛け絵本です。
郵便屋さんは、この手紙をいったい誰に届けるのでしょうか。どんな手紙が入っているのでしょうか。読み手のお子さんは、先の読めない展開にきっとワクワクするはずです。
ページをめくり、順番に手紙を開いてみましょう。最初の封筒に入っていたのは、女の子が『3匹のくま』の一家に宛てたパーティーの招待状のようです。次の封筒には、怪しい魔女グッズを扱うお店から『ヘンゼルとグレーテル』の魔女に宛てた広告のカタログ。次は、大金持ちになった『ジャックと豆の木』のジャックが、旅先から大男に送った絵はがき……。そう、手紙の届け先は、すべておとぎ話の主人公たちなのです。
手紙の内容も書体も、それぞれの書き手によって実に個性豊か。ほかにも『赤ずきんちゃん』に依頼された弁護士がおおかみに宛てた通告書や、『シンデレラ』のドラマティックな人生を描いた絵本の出版許可願もあり、思わず大笑いしてしまいます。
そして最後に郵便屋さんが向かったのは、誕生パーティーが開かれているひとりの女の子の家。誕生日祝いの贈り物にもぴったりですね。
ただ、この絵本の真のおもしろさがわかるのは、おとぎ話の内容を知っていてからこそ。「誕生日祝いだから奮発しよう」というのであれば、物語に登場するおとぎ話を子ども向けにやさしく描いた本とセットで贈ると、より喜ばれるのではないでしょうか。
絵本は、ときにおもちゃのような役割も果たします。本物の手紙のように、封筒から取り出して読む。紙の絵本にしかできない贅沢でユーモアあふれる遊びが楽しめる1冊です。
成長のお守りにしてほしいメッセージ絵本
最後にご紹介するのは、『あなたがおとなになったとき』(講談社)。先にご紹介した2冊は、小さなお子さんにも伝わりやすい絵本でしたが、こちらはもう少し年齢が上、小学生から高校生ぐらいまでのお子さんにおすすめしたいと思います。
私は初めて読んだときに思わず涙してしまったほど、力強いメッセージが込められた素晴らしい絵本です。
『あなたがおとなになったとき』(文:湯本香樹実、絵:はたこうしろう/講談社)
新しい年が明けたとき、進級や進学をしたとき、そして、誕生日を迎えてひとつ年を重ねたとき。子どもの成長の節目のたびに私たち大人が祈るのは、その子の幸福ですよね。
成長するにつれて、思春期の心の問題など、たくさんの困難に直面するわけですが、「何があっても前を向いて生きてほしい」と心から願うものです。
「あなたがおとなになったとき」というフレーズが繰り返されるこの作品には、子どもが大人になったときの世界を思う、親から子どもへのメッセージが切々と綴られています。
大人になったとき、もうそばにいてあげられないかもしれない。世界は、今のような姿と少し違っているかもしれない。私たち大人は予想もしなかった災害や戦争、紛争が起こることを知っているからこそ、未来を心配するもの。それでも親には、子どもに伝えたいことがあるのだと、絵本は教えてくれます。
例えば、「ただいちどだけの きょうがはじまる」という一文。何があっても、どんなにつらいときでも、朝が来れば、ただ一度だけの今日が待っている。そして、人生には思いがけない喜びがある。だから、生きてほしいと語りかけるわけです。
印象的なのが、湯本香樹実さんの美しい文章とまるで二重奏のように、別の旋律を奏でているはたこうしろうさんの絵。文章にはありませんが、いつもそばに青い鳥が寄り添っていること、そして、どんなに高い壁だって、助けてくれる誰かがいればきっと乗り越えられることを、絵が語りかけているのです。
親はもちろん、子どもの幸せを願うすべての大人の想いを体現した1冊ではないでしょうか。贈る人の分身のように寄り添ってくれる、成長のお守りの絵本としてぜひ贈っていただきたいです。
取材・文/星野早百合