Yahoo! JAPAN

「虎と猿」の世界。NIGOは「ケンゾー」で成功できるのだろうか!?

SEVENTIE

「え、ホント?」というのがファッション業界関係者の大部分の反応なのではないだろうか。NIGOがなんと「ケンゾー(KENZO)」のアーティスティック・ディレクターに9月20日付けで就任する。NIGOはある意味、ファッション・デザイナーとしては「終わった存在」なのではないだろうか。2011年に多額の負債を抱えノーウエア社を香港のセレクトショップ運営企業のITに売却し、同時に主力ブランド「A BATHING APE®️(ア・ベイシング・エイプ)」(「ベイプ(BAPE)」)もITに売却した。2年後には「ベイプ」のクリエイティブ・ディレクターとしての2年契約も終了してブランドから離れた。NIGOはその後も「ヒューマンメイド(HUMAN MADE)」を立ち上げたりしているが、現在は有力ブランドとのコラボの仕事が中心だ。最近ではファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)の命名によるカレーショップ「カリーアップ(CURRY UP)」の1号店を2010年に原宿(北参道)に開店し、中目黒店(現在はテイクアウトとデリバリー限定店舗)、新宿ルミネ店(すでに閉店)もオープン。最新の話題としては、日本財団が昨年から行なっている「東京トイレプロジェクト」で17人のクリエイターに選ばれて、原宿の公衆トイレのリニューアルを担当した。この17人には、安藤忠雄、伊東豊雄、隈研吾、槇文彦、坂茂、マーク・ニューソンなどの大御所建築家も含まれており、NIGOは場所が原宿ということで選ばれたのだと思うが、「原宿の名士」という位置付けなのかもしれないが格落ちの感は否めない。

カレー屋と公衆トイレというのはNIGOを知る者にとっては、微笑ましい感じがする。そういうイメージでNIGOを捉えている我々としては、今回の「ケンゾー」のアーティスティック・ディレクター就任には驚くのである。なぜなら1970年創業の「ケンゾー」はパリコレで年2回ファッションショーを披露するブランドであり、エスニックなテーストをベースにしてはいるけれども、「ファッション」というよりは「モード」のブランドなのである。このブランドをランウエイショーの経験もほとんどないNIGOが手掛けるのである。NIGOはファッション・デザイナーというよりファッション・プロデューサーという呼び名が一番しっくりくる。今回の起用には、NIGOが日本人であることやストリートの感覚を持っているのが理由と言われている。LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、「ストリート・ラグジュアリー」化を傘下のブランドで着々と推進しているが、今回のNIGO起用はその路線のようだ。

ここで「ケンゾー」の歴史を振り返ってみよう。

高田賢三がLVMHに「ケンゾー」を売却したのは1993年である。売却後も高田賢三はメゾンに1999年まで留まった。その後任は、ウィメンズがジル・ロズィエ(Gilles Rosier)、メンズがロイ・クレイバーグ(Roy Krejberg)だった。新生「ケンゾー」は2000年秋冬コレクションで披露された。2004年秋冬コレクションからはアントニオ・マラス(Antonio Marras)をアーティスティック・ディレクターに迎えた。このあたりから「ケンゾー」ブランドは長い低迷期に入ったようだ。

起死回生の大胆起用で2012年春夏コレクションから元「オープニング・セレモニー(OPENING CEREMONY)」のウンベルト・リオン(Humberto Leon)とキャロル・リム(Carol Lim)がクリエイティブ・ディレクターに就いた。この2人組で「ケンゾー」はちょっと風変わりなカジュアルウェアに転換を果たした。あの「虎のモチーフ」のウェアリングと言えば思い出してもらえるかもしれないが、いわゆる「パリ・モード」からはかなり逸脱しているが、そもそもの「ケンゾー」にそうした要素がないわけではない。この2人組は2019年7月1日付で退任。WWDによれば、2人の就任以来「ケンゾー」は2桁成長を続け年商は3億ユーロから4億ユーロ(384億円~512億円*)まで拡大したと言われる。この2人組の後任はフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)だった。バティスタは「ラコステ(Lacoste)」のクリエイティブ・ディレクターとして同ブランドの復活に貢献したが、「ケンゾー」では2年の契約を満了して今年6月30日に退任していた。このバティスタの後任がNIGOである。バティスタはどうもウンベルト&キャロルの2人組の後任としては成果が上げられなかったようだ。ストリートに大きく触れるわけでもなく、もちろんエスニックテーストのプレタポルテに回帰するわけでもない中途半端なブランドになりつつあったのではないか。そこでLVMHでは、また起死回生の大胆起用をしてみようということになったのではないか。NIGO起用で夢をもう一度である。

NIGOの強味というのは、プロデューサーとしてのセンスだろう。その特徴は、特にグラフィックにあると言われている。あの「ベイプ」の猿のグラフィックを思い出してほしい。もちろんNIGOの回りにいるグラフィック・デザイナーが描くのであろうが、そうしたネットワークをNIGOが「ケンゾー」に注ぎこめるのかどうか。ウンベルト&キャロルが「虎」のモチーフのちょっとダサいカジュアルウェアで成功したように、NIGOには「猿」という切り札がある。「猿」で「ケンゾー」は復活できるのか。この起用には否定的な意見が多く聞かれるのだが、是非「裏原」のカリスマの実力を世界に見せつけてほしいものである。

1ユーロ=128円換算(9月18日時点)

【関連記事】

おすすめの記事