服づくりのすべては紡績から始まる。繊維をねじって引き伸ばして、糸にする工程を見学!
繊維をねじり、絡み合わせながら長く引き伸ばす「糸を紡ぐ」ということを業界用語では「紡績」という。簡単かつシンプルな工程だと思われがちだが、実は4回ほどの工程に分けたり、必要な機械の数も多いうえに熟練した職人技も必要だという。ぜひその現場を知りたい2nd編集部が1918年創業の「大正紡績」を訪れ、紡績の工程を見せてもらった。
いい糸を紡ぐにはそれぞれに熟練した職人が必要
繊維をねじり、絡み合わせながら長く引き伸ばしていく。それが「糸を紡ぐ」ということであり、業界用語ではこれを「紡績」という。原料となる繊維は、例えばコットンやウールのような天然繊維や、ナイロンやポリエステルのような化学繊維。これを一本の糸にしていく工程は言葉だけ聞くとシンプルなようでいて、かなり複雑だ。
コットンを例にあげて言えば、まず原綿に残存している葉の屑などを取り除く「混打綿」を経て、おおよそ4回ほどの工程に分けて短い繊維を取り除きながら少しずつ密に、そして長く引き伸ばしていく。これらの工程においては必要な機械の数も多く、いい糸を紡ぐにはそれぞれに熟練した職人が必要である。
たとえば大阪府にある「大正紡績」は、そんな条件を満たす工場のひとつ。1918年創業という長い歴史を持つ本工場では、スビンゴールドやアルティメイトピマなど、厳選されたコットンをはじめとした様々な天然繊維を糸にしていく。
さて、前置きはこのくらいにして、なかなかお目にかかれない「服になるまでの最初の一歩」、紡績の工程をご覧いただこう。
大正紡績に聞いた「超長綿」とは?
実は綿繊維というものは、一本一本解いていくと、短いものから長いものまで様々だ。さらに短い繊維は、絡まりにくく糸にならないため、切り捨てざるを得ない。そうして残った繊維の平均繊維長が34.9mm以上あるものを「超長綿」と呼ぶ。そのなかでも良質なコットン製品に使われる「スビンコットン」は、3〜3.2マイクロネアと、糸にできる原綿のなかでもっとも細く、長さと細さを兼ね備えたエリート綿なのだ。
繊維が糸になるまでの複雑な工程に迫る
混打綿(こんだめん)|短い繊維やゴミを取り除いて圧縮された原綿をほぐす
コットンは輸入の際に圧縮された状態で届く。その圧縮を解いたり、繊維に絡まったゴミを取り除くための最初の工程が「混打綿」だ。長いベルトに乗せられた原綿が機械の中を通過し、攪拌されることでゴミなどが機械の隙間から落ちる仕組みになっている。なお、ロットによって原綿のクオリティや重さが異なることがあるため、安定させるために違うロットの同じ品種を混ぜ合わせる場合がある。
機械の中で攪拌される原綿。下の写真が、攪拌されることで機械の隙間から落ちてきた短い繊維、通称「落ちワタ」やゴミ、コットンの葉などである。
この工程を通過した綿の一部がこちら。まだ繊維同士が強く絡まっていたり、若干のゴミが付着しているのが分かる。これを綺麗に細長くしていく作業が後に行われる。
カード|綺麗になった原綿の塊を繊維が一本一本の単位になるまで、ほぐしていく
混打綿の工程を通過した綿は、天井に沿って配置されたダクトの中を通って「カード機」と呼ばれる機械の内部に直接運ばれる。カード機には針が付いており、この針で掻くことによって絡まった繊維をほぐしていく。実はこの「カード機」は70年代製で、現代のものに比べると回転のスピードが遅い。一見非効率だが、回転が早いと、スビンコットンなどの細くて長い綿の場合に繊維が傷んでしまう。
機械内部にある大量の針でとかされた綿は、シート状になって寄せ集められる。カードの工程後にまとめられた繊維の束を、特に「カードスライバー」と呼ぶ。
カードの工程を終えてほぐれた綿は、打って変わって束らしくなるものの、まだ繊維が縮れて絡まっている状態。
コーマ|繊維の長さをできる限り揃えるため短い繊維を取り除いていく
カードの工程を終え、タイコ状に巻かれた原綿をコーマ機に通す。コーマ機にも針が付いており、下から掻き出すことで短い繊維が下に落ちていく仕組みだ。左下の写真を見れば、取り除かれた繊維とそうでない繊維の長さの違いが明確に分かるだろう。ちなみに、短い綿を残していい意味でのムラ感を生み出すために「コーマ」を通さないケースもある。たとえばデニムに使われるものがそうだ。
練条(れんじょう)|8本のスライバーを1本にまとめて引っ張ることで、太さを均一にする
カード、もしくはコーマの工程を終えた8本のスライバーを一本にまとめて、「練条機」と呼ばれる機械で引き伸ばす。8本のスライバーを8倍の長さに引き伸ばすことで、練条機から出てくるときは、練条前の1本分の太さになっている。こうすることで太さにムラのあるスライバーが均一な太さに整う。通常この工程を2〜3回繰り返し行う。
強力に圧縮されて出てくる!
粗紡(そぼう)|練条にかけられた束をさらに引っ張ることで、糸に近い状態へ
練条機にかけられたスライバーをさらに8〜9倍の長さに引き伸ばすことで、「完成後の糸」の太さに近づけ、次の「精紡」という工程で糸にしやすくする。この「粗紡」工程を終えた束が、ここで初めて「ロープ状の繊維の集合体」を表すスライバーという呼び名から、「糸」という名称に変わり「粗糸」と呼ばれるようになる。
精紡(せいぼう)|加える力の強さや回転方向で番手と撚りの向きが決まりいよいよ糸が完成する
粗糸は30倍ほどの長さにするために引っ張り、ボビンに巻きつけて管糸(かんし)と呼ばれる糸の完成形となる。縦方向に回転するバンドのようなもので糸を押さえつけながら引っ張るのだが、その引っ張る強さで番手を、機械下部に設置された回転するボビンの方向で撚りの向きが決まる。
通称「石川台」と呼ばれる1950年代製の機械は、押さえる力や回転数こそ少ないが、そのおかげで柔らかな風合いやいい意味でムラが生まれる。なお、この機械で紡績されるのは単糸。2本撚りの双糸は別の工場で作られる。
番手は後ろのローラーと前のローラーとの回転の差で確定する。稀に糸が切れることがあるため、職人が見回る。
石川製作所製の「石川台」で、茶綿が精紡されている光景を見ることができるのは、世界でも「大正紡績」だけだ。