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香野子、私の新章のタイトルは「ラブの追求」

Pop’n’Roll

香野子、私の新章のタイトルは「ラブの追求」

表現者として新たな活動に臨んでいる人物の現在地に迫るインタビュー連載「new chapter -私の新章-」。

第4回目に登場したのは、シンガーソングライターの香野子。アイドルグループ・鶯籠を経て、現在はソロアーティストとして精力的に活動している彼女は、これからどのような作品を生み出していこうと考えているのか。

香野子が、これまでの活動と表現者としての新章への想いを語る。

・香野子の写真 10枚

編集協力:竹内伸一

メンバー全員、自分の中の憎悪とすごく向き合って活動していた

――これまでのキャリアの中で、鶯籠での活動は大きなウェートを占めているかと思うんですが、そこで学んだことで今の活動に活きていることは何ですか?

香野子:
歌に関する情緒の部分ですね。鶯籠ってほかのアイドルとは異質で、人間の生の気持ち悪い部分だったり、内側から出てくる感情……憎悪だったり愛憎だったりをテーマにした歌が多くて。そういうアイドルさんってほかにいないですよね(笑)。ホントにオリジナリティがあったと思うし、メンバー全員、自分の中の憎悪とすごく向き合って活動していたんです。アイドルってある意味人間らしくないというか、ちょっと隔離された世界だと思うんですけど、そういう世界の中で負の部分も含めて人間らしい感情を吐露するグループだったので、そういう部分は今にも通じているんじゃないかと思います。

――鶯籠はステージ上で自由というか、その時の感情をリアルに表現しているグループという印象がありました。そういう表現活動を続けてきたことが、現在に通じているんですね。

香野子:
活きていると思いますね。やっぱり、自分の感情に忠実であることが、今曲を作る上でも大切というか、当時の自分と自問自答しているような部分もあって。曲を作る時には冷静にならなくちゃいけない部分もあるんですけど……自分を客観視することで、今の自分の感情はどういうものなんだろう、その自分の感情にはどういう名前がつくんだろうといったことが見えてきたりして、それが歌詞に反映されたりするんです。ただ、それをパフォーマンスするとなった時に、あんまり客観視した自分で歌っちゃうと伝わらないこともあって。鶯籠の時は、感情を爆発させて歌っていたんですよ。深いことを考えていなかったわけではないんですけど、その時その時の感情……リアルな感情を大事に歌っていたので、そこは当時の自分に教わっているような気がします。そういう部分は、ちゃんと残しておきたいなって思いますね。

――人によっては、過去の自分を否定することもあると思うんですけど、香野子さんは、それはないですか?

香野子:
どうなんだろう。やっぱり、自分が全部歌詞を書いていたわけではないので、自分の世界観とは少し違いますよね。「凸凹(いびつ)」という曲は、自分で書いたんですけど、今考えると“何か違うな”って思う部分がすごくあって。当時、鶯籠というグループの渦中にいて、やっぱり大変なことだらけだったんですよ。メンバーは性格もバラバラだったし、私を含めてヤバいやつ……個性的なやつしかいなかったんで(笑)。そういうグループで、その場その場で誰かが統率を取ったり、誰かがまとめ役になって1つのことを達成しなきゃいけなかったり、協調性を持ってやっていかなきゃいけなかったりして、抑圧される部分もあったように思うんです。それがあったからこそ引き出されたものもあるんですけど、その抑圧されていた部分に関しては、“今はそうじゃないよ、自分をもっと出していいよ”みたいなことを言い聞かせるようにして曲を作っている部分はありますね。ただ、統率を取ってやっていた部分にも、すごく学ぶべきところがあると思うんです。だから、否定する部分というか、今は違うと思う部分もありつつ、当時やっていたことをもう1度自分の中で学び直そうみたいな感覚もあるという感じですかね。そうですね、今の自分そのままじゃいけないみたいな気持ちは多少なりともありますね。

――グループの中の1人というのも難しい部分だったのはないですか? グループでは、メンバーとして周囲と調和を保ちつつ、個性も出していく必要がありますよね。

香野子:
そうですね。1人になって、そこに関しては悩むことがなくなったので、けっこう楽にはなりました。1つ肩の荷がおりましたね(笑)。鶯籠は、メンバーの声質が本当にバラバラで、でも、1つの曲には必ずストーリーがあって、文脈がありますよね。それを歌い継いでいく時に、声が変わった瞬間に違う物語のように聴こえちゃったり、違う歌を歌っているように聴こえちゃったりして、歌いつなぐ大変さは感じていました。メンバーのパートの文末をちゃんと拾って自分のパートにつなげることは意識してやっていましたね。ライブが終わったあとにいつも反省会をしてて、そこがウマくいかないと、“あそこはもっとしっかり歌うべきだね”みたいな話を毎回やっていました。今は、自分の歌い方が100%正解になるので、どう伝えようか、どういう歌い方をするとみんなに伝わるのかっていうことだけに集中できるので、歌うという部分だけで言えば、やりやすくはなったかなと思います。

――自分のやり方でできる反面、責任もかなり大きくなったのでは?

香野子:
そうなんですよ。でも、どんと来いですね、そのくらいは。

香野子
香野子

この人がいるから自分は頑張れるというような存在を“アイドル”と呼ぶんだと思う

――もともとはお芝居が好きだったそうですね。でも、グループが解散してからは、俳優ではなくシンガーソングライターとして活動しているのは、なぜなんでしょうか?

香野子:
お芝居がやりたいというか、何か表現がしたいと思っていたんです。それで鶯籠に入ったんですけど、鶯籠では劇のようなライブをみんなで一緒に作っていたんですよ。それこそ振り付けも、1人ダンス経験者がいたので、その子に指導してもらって、みんなで作っていました。そんなふうにみんなで世界観を構築していくのって、ホントお芝居をやっているような感覚だったんです。振りも実はその都度変えたりしていたんですよ。セットリストが変われば、セットリストの中で続いている3曲を1つのストーリーにしようって、最初に作った振りを変えて3曲がつながるようにしたりして、ストーリー性を持たせたりしていました。それで、第1章~第2章~第3章という感じで、ライブ全体が1つの物語になるような構成を作ったりしていたんです。そういうことを、それぞれ意見交換しながらやっていました。それって自分がやりたいと思っていた表現に似ているというか、そこでやりたいことが半分は叶ったみたいな気持ちになったんです。それで、鶯籠を続けていくうちに、いただいた曲をいただいた歌詞で自分なりの表現で伝えていくだけじゃなくて、やっぱり自分の言葉で伝えたいと思うようになったんです。

――自分自身を表現したいという気持ちが芽生えてきたんですね。

香野子:
もともと中学時代、引きこもりだったんですけど、引きこもっている時に曲を作っていたんです。別に誰に聴かせるわけでもなくて、ただ歌詞を書いて、母から借りたギターで。知識なんてまったくないから、ホント曲とも呼べないようなものでしたけど。でも、友達には歌詞を見せて“これは共感できるかな?”って聞いていました。自分と同じように悩んでいる子たちと共感できるかどうかっていうことは、すごく気にしていました。同世代で同じように苦しんでいる友達とかに見せて、“どう思う?”って意見をもらっていたんですけど、でも、やっていたのはそこまで。大人になって、もう1度自分を表現する形を取りたいなって思って、それだったら、やっぱり歌だなって。鶯籠でお芝居のように歌うという表現の方法を学んで、歌でお客さんと通じ合うということを知りました。せっかくアイドルとして5年ほどやってきたんだから、そこでの経験を武器にして、今の自分が思っていることだったり、伝えたい想いだったりを表現したいなと。中学生の頃、自分のように悩んでいる子がいたら救いたいなって思っていたんですけど、今なら当時の自分も救えるような何かができるんじゃないかと思って、シンガーソングライターとしてやっていこうと決めたんです。

――作曲は独学ですか?

香野子:
独学です。音楽は母の影響ですね。母は音大のピアノ科出身で、常に音楽に囲まれている環境だったんです。車の中でもずっと音楽が流れているし、母が運転して私が助手席に座っていると、母は横でずっとハモってるんです(笑)。日常的に即興ソングを鼻歌で歌っているし、絶対音感を持っているから、街を歩いていても、街中で流れている音楽を聴いて、すぐに音階がわかるし。だから音楽をやるっていうことが特別ではないというか、ハードルが低かったんですよね。

――そういえば、お母さんの影響で昭和歌謡が好きなんですよね。

香野子:
母が大好きで、私も影響を受けて好きになりました。昭和歌謡が好きだと言っていたら、昭和歌謡のイベントに呼ばれたりして、好きなことがお仕事につながって嬉しいです(笑)。あと、私、森山直太朗さんをすごく尊敬しているんですよ。最近の曲ってすごくおしゃれに韻を踏んだりとか、リズム重視だったりとか、音圧を重視していたりとか、そういうサウンドは私も楽しんで聴いているんですけど、歌詞にスポットを当てている曲が今は少ない気がして。それで森山直太朗さんのように、歌詞を通した表現を自分なりに模索してみたいなって思って。で、最近は全然やっていなかったギターをイチからやり直そうと思って、ギターを買い直しました(笑)。

――いろいろなアイドルを見てきて、夢を持って始めたけれど、志半ばで辞めてしまう人がいたり、表現活動の次のステップにつなげていくことが難しかったりして、なかなか大変だなと思うこともあるんです。香野子さんは、ご自身がその先例になるべく活動されていますよね。そういう存在になりたいと思うようになったきっかけは何だったんですか?

香野子:
アイドル時代にメンバーと話していたテーマの1つに“30歳まで続けてもカッコいい音楽をやろう”というのがあったんです。鶯籠はメンバー同士の絆もすごく深かったし、最後は3人でしたけど、5人で活動している期間が長くて、その5人のメンバーで歌を継いで表現していくステージを楽しんでくださるお客さんがすごく多くて。やっぱりその5人でやることにこだわりたい気持ちもあったし、お客さんも求めているのがそれなのであれば、ここで終わりにしようみたいな感じで終わっちゃったんですよね。ただ、“30歳まで続けてもカッコいい音楽をやろう”というテーマは、私の中で共感できる部分ではあって、可愛い音楽もすごくいいと思うし、青春をテーマにするのもすごく素敵だと思うんですけど、可愛さやフレッシュさを売りにしていると、どこかで限界も来ると思うんです。劣化したなんて言われたりすることもあって。別にそんなことスルーすればいいとも思うんですけど……別に劣化しようが何しようが、夢を追ってやっている姿を応援してくれる人がいるんであれば、それは素晴らしいことですから。そのグループが終わったら、グループ時代のようなキラキラしたものを追い求めちゃいけないのかって言ったら、そんなことも絶対ない。別にアイドルという名称がつかなくたって“アイドル”でいていいと思うんですよ、私は。誰かの光みたいな、この人がいるから自分は頑張れるというような存在を“アイドル”と呼ぶんだと思うんです。シンガーソングライターでも芸人でも、IT起業家でも、その人がいることで癒されたり、元気が出たりするのであれば、それは“アイドル”なんです。私自身、そういう言葉をすごくたくさんいただいてきたので、そういう存在でいることを辞めずに、自分があがくことで、誰かの希望になれればいいなってすごく思っています。そういう当時のグループのイズムを自分が引き継げるんであれば、やっていきたいなってすごく思っています。大人になっても楽しめる音楽も作りたいし、アイドル時代に自分を応援してくれていた人たちのためにも、カッコよくて可愛くてという要素もちゃんと残したいとすごく思っています。

香野子
香野子

今だったらいくらでも自分の表現で愛を伝えることができる

――先日のライブ(2024年6月8日に有楽町・I'M A SHOWで開催した1st ワンマンライブ<早成>)で、“ロックンロール宣言”をしていましたが、それはどういう理由からだったんですか?

香野子:
シンガーソングライターとしてデビューしてまだ1年くらいなんですけど、これまではずっとアコースティックギター1本でライブをやってきて。あえてオケを使ったライブはやらないでいたんです。私自身、そういう作り込んだ音楽も好きなんですけど、そういうすごい音圧だったり、打ち込みとは違う音でやってきたんですよ。アイドルの頃は音源も相当作り込んでいたし、バンドセットでライブをやる時期もあって……打ち込みで作った音源も、スタジオミュージシャンの方に改めて生のドラムを入れてもらって、ミキシングし直したりとか、そうやってずっとアップデートし続けてきたグループだったんです。そのアップデートを1人になってもやっていきたいという想いがあって。

――アコースティックギターで鳴らしてきた自身の音楽を、アップデートしたいと。

香野子:
“楽曲派”っていう言葉があるじゃないですか。アイドルはみんな音楽をやっているのに“楽曲派って、なんやねん!?”って思ったりもするんですけど(笑)、その曲が好きで、現場には行かないけど音源を聴いて応援するっていう人がいるのは理解できるんですよ。それに、そういうファンが多いのって、めっちゃ強みにもなると思うんですよね。例えば、MVを作ったらそれで喜んでくれたりとか、サブスクに音源を上げることで喜んでもらえたりとか。それにライブもちゃんと意味があるものにしたくて。オフ会や特典会でアイドルとおしゃべりできたらOKっていうものじゃなくて、ちゃんとライブを観に行きたいと思ってもらえるようにしたい。そうするには、やっぱり曲作りに対して真剣に向き合わないと。なので、グループの頃から、楽曲制作にはこだわってやってきたつもりです。

――なるほど。

香野子:
ライブってことで言えば、今、熱いライブをやりたいってすごく思っていて。今の自分ができる、今の自分が作りたい音楽で、どこまでカッコいい、みんなが熱狂できるライブができるんだろうと考えることがあって。自分の中での1つの挑戦ですね。今はしっとりと聴かせる曲が多いライブをやらせてもらっているんですけど、熱いライブをやることが今の目標の1つです。あと、ライブハウスでやりたい! これはずっと思っていることで、無視しちゃいけない気持ちだなと思っていて。そんな想いもあって、来年1月に渋谷WOMBでのワンマンライブなどを目標としたクラウドファンディングを始めたんです。めちゃめちゃカッコいい箱で、自分のできる、渋谷を活かせる、最大限カッコいいライブを目標として頑張っていこうと思っています。

――そういった新しい挑戦をしようと思ったきっかけは?

香野子:
先日のワンマンライブで、イノサイドさんとバンドセットでやったことも大きかったです。イノサイドさんと一緒にスタジオ練習して、自分の曲をアレンジしてもらった時に“めっちゃカッコいい!”って思ったんですよ。その時にライブハウスに立つ自分が浮かんでしまったんですよね。そこは大きなきっかけだったかもしれない。これはカッコいい路線を1回突き詰めてもいいんじゃないかって思ったので。

――そういうふうに新しい変化を求めていく中で、それでも変わらないものは何ですか?

香野子:
うーん、ちょっとキモいんですけど“愛”をテーマにしたいんですよ。グループ時代に“優しい歌を歌いたいのに歌えない”みたいな歌詞を書いたことがあって。アイドル時代はすごく大変だったし、自分のことで精一杯で。でも、お客さんに対しては愛情を持って接していたつもりなんです。ただ、自分が与えられる愛には限りがあることがすごくもどかしくて……いただいた曲の中で、自分の想いをどう伝えていけるんだろうと、あがいていたんです。でも今だったらいくらでも自分の表現で愛を伝えることができるじゃないですか。だから私は、優しい歌を歌いたい。優しい気持ちになれる曲を歌いたい。どんなにカッコいい曲で、刺々しい歌詞でも、そこには絶対に愛を込めて作りたいし、その向こう側にちゃんとお客さんの顔が見えていて……それをすごく意識して曲を作っているんです。

――では、最後に香野子さんの新章のタイトルを教えてもらえますか?

香野子:
難しいな……でも“ラブの追求”ですね。ラブ(LOVE)とは、異性への愛、家族愛、友人愛などさまざまなラブのことで、それを歌にすることによって、ラブの持つ意味をさらに追求するシンガーを目指したい、ということです。

クラウドファンディング『ロック色を強めた音楽活動をスタート!大箱での生誕ライブとアルバム制作に挑戦したい』

202年1月25日(土)の生誕ライブを渋谷WOMBで開催したい! 音楽スタイルをアコースティックにプラスしてバンドセットの活動を増やし、それまでに制作する楽曲で集大成の初のアルバム制作にチャンレンジしたい! さらに、目標を大きく超える場合にはMVを制作したい! 期間は7月31日(水)まで。

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