王道を行く「ゴールデンユース」は“沖縄家系ラーメン”の地平を切り拓く(宮古島)
いま、沖縄でラーメンが活況をみせている。県内ではこれまで長らく、味くーたー(味濃いめ)な豚骨ベースのスープが主流だったが、ここ数年は醤油ベースのクリアかつ繊細な味わいの一杯を提供する店をはじめ、塩や担々麺、まぜそばなどそれぞれの味で個性を放つ人気ラーメン店が増加の一途をたどっている。 当然、豚骨だろうと醤油だろうと塩だろうと味噌だろうと担々麺だろうとまぜそばだろうと、どんな味でもラーメンに貴賤はない。多様化する沖縄ラーメンの魅力を深掘りし、未だ味わっていない人たちには新たなめぐり逢いを、そしてすでに味わっている常連客には再発見を届けていきたい。
今回取り上げるのは、宮古島に新たなラーメンの風を吹き込んでいる「ゴールデンユース」。手掛けるのは「トルネコパーパ」(那覇市)、「ラーメンハイサイ・マハロ」(本部町)、そして「座間味パーラー・マギイ」(座間味村)など、ラーメン店を各地に展開しつつ、県内のラヲタたちの“祭り”として定着しつつある「家系の日」を仕掛ける野崎達彦さんだ。
そもそも「家系ラーメン」とは?
■スタイル ゴールデンユースの看板メニューの1つである「家系ラーメン」は、その名の通り「家」を冠する店舗が提供する豚骨ラーメンの1つのジャンル。家系ラーメンのルーツは1974年に横浜で創業した「吉村家」で、当初コストを抑えるためにスープにはゲンコツ(豚の大腿骨)のみを使い、そこに鶏油(ちーゆ)を合わせていた。 これが家系ラーメンの原型となり、豚骨と鶏油、そして醤油ダレを投入した濃厚なスープに加え、太めでもちもちとした麺、ほうれん草、チャーシュー、海苔をトッピングし、ライスを添えるのが家系ラーメンの一般的なスタイルになっている。 野崎さんは自身が手がける家系ラーメンを「なんちゃって家系」と称しつつ「“沖縄家系ラーメン”という新たなジャンルを確立したい」という野望を語る。 「沖縄独自のジャンルとして打ち立てていけば、本家の家系ラーメンの枠にとらわれず、様々なバリエーションを展開できる。市場に合わせていくんじゃなくて『マーケットを自ら作る』というのが僕らのやり方だし、そうすることで沖縄のラーメン市場を今以上にさらに盛り上げていきたいと思ってるんですよね」
ほぼスタンダード、しかしほんの少し“厚め”の麺
■麺 家系ラーメンの麺は濃厚で塩味が効いた豚骨醤油スープに対峙するため、断面がわずかに平たいやや太めのストレート麺が主流だ。麺の表面積を広げることで適度にスープと絡みながら、小麦の香りも同時に口の中に運び込めるように中加水麺であることが多い。ゴールデンユースではこれらのスタンダードを踏まえて、細かな部分で独自の“チューニング”をしている。 「麺はスタンダードなものとほぼ一緒なんですけど、麺は西崎製麺にお願いして0.2mmだけ厚くしている特注麺です。ストレート麺で、王道の麺よりは加水がちょっと高め。厚みは普通だと1.8〜2.2mmのレンジが王道ですが、人間の口の中ってすごく敏感になっているので、コンマ以下の変化も分かるんです。それも踏まえて、噛み応えも弾力もコシも感じられるようになっていると思います」
当たり前のことを当たり前にやる「王道」の味わい
■スープ ゴールデンユースで提供される家系ラーメンは、このスタイルの「王道」を表現したもの…ではあるのだが、げんこつを100%使用して炊き上げたスープは家系としては珍しいという。上述した家系元祖の吉村家の手法を踏襲しつつ「余計なことをせずに当たり前のことをする」という美学も垣間見える。 「本来だと背ガラ入れたり、鶏ガラや丸鶏でとったりするんです。背ガラや背骨で白濁させるといわゆる博多ラーメンになる。今家系でげんこつ100%のスープというのは意外と珍しいと思います。家系の大事なところは、当たり前のことを当たり前にやることなんですよ。家系は家系なので。カエシ(タレ)で個性を出したりとか、そういうことはやらない方がいい。その点で敢えて言えば、個性はない方が美味しい。あと、沖縄のこの暑さには家系の塩分は合う!」
ダイナミックに千切って食べてほしい“1枚デカ海苔”
■トッピング トッピングは家系の王道から逸れず、ほうれん草、チャーシュー、海苔が配置され、うずらの卵とコチュジャンも添えられる。が、その中で一際目を引くのは海苔の大きさだ。通常はカットされた海苔が数枚スープに差し込まれるようにトッピングされるが、ゴールデンユースはどデカい1枚海苔が壁のように佇んでいる。 「このデカさの海苔は全国でおそらくうちだけです(笑)ぶっちゃけた話、切ったり、並べたりする時に風で飛んでしまったり、細かい欠片が出るのが煩わしくて、いっそ1枚にしようと。これを手で千切って食べるのが、何となくもううちのやり方の定番みたいになりつつあります。千切った海苔をライスに敷き詰めて、麺やチャーシューと一緒に食べるのがおすすめですよ」
「沖縄ラーメン市場」の活況と宮古島出店
冒頭でも触れた通り、沖縄のラーメン業界はここ数年、大きな変化を遂げている真っ只中にある。 以前は沖縄県民の“ソウルフード”である「沖縄そば」が主流だったが、野崎さんによると、約6年前からラーメン店の数が沖縄そば店を上回り、市場規模も拡大しているという。さらに、ラーメン店は離職率が低く、継承しやすいという特徴が影響している面があるとも指摘する。 そんな中、次のステージとして「地方で求められ、子どもでも食べられるラーメン」について考えていた際、トルネコパーパの客やスタッフに宮古島出身者や関係者が多く「宮古島にもトルネコパーパのようなラーメンを出してほしい」という声を直接聞いたとが宮古島出店のきっかけとなった。
出店にあたって宮古島の市場調査を行うと、宮古島には野崎さんが得意とする醤油豚骨や魚介系のラーメン店が少ないことが判明。さらに、月2回のペースで限定ラーメンを提供するという「どんなラーメンでも作れる」強みも発揮することも考慮すれば、十分な勝算の手応えを感じたという。
単なる飲食店を超えた、地域に根ざす「コミュニティ」として
「出店から1年が経って、蓋を開けてみればゴールデンユースの顧客のほとんどは地元の人たちや宮古島に移住している県外の人たちでした。これは当初からの狙い通りの『地域に根差したラーメン』という目標が達成された証だと思うんです」。ゴールデンユースの現時点での評価について、野崎さんはこう話す。 現在のゴールデンユースの「役割」について、野崎さんは「単なる食事提供の場ではなく、“コミュニティ”と捉えています」と強調する。朝食を提供する店が少ない中で、ゴールデンユースが“朝ラー”(=朝ラーメン)営業をするのも、その考えに基づく試みの1つだ。 「色んな人たちが集まって、外出するきっかけづくりになればいいなと。飲食の大事なことは、飲み食いやお金を払うということよりも、誰かに会いに行ったり、遊びに行ったりと、みんなが出かけるような状況を作り出すことだと思っているので。それで外食産業が盛り上がれば1番ですよね」
■店内、駐車場 席はテーブル席のみで、4人がけテーブル×4、2人がけテーブル×4のゆったり仕様だ。オーダーは食券機で食券を購入する。駐車場は店前に7台。
ゴールデンユース住所
〒906-0007沖縄県宮古島市平良東仲宗根427-7 1F
電話番号
090-5390-0141
営業時間
火曜日〜木曜日:9時〜15時30分金曜日〜日曜日:9時〜15時30分、17時30分〜20時
定休日
月曜日
駐車場
7台
クレジットカード・電子マネーの利用
可
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