【インタビュー】調査・整備・活用賞:飛騨市教育委員会~姉小路氏城跡の国指定史跡認定~
城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する「日本城郭協会大賞」。第3回日本城郭協会大賞の「調査・整備・活用賞」に選定された飛騨市教育委員会(岐阜県飛騨市)にお話を伺いました。
<飛騨市教育委員会~姉小路氏城跡の国指定史跡認定~>
飛騨市教育委員会は、飛騨市古川町にある山城群を「中世の飛騨の歴史を物語る城跡」として国指定史跡にするべく2017年(平成29)から綿密な調査を実施。努力が実り、2023年10月20日、古川城跡、小島城跡、野口城跡、向小島城跡、小鷹利城跡の5つの城跡の総称である姉小路氏城跡が史跡指定されました。このような文化財を後世に守り伝える取り組みが評価され、「調査・整備・活用賞」を受賞されました。
調査指導委員会(2020年古川城跡にて)
―お城一城一城をクローズアップさせるのはもちろんですが、複数のお城のつながりや関係性をストーリーとして着目された理由を教えてください。
一般的なお城のモデルとしては、名が知れた大きなお城が主として存在し、その下に支城と呼ばれるお城が複数存在する形が想像できると思います。しかし、飛騨古川ではそうではなく、飛騨国司・姉小路氏の居城と伝わる同規模の少し大きめのお城が5つ(古川城跡、小島城跡、野口城跡、向小島城跡、小鷹利城跡)存在するという形です。
小島城跡石垣
そのため、国史跡を目指すにあたっては、5つの山城を群として指定するという方向性で調査取り組んでいました。その過程で、それぞれの山城には個性があり、存続した期間や地域で果たした役割は違うことが分かってきました。最初は姉小路氏が築くのですが、領主が三木氏、金森氏と変遷すると、そのたびに改修を加えられながら利用されました。
―お城を「建造物」としてだけではなく、その土地の歴史の流れのベンチマークとして捉えたということですね。
お城が先にあるわけではなく、まず戦国時代の支配勢力の領地や領域がありました。その中に配置された複数のお城が、統治や防衛のためにどのような役割を担っていたか、それが時代を経るごとにどのように変化したのか、そういった視点で捉えていくことにしました。
野口城跡畝状空堀群調査状況
―国指定史跡を目指して活動する中で、一番苦労されたのはどんなことでしょうか。
調査や指定の機運を高めていくということを一生懸命行いました。というのも調査を始める前、「歴史的に重要な城がある」というのは地元では一部の方が知っているという状況で、全体には浸透していませんでした。人が訪れるような山城はこの地域には無い、ということを面と向かって言われたこともありました。
小島城跡斜面の石垣調査
―身近すぎて足元の宝に地元の人が気づかないというようなお話は、全国各地で聞きますね…
そのため、まず山城の存在や価値を地元の皆様に知っていただくことが大事だろうということで、地区の会合に学芸員が出席して説明して理解をいただきました。また、調査中には地元の区の皆さんに呼び掛けて現地説明会を開催したり、歴史講座を山城の麓の地区公民館をお借りして毎年順繰りに開催したりするなど、山城のすばらしさや価値をなるべく多くの地元の皆様に伝わるように取り組みました。
その中でも、なるべく本物の価値、調査で分かった新事実を皆様に伝えたいと考えたので、調査に妥協はありません。それが分厚い総括調査報告書※にあらわれていると思います。
※報告書は「全国遺跡報告総覧」サイトからダウンロードできます。
小鷹利城跡礎石建物
―これまでの活動の中で印象深いエピソードはありますか?
調査を始める前の2017年の春、後に調査指導委員をお願いする中井均先生(現・滋賀県立大学名誉教授)に一度現地を見ていただこうということで、市内の山城をご案内したことがあります。ところが予想外に残雪が多く、半ば雪中行軍のようになってしまい、中井先生には大変ご不便をおかけしました。
中井均先生と雪中の山城調査(2017年野口城跡にて)
その3年後の2020年、調査も進んで最後の現場の総括として、中井先生に山城の発掘調査現場に来ていただきました。時期は冬にさしかかるころで雪が心配でしたが、やはり大雪になってしまいました。中井先生には雪が降り積もる中で一緒に山登りして、現場のブルーシートを開けて見ていただきました。まさに雪に始まって雪に終わるという、飛騨の山城らしい調査になったと思います。
―今後の目標を教えてください。
国史跡の指定はゴールではなく、あくまでスタートだと思っています。地域の皆さまが誇りをもって活動できる場となり、訪れた方が山城の素晴らしさや飛騨の戦国武将の城づくりを分かりやすく体験できるような場となるよう、引き続き色々なことにチャレンジしていきたいと思います。
古川城跡虎口の調査状況
ー最後にお城ファン・城びと読者へのメッセージをいただけますか。
いわゆる「三国司※」の一角、一部ゲームなどでも有名な姉小路氏ですが、居城の山城はそれぞれ見どころがしっかりあります(ゲームの姉小路氏は、実際のところは三木氏ですが)。飛騨は自然豊かで観光をするにも魅力的な地域ですので、是非山城巡りにお越しください。
※三国司(さんこくし)とは、室町時代に国司を称した三家のことで、 土佐の一条氏、伊勢の 北畠氏、飛騨の 姉小路氏がそれにあたる。
―ありがとうございました。
【日本城郭協会大賞とは】
公益財団法人移行10周年を記念し、日本城郭協会が2022年に開始した城郭文化の振興に貢献した団体及び個人を顕彰する事業です。小和田哲男理事長を審査員長とする審査会にて「日本城郭協会大賞」を選定します。ほかにも、城郭城址の維持・整備を自主的に行うボランティア団体等を賞する「日本城郭文化振興賞」、城郭文化の普及に寄与した個人・団体を賞する「日本城郭文化特別賞」、2023年から城郭管理者として特筆すべき成果を挙げた自治体等を「調査・整備・活用賞」として顕彰しています。
執筆/城びと編集部 取材協力・画像提供/飛騨市教育委員会