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小林私、恵比寿リキッドルーム・弾き語りワンマンに見た魅力と生のライブの素晴らしさ

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小林私

小林私ワンマンライブ『一つの例を挙げるなら貝の剥き身の展示かな』


2021.08.18 恵比寿LIQUIDROOM

一つの例を挙げるなら、僕らは貝の剥き身の展示を夢中でじっと見ていた。

観客の拍手を浴びながら、ビデオカメラを片手にふらっとステージに現れて。「小林私です!」と挨拶すると、「直前にアルコール消毒してきたら、手がベトベトになっちゃった。みなさんはアルコール消毒や手洗いうがいしてますか? してないヤツはもう……」なんて観客に話しかけて。「家じゃねぇんだぞ!」とツッコミたくなるような緩い空気で始まった、小林私のワンマンライブだったが。「じゃ始めますか」とアコギを鳴らして始まった「後付」の荒々しいイントロからしゃがれた歌声を響かせた瞬間、背筋が伸びるような緊張感が張り詰める。薄っすらとスモークの立つステージでスポットライトを浴びながら、キリッと凛々しい表情に豹変し、ストイックにギターを掻き鳴らす小林。感情たっぷりに歌うのは、弱い自分の暗澹たる艱難辛苦――。

小林私

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半年前のワンマンと比べても明らかに成長した演奏技術と表現力で、1曲目から観る者の心をガッツリ掴んだ小林。観客が惜しみない拍手を送ると、「ありがとうございます。え~、久々にグッズを作りまして」と、余韻を残す間もなくMCが始まる。何ごとも無かったかのような緩い空気が会場を包み、安堵のような、やれやれと言ったような表情を浮かべる観客。この緊張と緩和が計算だったらちょっといやらしいくらいだけど、これこそが彼のスタイルであり、狙いもてらいもない彼の自然体。「……って、いつまでも曲やらなそうだな」と長尺すぎるトークを自分で笑うと、ようやく曲へ。健康を患う「HEALTHY」で綺麗なばかりじゃない自然体を鳴らし、「リブレス」で心地よいグルーヴやうねりを生み出し、「スープが冷めても」のゆったりした曲調に感傷的かつ憂いある歌声で観客を魅了する。

ライブ中盤は、「今日考えてること、昨日考えてることを明日も考えてるか? 5年後も同じことを考えてたら、ちょっと気持ち悪いんじゃないかな?と思うと“日”を付けがち」と自己分析し、「飛日」、「香日」、「恵日」と、シンドくも愛しい日々を様々な角度から描いた楽曲を立て続けに披露。エモーショナルな歌とギターからは心情や心象風景が浮かび上がるだけでなく、ヒリヒリとした痛みまで伝わってくる。この日、改めて思ったのが、いまの小林には弾き語りというスタイルが最適であるということ。そして、生のライブはやっぱり素晴らしいということ。ザクザクと胸を刺す生のギターサウンド、耳と脳にダイレクトに響く言葉と歌声。こんなご時世だからこそ、そしてシンプルで人間味のある弾き語りというスタイルだからこそ、小林の魅力と生のライブの素晴らしさをしみじみと感じた。

小林私

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大学の友達のいとこと共作した「Two man cell.」の弾き語りラップで新たな魅力や方向性を見せると、始まった曲は「泪」。雰囲気たっぷりに始まるも「……う~ん、歌詞が出ない」と曲を止めること2回。思い出すことも諦めて、ぐだぐだとお喋りして。3度目の正直で再々挑戦するもやっぱり途中で止まってしまい、結局、歌うのを諦めるという「わはは、嘘でしょ!?」という展開も生のライブならでは。「僕のライブ遍歴で「泪」が成功したのは2回! でも僕はね、何もミスもなく滞りなく終わったライブは“いいライブ”。めちゃめちゃミスしたとか、色々忘れたなというライブは“最高のライブ”だと思ってるから。最高のライブへようこそ!」と半ば開き直ったように言い放つ小林。その解釈はまんざら間違ってないし、めちゃくちゃ面白かったから全く問題ナシ!

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「サラダとタコメーター」で始まった後半戦は、「泪」のミスを挽回するように「花も咲かない束の間に」、「悲しみのレモンサワー」で堂々とした歌と演奏を聴かせた小林。強烈な熱量を放っていた「光を投げれば」は歌とギターに込めた溢れる想いに圧倒されるほどで、めちゃくちゃカッコ良かった!ここで新曲をしれっと披露して、「生活」でライブは終演。笑いあり、感動あり、失敗ありの人間味に溢れた小林私のワンマンは、観る者に彼の魅力が存分に伝わるものだったし、ミュージシャンとして人間としての小林私への興味をさらに深めてくれるものだった。

取材・文=フジジュン 撮影=かわどう

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