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女優黒沢あすかさんがざわめき立った“女”の部分とは

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映画『親密な他人』インタビュー


(前編)

渋谷ユーロスペースほか全国順次公開の映画『親密な他人』は、第34回東京国際映画祭<Nippon Cinema Now部門>に正式出品された中村真夕監督による注目作品です。

本作はコロナ禍の東京が舞台。最愛の息子・心平が一年前に行方不明になり、その帰りをずっと待ち続けてきた46歳のパート販売員・石川恵の前に、突如20歳の謎の青年・井上雄二が現れます。恵は心平の消息を知っていると語る雄二と親子のような、恋人のような不思議な関係になるのですが…。

主人公・石川恵役を演じたのは女優・黒沢あすかさん。『六月の蛇』『冷たい熱帯魚』はじめ数々の映画・ドラマで鮮烈な印象を刻み続け、本作では愛する人を失っても、身代わりを見つけようとするいびつな母性と狂気を演じています。

今回は、独特な世界観を醸し出す本作について黒沢あすかさんにお話を伺いました!

中村真夕監督は唯一無二

―― 楽しいという表現は相応しくないのかもしれませんが、冒頭のカットから何とも言えない感覚になり、終始見入ってしまいました。「見るな」と言われた後にすぐ見ちゃう神尾楓珠さん演じる雄二の姿は“確かに見ちゃうよな~”と思いつつも、雄二があまりにすぐ見たので可笑しかったです(笑)。映画全体を通じて“秘密”を垣間見ているような作品でした。

黒沢あすかさん(以下、黒沢さん)
人間の性じゃないけど「見るな」と言われれば見てしまう。「鶴の恩返し」じゃないですけど(笑)。そういうところを一つ一つ拾い上げて作品の中に盛り込んでいく中村監督のセンスですよね。

監督は色んな方向にアンテナを張り巡らせていて、頭の中が豊か。若い時に日本を飛び出して留学をしたり、海外で映画も学ばれたり。脳が様々な刺激を受けているからこその視点は、日本人らしくないと言ったら語弊があるかもしれませんが、本当に独特な世界だと思いました。

最近は女性監督の作品に参加することもあるのですが、その中でも監督は独特、唯一無二です。

―― 劇中の多くのシーンが部屋の中で展開されるのに、これだけ感情が揺さぶられることに脱帽です!ロケーションが限られていたので、その分監督は、黒沢さんや神尾さんの演技に懸けていたのではないでしょうか?

黒沢さん
どうでしょうか。この作品は監督にしか書けないと思ったので、私はその中にチェスや将棋の駒としてポトンと置かれたような意識を持ちました。

他の現場はもっと自由というか、俳優から湧き出てくる感情だったり表現方法だったりを“それイイですね”と活用されることが多々あるんです。中村監督の現場は“それもイイですけれども、私の世界観はこうです”と譲れないベースが静かに存在していたように思います。

特に感じたのは、神尾さん演じる雄二が畳の部屋に向かって恵の背中を押し倒す時のワンカットだったり、恵が「まるで圧力鍋の中にいるようだ」と言うシーン。あのシーンに関しては、監督は私の考えや経験も聞くけれども、表現したいことにとてもこだわられていました。何度もテイクを重ねましたね。

―― 監督には、表現したい映像イメージが明確に存在して、それを言葉で伝えてくださるのでしょうか?

黒沢さん
どちらかというと対話を重視していただける感じです。俳優が今この瞬間に感じたこと、あるいは台本をもらった段階から思ったこと、そういったものを聞き出そうとしてくださる監督でした。

―― かなり独特な方なのかなと想像はしていましたが、ズバリなんですね?

黒沢さん
独特ですね。やはり唯一無二です!

ざわめき立った“女”の部分

―― 本作の出演について「中村監督とめぐり逢い、眠らせていたもう一人の自分がざわめき立ちました」とコメントされていますが、その“ざわめき”についてお聞かせいただけますか?

黒沢さん
私の中でざわめき立った部分は“女”としての部分です。

『冷たい熱帯魚』(2010年・園子温監督)以降、心身ともにあのようなエキセントリックな女性の役にやりきった感があったんです。

もっと遡ると私は11歳からこの世界にいるのですが、子役の段階から演じてきたんです。少女で居ながら大人をたぶらかすとか、社会人の男性を罠にハメる女子大生とか、若い肉体を武器にして男性を手玉に取るとか。それがある時から好んで演じるようになりました。

役者を志したときに私が取り組みたかった役は、人間の心情を深く掘り下げたような、相手役の方としっかり台詞を交わして、ハッピーエンドだったり、相手に投げかけるお話だったり、そういう作品をやりたかったんです。でも、”自分がこの世界で生き残れるか”を考えた時に、エキセントリックな役を求められるならば、とことん突き詰めようと思ったんです。

その時に頑張ったことで評判になり、当時のスタッフさんから私の所属していた児童劇団に連絡が入って、そこから一気に台詞のあるお仕事が増えていきました。人をたぶらかすとか騙す、そのうち人と抱き合うとかキスをする、二十歳になる頃には自然と裸が必要になってくる役柄に変化して。

でも、裸で表現することも含めて「私の生きる道」だと気付いた時から漠然と“(裸の演技は)受け入れざるを得ない状況になるだろう”と予測してたので“ああ、来たな”と。だったらいっそう明確に女を武器にした役柄を攻めていこうとひた走った。そのゴールが『冷たい熱帯魚』だったので、役柄をやり切っていたので遠ざけていたんです。

でも、時々自分の中で“うわぁー!としたい”、その一方で“自分は女なんだよなぁ”と思う時がフッとある。だけど、どうしてそういう気持ちが浮かんでくるのかは分からない。

中村監督に「あすかさんの女の部分が必要だ。唯一無二だ」という嬉しい言葉をいただいた時に“あっ、私は女の部分を見せる演技をもう一度やりたがっていたんだ。確かに幸が薄いお母さん役に憧れていたけれども、出来たら女がチラホラ見えるような役をやりたいと実は思っていたんだ”って気付かせてもらえた瞬間でした。

―― 中村監督との出会いは運命だったのかもしれませんね。
雄二に対して顔を撫でたり近くで囁いたりしますが、それは女としての行動なのか、それとも母性として出てくるものなのか。一方で、雄二に迫られた時には受け入れない恵がいて、そこに女の魅力と謎を感じてしまいました…。

黒沢さん
やっぱり女性って入り乱れているんでしょうね。

囁いたり撫でたりが作品に織り込まれているということは、監督がOKをしたことなんです。それは黒沢あすかとしての魅力も多分存分に出してもらった。一方で、女は天気のように入り乱れている、猫の目のようにコロコロと心情が変わる、それが女であると考えているからOKが出たのではないかと感じました。

女は一筋縄ではいかない。色んなタイプの女性が存在する。それは男性にも言えることですよね。その中で、自分にとって良くも悪くも受け入れることが出来る相手と巡り会うか会わないか。その中で恵が求めたのは男ではなくて息子。そして、もし20代まで生きていたらこんなかな?あんなかな?と想像する。物色すると言ってもいいですよね、引っ掛けているわけですから。

子宮が欲している。子宮は覚えている。乳房は覚えている

―― まさに、恵から引っ掛けていますよね!?

黒沢さん
物色するんですもん。世の中にある色んなツールを使って発信しているわけですから。そこは明確にやろうと計画を立てているわけです。そういった部分は、心じゃなくて子宮がそうさせているんじゃないかなって思いました。子宮が欲している。子宮は覚えている。乳房は覚えている。

私にも3人の息子がいて、長男は22歳です。
よく子どもの匂いは炊飯器の匂いだと言いますけど、感覚として何となく当時の3人の息子をそれぞれ思い出すと、何となく鼻がムズムズするんです。あの当時の匂いを探るように鼻が息づくっていうんですか。そういう感覚にはなります。

お風呂で自分の体を洗って何気なく自然と自分の胸に手が当たった時に、子どもにオッパイをあげていて、子どもがハムハムやってくれたのと同時に、小さい手でギュウってやってくれるんです。そのギュウってやってもらっている感覚を感じる。明確じゃないんですけど、そういう感覚が湧いてくるんです。

だから、お風呂場で雄二の髭を剃ったりするシーンも、演じた私の感覚としてはやっぱり子ども……。

だから私の中にはエロスは一つもないんです(笑)。
でも、それをエロスだったりスリラーと言ってくださるのは観た側の受け止め方で良いと思います。それが映画の面白さであり、映画自体が歩いているなって感じられる瞬間でもありますので。

(後編へ続く)

『親密な他人』特報映像

キャスト

黒沢あすか
神尾楓珠
上村侑
尚玄
佐野史郎
丘みつ子

監督・脚本

中村真夕

公式HP:http://www.cine.co.jp/shinmitunatanin
2021年/日本/カラー/96分   
© 2021 シグロ/Omphalos Pictures

3月5日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

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