【新連載】息子は「モワット・ウィルソン症候群」!?知的障害・希少難病の子育て19年の歩みをお話しします
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
生後1ヶ月で脳内出血!
まずは長女のお話。
出産時は何事もなく、よく飲み、よく眠る健やかな赤ちゃんでした。ところが1ヶ月健診の前日の夜中、いつもと明らかに違う異常な泣き方、おっぱいを飲んでもすぐ噴水のように吐く。「こりゃおかしい!」と救急に駆け込むも、「お腹がちょっと張って苦しいのかな、様子見で」と帰されてしまいました。
帰宅後少し落ち着いたものの、翌朝何となくグッタリしているので近所の小児科へ行くと「大泉門が腫れている!今すぐ大きい病院に行って!」と……。
脳の検査をした結果、左脳の広範囲で出血していたのでした。もう少し発見が遅かったら、脳幹まで達して命を落としていたそうです。
てんかんとの長い長い闘い
血腫除去手術でなんとか一命を取り留めましたが、「脳の言語野部分に大ダメージを受けているので一生話せない、大きな麻痺が残って歩くこともできないかもしれない」と言われ、卒倒しそうになりました。
とはいえ、右手足の麻痺はあったものの、割と順調に育ってくれました。
しかし……生後6ヶ月から始まった点頭てんかんを皮切りに、涙なしでは語れない長い長い闘いが始まりました。
抗てんかん薬漬け(多いときは5剤!)の日々を救ったのは、2回にわたる「てんかん外科手術」でした。
11歳から19歳になる今に至るまで一度も発作を起こさず、服薬もなくなりました。この3月に特別支援学校を卒業、現在は作業所(就労継続支援B型)に付き添いなしで通所し、毎日楽しく働いています。
モワットウィルソンってなんなのよ?
さて、次は次男の話。
私たち夫婦は、ずっと子どもは3人ほしい!と思っていました。長女の障害は後天的なものでしたので、遺伝子異常による疾患の心配はあまりせず、長女の発作や日常生活も少しずつ落ち着いた頃、次男を出産しました。
ところが、妊娠中も出産時も何の問題もなかったのに、1ヶ月検診で「心臓に雑音がある」との診断を受け、またもや大きな病院へ。「動脈管開存症」(先天性心疾患のひとつ)が見つかり、身体や内臓が発達する7ヶ月まで待ってから手術を受けました。手術を受けるまで心臓への負担を避けるため、泣かせすぎないようにするのがしんどかったです。
幸い手術で完治したものの、1歳3ヶ月になっても歩く気配なし、発語まったくなし……。一般的に、男の子は女の子より発達がゆっくりとはいいますが、長女のこともあったので早めに療育(発達支援)をスタートしました。それでもなかなか発語がなく、手先が異常に不器用、歩き方もぎこちない。
そんな時、主治医からの「遺伝子のスクリーニングしてみる?」との打診に飛びつきました。2年半ほどのスクリーニング期間を経て、「おそらくモワット・ウィルソン症候群でしょう」と。
「モワット?はぁ?」でした。おいおい、弟にも障害があるのか……しかも国内に100人未満の疾患って……。要は突然変異タイプの遺伝子疾患なのですが、次男は特性や特徴が表にはまったく出ていなかったため、いろいろな角度から何度もスクリーニングしてやっと分かったそうです。モワット・ウィルソン症候群についても、どこかで詳しく紹介したいと思います。
長女より何百倍も大変かもしれない……
次男は赤ちゃんの頃は理由もなく突然火がついたように泣くことが多く、夜中の睡眠も浅く短かったです。身体が大きくなってくると、癇癪を起こして自分の頭を叩いたり床に足を激しく踏み鳴らす「自傷行為」が激しくなっていきました。
長女もてんかんがあったり一部介助が必要だったり大変でしたが、その何百倍も大変でした(もちろん今も大変!)。とにかく毎日「怒りのスイッチ」が入らないよう気を遣っています。
早めにスタートして今も続けている療育(発達支援)のおかげか、学校や学童などでの集団生活では癇癪を起こすことなく過ごせているようです。なのに、家では「怒りスイッチ」がオンになると嵐を巻き起こす男に大変身。言葉の指示が入りにくいし、発語がなく彼自身いろいろ吐き出せないので、嵐をやり過ごす時間はまさに地獄絵図です……。
ゆ~っくりのんびりな長女と、はちゃめちゃ次男との日常生活、そしてこれまでの園・学校生活での出来事やさまざまな事件(!)をたくさん紹介していきたいと思います。
読んでビックリ、時にホッコリと楽しんでいただけたらうれしいです!
執筆/かめ子
(監修:室伏先生より)
長女さんと次男さんの診断に至るまでの経過や日常生活における困難さを、かめ子さんのお気持ちも交えて共有くださり、ありがとうございます。長女さんは、小さな頃から発作や多くの抗てんかん薬との長い戦いをくぐり抜けてきて、その負荷は計り知れないものだったはずです。今、毎日楽しそうに作業所へ通えているのは、ご家族から注がれてきた深い愛情と支えの賜物ですね。次男さんがご自宅で癇癪を起こしてしまうのも、それだけおうちが安心できる場所だからこそ、心のしんどさを素直に出せているのかもしれませんね。そんな日々の大変さを受け止めながらも、ユーモアとあたたかい語り口で綴られている文章を読ませていただき、かめ子さんの強さやあたたかいお人柄を感じました。これからも、ご家族でたくさんの喜びや成長を積み重ねていけるよう、応援しております。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。