Yahoo! JAPAN

「学生制作アプリ」を芝浦工大が公式認定。大学に掛け合った学生の開発秘話

マイナビ学生の窓口

「学生制作アプリ」を芝浦工大が公式認定。大学に掛け合った学生の開発秘話

左から、芝浦工業大学情報イノベーション部次長の我妻隆宏さん、理工学研究科修士1年の佐藤衡平さん

「世界に学び、世界に貢献するグローバル理工系人材の育成」を教育理念に掲げる芝浦工業大学。授業への参加や課題提出などに必要な学内ポータルサイト『ScombZ(スコームツー)』は、日々学生と教職員に利用されているものの「使いにくいという声が多く、改善の必要性は認識していた」と情報イノベーション部次長の我妻隆宏さんは話す。

※scombz ホーム画面

そこへ、自身も芝浦工大の学生で、現在は大学院に通う理工学研究科修士1年の佐藤衡平さんが工学部情報通信工学科3年時に『ScombMobile (ScombAppの原型)』を1人で制作。一利用者として感じていた使いにくさを解決したいという想いで、形にした自作アプリだ。

「学生制作アプリ」を芝浦工大が公式認定。大学に掛け合った学生の開発秘話

不便を解消するために開発した『ScombMobile』

「開発しようと思ったきっかけは、非常に言いにくいんですけど、ユーザーとしてポータルサイトが使いやすいものじゃなかったのが、結構なモチベーションでした。時間割や教室を確認するためには、学校のポータルサイトに毎回ログインをしないといけない、そういうところが非常に不便だなと感じていました」(佐藤さん)

感じていた不便さを解消するため、自動ログインでポータルサイトを表示できるアプリを作ろうと、2022年に着手し、現在の『ScombApp』の原型となるアプリをわずか1週間足らずで一気に開発した。

「初期に開発したのは自動ログインと課題確認の機能でした。まずは授業の直前でもアプリを開いただけで教室がすぐにわかる機能が欲しかったんです。また、課題確認ができる機能は、ポータルサイトだとお知らせが二か所に分かれていて、それを毎回見に行くのは非常に面倒だなと思っていたので、一か所で確認できるようにまとめました」(佐藤さん)

※scombapp ホーム画面

プログラミングを始めたきっかけは、大学1年時にJava入門という授業を受けたことだった。Javaで何かできないかと考え、Androidアプリが作れることを知って開発に挑戦してみようと思い立ち、専門書を読み込んで開発に必要な技術はほぼ独学で身に付けた。

「その頃はちょうどコロナ禍で時間に余裕があったっていうのもあります。何もやることがなかった時期だからこそ、アプリ開発に関する本を読み込んで、やってみようと思えたのかもしれません」(佐藤さん)

公式認定の大きな壁となるセキュリティリスクはAPIで解決

芝浦工業大学情報イノベーション部次長の我妻隆宏さん、デザイン工学部2年の村瀬 礼さん、理工学研究科修士1年の佐藤衡平さん

日本国内では、これまでも大学側が提供するポータルサイトや履修登録情報など、学生がより使いやすい形にとWEBサイトやアプリを制作する取り組みはこれまでもあったが、公式認定において障壁となるのは、情報セキュリティ面においての課題だった。

「当時3年生だった佐藤さんからアプリの提案があったとき、前例がなかったため対応に困惑しました。既存の学習管理システムは使いにくいという声は多く、改善の必要性は認識していたものの、非公式なアプリにログインID・パスワードの入力を許可することはセキュリティリスクが伴うため、難しいと考えていました。しかし、学生にとって利便性が高いことは明らかですし、なんとかして公式アプリとして採用できる方法は無いかとを検討しました。」(我妻さん)

初期段階ではアプリの作り方に課題があったため、学習管理システムのデータベースとアプリをつなぐためのAPIを新たに開発することで課題解決に取り組んだ。学生の個人情報保護を最優先に考慮して大学がアプリを管理する形に移行し、公式に提供できる状態に整えてリリースに漕ぎつけた。

「学習管理システム自体はパッケージソフトのためカスタマイズが難しく、本体のシステムの動作に影響を与えないようにする必要がありましたので大変な部分もありましたが、佐藤さんはもちろん、運用チームに手を挙げてくれた学生の協力もあって、スムーズな運用を実現できたと思います。現在は大学が公式アプリとして提供し、学生がアルバイトとして開発に関わる形で進行しています」(我妻さん)

学生発のアプリ開発はインターンシップにも役立つ “実務経験”を得られる場へ

左から、デザイン工学部2年の村瀬 礼さん、理工学研究科修士1年の佐藤衡平さんと筆者

デザイン工学部2年の村瀬 礼さんは学内に貼りだされた『ScombApp』のアルバイト募集ポスターを見て応募した現在の運用メンバーの一人で、ネイティブコード*のAndroid部分を担当している。

*ネイティブコード
iOSやAndroidといった特定のプラットフォーム向けに、そのプラットフォームの言語やライブラリを使って直接書かれたコード。ネイティブコードを使うことで、デバイスの機能を最大限に活用することができる。

「大学ではUX、UIといったデザインを中心に勉強していて、最近はスマホアプリのUIについて特に学んでいます。『ScombApp』はおそらくですが、自分の周りでは9割程度は使っていると思います」(村瀬さん)

「募集のポスターは僕がデザインしたので、それを見て応募してくれてすごく嬉しいです。実際に使っていただいている方を学校のエレベーターでお見かけして、自分の知らないところまで広がっていることをそこで初めて実感したときや、同級生がX(旧Twitter)で告知してくれたのもめちゃめちゃ嬉しかったです」(佐藤さん)

※佐藤さんがデザインしたポスター

佐藤さんの今後の目標は、“新しいことにチャレンジしようと思っている学生が、チャレンジしやすい環境を作る”ことだ。

「例えば、自分が経験したアプリ開発のインターンは、応募するにも何らかの実務経験が必要でした。経験を積むために求人を探してみても、実務経験が必要なアルバイトが圧倒的に多くて。なので、芝浦工大生が実務経験を積むためのファーストステップに『ScombApp』の開発アルバイトが役立つよう、学内アルバイト制度を立ち上げました。何かやりたいと思ったら気軽に応募できる場として、今後もこのコンセプトを大切にして長く続いてほしいな、後輩にこの思いを継承していきたいなと思っています」(佐藤さん)

大学院を卒業した後は、アプリ開発やUX、UI、現在大学の開発アルバイトで行っているプロジェクトマネージャーという職種について興味を持っているという。

「自分が制作したアプリが、何事もなくいろんな人の端末の上で動いているところを見ると安心します。誰かの生活を少しでも+αで良くしている、楽しくしているっていう実感があるのがいちばん嬉しくて、また頑張ろう、挑戦してみようという気持ちになります」(佐藤さん)

左から、理工学研究科修士1年の佐藤衡平さんと筆者

自分が所属している研究室や環境にとらわれず、興味があることに挑戦し続けている佐藤さん。筆者も同じ修士1年として、私も頑張ろう!と思えた。佐藤さん率いる開発チームのこれからの活躍からも目が離せない。

取材・文/櫻井 奏音

(ガクラボメンバー)

【関連記事】

おすすめの記事