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三味線奏者・鶴澤寛太郎が語る『うめだ文楽』の魅力とはーー「芸の継承をしっかり受け継ぎながら精一杯、背伸びして、円熟したものをお見せできるようにしたい」

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鶴澤寛太郎 撮影=田浦ボン

2015年、在阪民放テレビ局と、グランフロント大阪にあるナレッジキャピタルが組み、日本を代表する伝統芸能であり、ユネスコ無形文化遺産にも認定されている「人形浄瑠璃文楽」をもっと幅広く楽しんでほしいというコンセプトのもと、スタートした『うめだ文楽』。昨年は新型コロナウィルスの影響で公演は中止したが、2021年3月26日(金)~28日(日)まで大阪は梅田にあるナレッジシアターにて、1年越しの公演を開催する。今回の演目は2017年の第3回目で公演した「義経千本桜~河連法眼館の段」を再演。しかも今や演劇では当たり前であるダブルキャストスタイルを、文楽公演で初めて行う。この『うめだ文楽』の中心メンバーで平成30年度「咲くやこの花賞」の受賞を始め、数々の賞に輝き注目されている、若き三味線奏者、鶴澤寛太郎に話を訊いた。

ーー昨年は記念すべき6回目を迎えるはずだった『うめだ文楽』の公演が中止となり、さらにホームグラウンドである国立文楽劇場の公演も中止や延期を余儀なくされていましたが、その間、寛太郎さんはどうされていました?

言うと驚かれるんですけど、本当に何もしてなくて、ただ日々、寝転がってテレビ見たり、ネットで映画を見たり、携帯でゲームするという生活をしていたんですよ。そして、ひたすら自炊をし、お酒を飲むという、これまでの人生の中でこんな怠惰になるかっていうくらいのステイホームでした(笑)。去年の初めの頃は劇場の稽古場も使えたので、公演があると信じて『うめだ文楽』はもちろんですけど、4月、5月にやるはずだった舞台の分まで稽古をし続けてたんです。でも、緊急事態宣言が出て稽古場も閉鎖になってしまったので、家に三味線を持って帰ったものの、住んでるのはマンション。大っぴらには稽古ができない、音も出せない、他の方たちも当然、家に居てはるしで、それでも腕固めというウォーミングアップのような筋肉トレーニングのような反復練習を三味線に手ぬぐいをかけて少しでも音を小さくしながらやってたんですけど、何日かすると嫌んなってしまって、結局1ヶ月半ほど全く三味線を触らなくなって。でもこのまま腕や指が退化してしまったらどうするんやろかと、さすがに怖くなって、再び腕固めから始めて三味線に触れるようになりました。そんな頃、緊急事態宣言も解除となり、8月22日に国立文楽劇場主催の『文楽素浄瑠璃の会』を開催するということになり、稽古場も再開したので、その公演に向けて本格的に稽古をするようになりました。この会、人間国宝をはじめとした幹部の方々がお出になる、むちゃくちゃ格上で内容的にも大きな舞台やったんで、ステイホーム明けの復帰舞台としては、とてもありがたかったと同時にすごいプレッシャーで……。とはいえ、それがかえって自分を鼓舞させてくれたので稽古に打ち込めました。

鶴澤寛太郎

――本格的な公演再開で復帰はいつだったんですか?

9月の東京公演でしたね。もうお客様の拍手が本当に温かくて、自分がデビューした時よりもはるかに記憶に残るような、そんな拍手でしたね。公演中も、もしクラスターなどが起こったら、中止になるんじゃないだろうかと不安がつきまとっていましたけど、そのあと大阪でも本公演を開催することができました。今年明けてからの公演も、再び緊急事態宣言が出て、公演時間を夜の8時までとしたので、急遽内容や休憩時間を調整対応しながら、なんとか楽日まで辿り着けたんで、まだまだコロナ禍ではありますけど、少しだけ安心しました。それだけに3月に『うめだ文楽』ができることは心から嬉しいです。

――そんな『うめだ文楽』、今回は2017年の「義経千本桜~河連法眼館の段」の再演ですね。

2017年に公演した時、ものすごく好評いただいて、過去一番反響があったそうです。で、主催者側からも「もう一回やりませんか?」とお話をいただいて、本来なら昨年やらせていただくはずだったんですけど、今回はそのリベンジでもあります。

――今回は文楽では初のWキャストということですが、この試みについては?

基本、文楽は人形遣いさんの主役級が変わるというのはないので、『うめだ文楽』ならではの試みだなと思います。本公演に比べ公演数は少ないが配役や演目に工夫があり、経験が積めるというのが大きいと思います。人形遣いは3人で行いますけど、主遣い(首・右手)が変われば左遣い(左手部分)、足遣い(両足)も変わりますから、同じ演目を経験できるのはこれまでになかったことなので、ある意味、違う人形遣いさんの競演を楽しむのもいいかもしれませんね。とは言え、逆に床(語り役の太夫、三味線奏者)が変わる方が人形遣いさんは大変やと思うんです。

鶴澤寛太郎

――今回再演される「義経千本桜~河連法眼館の段」の三味線奏者としての聴かせどころは?

この演目、狐が出てきます。その動きなどは見せ場として有名なのですが、三味線弾きも同様に狐の動きを表現した演奏をするので、普段、普通の義太夫を聴いていただいてる方にとってはそこが少し変わって聴こえるかもしれませんし、初めて聴かれる方は、そのクセが強い部分を注意して楽しんでいただくといいかもしれません。あと最後ですね、連弾き(つれびき)が入ってくれるのですが、そこは三味線が二丁になりますから、本当にパワーで押して盛り上げていくところは、いかにもクライマックスという感じがあって、僕らにとっては弾きどころであり、聴かせどころやと思いますね。特にそこまで50分くらい、僕が作ってきた舞台の空気の中に、途中から入ってくる連弾きは難しいんです。まず入りにくいですからね。で、そこに必死についてきてくれて乗り切ってくれる。うまくリズムに乗らないと、かえって邪魔になってくるので、奏者の鶴澤燕二郎もうまいことやってくれるでしょうし、期待もしてます。やっぱり途中からひとり奏者が増えると、「ここから新たに行くぞ」という感じがしますし、二人で弾くと、共鳴するものが増えるんで、僕としても助かるんです。最後、残ったパワーを全部、絞り切るくらいの感じでやれたらと思います。

鶴澤寛太郎

――次回の『うめだ文楽』での公演も含めて、寛太郎さん自身がやってみたい演目とかはありますか?

規模にもよりますけど、個人的には演目を丸々やるというよりは、いいとこ取りのアンサンブルやガラ的なことができたらなと思いますね。例えば「義経千本桜~知盛幽霊の段」のところの、幽霊の表現とか、「阿古屋」の琴、三味線、胡弓の三種の楽器を弾く場面とかできたらいいですね。あと、『うめだ文楽』に限らず、以前からずっと『鬼滅の刃』が文楽向きだと言い続けてきてたんですけど、そもそも今回のやらせていただく「義経千本桜」も含めて文楽とファンタジーは相性が良いんです。『鬼滅の刃』は時代設定が大正時代じゃないですか、文楽の演目の中でいちばん新しい時代背景って、ファンタジーみたいなものを除くと、明治時代くらいまでなんですね。だから大正時代に少し時代を前進させて(笑)、色々クリアしていかないといけないこと山ほどあると思うので、いつか実現させたいなと。『うめだ文楽』でその一部でもできたらと、秘かに野望を抱いてます(笑)。

――なんだか絵が浮かびますね。では最後に今回の『うめだ文楽』への意気込みを教えていただけますか。

若手が必死になって取り組んでいますし、今回のために本公演の合間を縫いながら師匠たちに稽古をしてもらってます。お師匠はんによっては、わざわざ現場まで見にきていただいたりもしてますので、その芸の継承をしっかり受け継ぎながら精一杯、背伸びして、そして再演ゆえのさらに円熟したものをお見せできるように、初めてのお客様にも王道のものを見せられるようにしたいと思ってます。

鶴澤寛太郎

取材・文=仲谷暢之(アラスカ社) 撮影=田浦ボン

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